テンポスホールディングス(HD)は飲食店向け中古厨房機器販売で業界トップに立つ。その絶好のポジションを生かし、物件紹介・内装工事、集客・販促、採用・研修、資金調達など飲食店経営をトータルに支援している。傘下にはステーキレストラン「あさくま」を持ち、飲食事業の経験も豊富だ。多面的な事業展開の原動力の一つがM&Aに他ならない。
テンポスHDは7月末、回転ずし・海鮮居酒屋を運営するヤマト(千葉県鴨川市)の全株式を取得し、子会社化すると発表した。取得金額は明らかにしていない。ヤマトの2023年5月期の売上高は約67億円。
テンポスHD傘下のあさくまの直近売上高は62億円(2023年3月期)。ヤマト買収により、グループの飲食事業の規模は一気に2倍に膨らみ、120億円を超える。ヤマト買収は9月11日に完了する予定。
ヤマトは1981年に設立。鴨川を中心に房総の漁港の買参権を持つほか、豊洲市場(東京都江東区)などで仲卸として各地の鮮魚を売買している。こうした強みを生かし、外食や小売りに事業を広げてきた。
現在、回転ずし「やまと」11店をはじめ、海鮮居酒屋「山傳丸」、鮮魚小売・持ち帰りずし店「ヤマト水産」、持ち帰りずし店「ヤマト寿司」などを千葉県を中心に約20店舗展開する。また、浜焼きなどの飲食店と土産物店を併設した観光施設「房総の駅とみうら」(千葉県富浦町)を営む。
ヤマトは2017年2月に国内投資ファンドのアスパラントグループ(東京都千代田区)の傘下に入り、事業承継問題に伴う経営体制の再構築を進めてきた。
テンポスHDの2023年4月期業績は売上高7.9%増の312億円。営業利益18.6%増の22億2000万円、最終利益8.7%減の14億2700万円。事業の柱は3つ。売上高の約7割を占める中古厨房機器販売(物販事業)を大黒柱とし、飲食店経営支援(情報・サービス事業)、飲食店経営(飲食事業)が続く。
ステーキレストランを展開するあさくまを買収したのは2011年のことだ。あさくまには2006年に資本参加していたが、追加出資で株式の過半を取得して子会社化した。赤字が常態化していたあさくまの経営を立て直し、2019年に東証ジャスダック(現東証スタンダード)への上場に導いた。
子会社化した当時、あさくまの売上高は30億円弱だったが、上場当時は90億円を超えた。コロナ禍で52億円に落ち込んだ売上高も現在は60億円台まで回復。「ステーキのあさくま」65店をはじめ、もつ焼き居酒屋「エビス参」、インドネシア料理「スラバヤ」を合わせて75店舗を運営している。
それにしても、中古厨房機器販売を本業とする会社がどうして飲食店の経営に自ら乗り出したのか。
◎テンポスHDの業績推移(単位は億円)
2021/4期 | 22/4期 | 23/4期 | 24/3期予想 | |
売上高 | 270 | 290 | 312 | 350 |
営業利益 | 9.8 | 18.7 | 22.2 | 27.5 |
最終利益 | 1.9 | 15.6 | 14.2 | 16.5 |
テンポスHDは1997年に中古厨房機器の販売・買い取りに乗り出した。商売柄、閉店する飲食店を数多く見てきた。同社によると、外食産業の5年後の生存率は45%、居酒屋、ラーメン店だと3年で70%が閉店しているという。
こうした中、商売が立ちいかなくならないように、飲食店経営を総合的に支援する事業に軸足を移してきた。厨房機器の取り扱いにとどまらず、店舗設計や内装工事、店舗用不動産の紹介、リース・クレジット事業など開業支援サービスの充実に努めてきた。2017年には、飲食店の採用難への対応を目的に、人材派遣のディースパーク(大阪市)を子会社化した。
その名も「Dr.テンポス(ドクターテンポス)」。テンポスグループが飲食店の「専門医」として顧客の病気治療(集客、販促、教育などの改善措置)や、終末医療(閉店支援)を担うというものだ。一連の取り組みを通じて、「飲食店の5年後の生存率45%を90%にする」を目指している。
実は、テンポス自身が「あさくま」などの飲食店を経営するのもその一環をなす。飲食店の立て直しや事業拡張などの経験・ノウハウを身に付けることで、厨房機器販売の顧客である中堅飲食店に対するコンサルタント業務に生かす狙いがある。
もちろん、今回のヤマト買収は飲食事業自体の拡大にも大きく寄与する。飲食事業では年商500億円規模を目指しており、今後、外食関連で大型M&Aが飛び出す可能性がある。
テンポスHDの屋台骨を支える物販事業では厨房機器をはじめ、業務用家具、食器、消耗品、販促用品など飲食店開業に必要なものをフルラインで取り扱う。現在全国に63店舗を展開する。5年後をめどに120店舗体制に倍増する計画だ。
これらの実店舗は飲食店経営を支援する「Dr.テンポス」の最前線基地を担う。店舗に配置する“ドクター”の養成に力を入れている。
昨年5月には飲食店の販促・経営支援に関し、ぐるなびと業務提携。ぐるなび出向社員で構成する外販部隊による営業活動もスタートした。飲食店の閉店案件があれば、ぐるなび出向社員と店舗再生を進めたうえで、売却もしくは自社店舗として買収する方針だ。
2014年にはLIXIL傘下で業務用厨房機器販売のサンウエーブテクノキッチン(現キッチンテクノ、東京都新宿区)を子会社化し、大手飲食チェーン、スーパーに対する直販営業体制を整えた。近年は「テンポスドットコム」による厨房機器のインターネット販売も伸びている。
テンポスHDは中長期目標として「1000億円企業」を掲げる。具体的な時期は明示していないが、その道程でM&Aが重要なカギとなることは間違いない。
◎テンポスHDの歩み
年 | 主な出来事 |
1992 | 高齢者の能力開発研修などを目的に「矍鑠」として設立 |
1997 | テンポスバスターズに社名を変更し、中古厨房機器販売に乗り出す |
2002 | 株式を店頭登録(2004年ジャスダック市場に上場) |
2011 | ステーキレストラン運営のあさくまを子会社化 |
2014 | 厨房機器販売のサンウエーブキッチンテクノ(現キッチンテクノ)を子会社化 |
2017 | 持ち株会社制に移行し、テンポスホールディングスを発足 |
〃 | 人材派遣業のディースパーク(大阪市)を子会社化 |
2018 | 中古厨房機器買い取り・修理のウエスト厨機(札幌市)を子会社化 |
2019 | 子会社のあさくまが東証ジャスダック(現東証スタンダード)に上場 |
2022 | 市場区分見直しに伴い、東証スタンダード市場に移行 |
2023 | 9月、回転ずし・海鮮居酒屋など運営のヤマト(千葉県鴨川市)を子会社化へ |
文:M&A Online