ゼネコン(総合建設会社)準大手の戸田建設がM&Aにアクセルを踏み込んでいる。照準を合わせるのは「海外」と「再エネ(再生可能エネルギー)」。国内建設市場が縮小に向かう中で、成長領域での事業展開を加速する狙いだ。
暮れも押し詰まった昨年12月末、戸田建設はシンガポールに置くアジア・オセアニア統括会社のトダ・アジアパシフィックを通じて、ニュージーランドのホテル運営会社「コヒーレント・ホテル」(オークランド)を買収すると発表した。コヒーレントが実施する第三者割当増資を約55億円で引き受け、株式51%を取得する。
現地当局の承認を得たうえで取得完了は今年1月以降を見込む。戸田建設としてオセアニア地域にいよいよ“本格上陸”することになる。
昨年11月には、ブラジルで陸上風力発電事業に取り組むウシナ・エオリカ・カステイラ A(リオグランデ・ド・ノルテ州)、ウシナ・エオリカ・カステイラ B(同)の現地2社の全株式を取得し、子会社化することを決めた。戸田建設は2021年9月、ブラジル北東部のリオグランデ・ド・ノルテ州で陸上風力発電を稼働させており、これに次ぐ第二弾となる。買収金額は非公表。
ブラジル北東部は世界的にも年間を通して風況の優れた地域があり、陸上を中心に風力発電の開発が活発化し、発電設備の供給や運営保守、送変電設備などインフラ面の整備が進んでいるという。今回の第2期事業では年間発電量4億キロワットアワー(第1期は1億1800万キロワットアワー)を予定し、2025年2月稼働を目指す。
戸田建設のブラジルでの活動は半世紀に及ぶ。1970年代初め、「ブラジル戸田建設」(サンパウロ)を設立し、建設工事で実績を積み、現地で人脈やパイプを築いてきた。しかし、近年は業績が振るわず、債務超過状態にあったことから、ブラジル戸田建設について昨年4月、現地投資会社に売却。ブラジルでは陸上風力発電に経営資源を集中させる。
戸田建設は2022年5月に、3カ年の「中期経営計画2024ローリングプラン」を策定した。最終年度の2025年3月期に売上高6000億円程度、営業利益330億円以上、最終利益260億円以上を目標に掲げる。
中計で打ち出したのが建設事業の競争力強化と、成長投資を通じた事業ポートフォリオ改革だ。成長投資では3年間で1900億円を計画。現在建設中の新本社「新TODAビル」、「海外事業」、「再エネ事業」を3本柱に据え、資金を振り向ける。その手立ての一つがM&Aにほかならない。
◎戸田建設の業績推移(単位は億円)
2021/3期 | 22/3期 | 23/3期 | 24/3期予想 | |
売上高 | 5071 | 5015 | 5471 | 5400 |
営業利益 | 276 | 243 | 141 | 160 |
最終利益 | 197 | 185 | 109 | 195 |
海外事業の主戦場と位置付けるのが東南アジアだ。1988年にタイ戸田建設(バンコク)を設立し、日系進出企業向けを中心に工場、倉庫などの建設工事に乗り出した。
ベトナムでは1993年にハノイ駐在員事務所をスタートした後、2009年に100%出資のベトナム戸田建設(ホーチミン)を設立。なかでも政府開発援助(ODA)関連の病院、学校の建設工事で高い評価を得たという。
現行の中期計画がスタートした2022年8月には、インドネシアの中堅ゼネコンであるタタムリア・ヌサンタラ・インダ(TATA、ジャカルタ市)に追加出資して子会社化した。約40%だった持ち株比率を67%に引き上げた。取得金額は非公表。2020年10月にTATAの第三者割当増資を引き受け、持ち分法適用関連会社としていた。
こうした中、昨年8月、シンガポールに設立したのが地域統括会社「トダ・アジアパシフィック」だ。東南アジアへの日系企業の進出支援に力を入れるほか、タイ、ベトナムでは日系企業の工事にとどまらず、現地企業からの受注拡大を促進する。オセアニアでは事業基盤の確保を最優先としており、その手始めがニュージーランドで昨年末に手がけたホテル運営会社の買収だった。
1972年に進出から50年余となる米国では現在、不動産事業に特化してカリフォルニア州でビジネスを展開している。
再エネの取り組みはどうか。ターゲットは国内、海外ともに風力発電事業。ブラジルでは陸上風力発電を展開しているが、国内では洋上風力発電を推進中だ。
その舞台は長崎県五島列島。子会社の五島フローティングウィンドファーム(五島市)を事業主体とし、五島市沖で浮体式の洋上風力発電所の建設が進行している。出力2100キロワットの風車を8基を浮かべる計画で、1つの風車は海中に沈んだ部分を含めて全長176.5メートルに及ぶ。
運転開始は2024年1月を予定していたが、浮体構造部に不具合が見つかり、2024年1月から2026年1月に延期された。ゼネコン各社にとって風力発電事業は注力分野の一つで、どう巻き返すのか注目される。
実は、大黒柱の建設事業でもM&Aを仕掛けた。2021年に茨城県の地場大手、昭和建設(水戸市)を傘下に収めた。これに先駆け、2018年には福島県最大手の佐藤工業(福島市)を子会社化。元請けレベルでの地域間連携にも積極的に取り組んできた。
戸田建設は1881(明治14)年に創業し、140年を超える歴史を持つ。とりわけ大学、病院や官庁関連の工事で名をはせてきた。今秋、東京・京橋に完成する新本社ビル「TODA BUILDING」(地上28階)は同社の技術を結集し、世界最高水準の耐震性能や環境性能を盛り込み、先進技術のショールーム機能を併せ持つ。新本社を足場に、次の飛躍を期すことになりそうだ。
◎戸田建設の沿革
年 | 主な出来事 |
1881年 | 初代戸田利兵衛が土木建築請負業を開業 |
1908年 | 戸田方から戸田組に名称変更 |
1936年 | 株式会社に改組し、戸田組を設立 |
1963年 | 戸田道路を設立 |
〃 | 戸田建設に社名変更 |
1969年 | 東証2部上場 |
1971年 | 東証1部上場 |
1972年 | ブラジルに「ブラジル戸田建設」を設立 |
〃 | 米国に「アメリカ戸田建設」を設立 |
1987年 | 島藤建設(東証2部)と合併 |
2018年 | 地場建設会社の佐藤工業(福島市)を子会社化 |
2020年 | ブラジルに投資事業子会社「戸田インベストメント・ブラジル」を設立 |
2021年 | 地場建設会社の昭和建設(水戸市)を子会社化 |
2022年 | 東証プライム上場に移行 |
〃 | インドネシアの建設会社「タタムリア・ヌサンタラ・インダ」を子会社化 |
〃 | 戸田道路(東京都中央区)を完全子会社化 |
〃 | 戸田ビルパートナーズ(東京都江東区)を完全子会社化 |
2023年 | ブラジル戸田建設(サンパウロ市)を現地投資会社に譲渡 |
〃 | アジア太平洋地域統括会社「トダ・アジアパシフィック」をシンガポールに設立 |
〃 | 五島市沖洋上風力発電事業の開始時期を2026年1月に延期すると発表 |
〃 | ブラジルで陸上風力発電事業の2社を子会社化 |
2024年 | ニュージーランドのホテル運営会社「コヒーレント・ホテル」を子会社化へ |
〃 | 新本社ビル「TODA BUIDING」が秋にオープン |
文:M&A Online
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