【ソーシャルワイヤー】「選択と集中」で業界最大手ベクトルを追う

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ソーシャルワイヤー<3929>が「選択と集中」に動き出した。5月12日に国内シェアオフィス事業を、ヒューリックに譲渡すると発表したのだ。これに伴い、業績好調のデジタルPR事業と新規事業に経営資源を集中させる。

基幹事業の国内シェアオフィス事業を譲渡

に国内シェアオフィス事業を会社分割して設立する新会社「CROSSCOOP」(東京都中央区)の全株式を14億7200万円で譲渡する。譲渡予定日は2023年9月1日。

ソーシャルワイヤーは2008年からベンチャー・中小企業向けのシェアオフィス「CROSSCOOP」を運営し、国内10拠点で事業を展開している。今回譲渡するのは9拠点の事業で、売上高14億6000万円、営業利益5600万円を稼いでいた。

同事業の売上高営業利益率は3.8%。2022年3月期の全社連結決算の売上高営業利益率3.5%に比べれば高いものの、新型コロナ禍や大手不動産会社のシェアオフィス事業への参入などで市場環境の厳しさが増している。

さらに2023年3月期連結決算は全社で8億7600万円の営業赤字、7億2700万円の最終赤字を予想するなど、苦戦している。経営の柱の一つであるシェアオフィス事業の売却益で、経営の立て直しを図る方針だ。

ライバルのベクトルにどう対抗するか

ソーシャルワイヤーの業績を脅かしているのが、同社のもう一つの経営の柱であるデジタルPR事業のライバルであるベクトル<6058>の存在だ。同事業の成長株であるプレスリリース配信事業では、ソーシャルワイヤーの「アットプレス(@Press)」が、2005年12月設立のベクトル子会社のPR TIMESを追う展開だ。

業績比較 ソーシャルワイヤー ベクトル
決算期 2022年3月期 2022年2月期
売上高 46.30 473.51
営業利益 1.64 52.48
売上高営業利益率 3.5% 11.1%
経常利益 1.37 52.01
純利益 0.28 20.71

ソーシャルワイヤーは2008年2月にアットプレスを子会社化して同事業に参入した。同月にはアップステアーズも子会社化し、シェアオフィス事業の「CROSSCOOP」に参入している。同8月にはアットプレスとアップステアーズを吸収合併し、親会社の主力事業と位置づけた。2008年は同社の事業基盤が固まった歴史的な1年だったと言える。

M&Aで獲得した2本柱のうち国内シェアオフィス事業から撤退し、プレスリリース配信をはじめとするデジタルPR事業に特化することになった。

@Pressはプレスリリースの作成に当たって、1人の担当者が校正から配信先選びまで一貫して対応しているのが特徴。同社担当者がきちんと配信先を精査して発信しているため、関係ないメディアに送るといったムダも少ない。掲載されたかどうかのチェックサービスもあり、プレスリリースを発注する側の利便性も高いという

高利益率のデジタルPRで「新規事業を買う」M&A

ベクトルとの競合はデジタルPR事業全体で起こっている。例えばインスタグラムを中心としたインフルエンサーに企業の商品やサービスを実際に利用してもらい、その体験を投稿してもらうSNSの広告手法であるインフルエンサーマーケティング。ソーシャルワイヤーは「Find Model(ファインドモデル)を展開している。

Find Modelで抱えているインフルエンサーは6000人を超えているという。このうちフォロワー1万人超のインフルエンサーは3000人、同10万人超のインフルエンサーは500人ほど所属しており、2022年3月時点でのべ1億8000万フォロワー以上に情報発信できる強力なマーケティングツールだ。

2016年9月に同サービスに参入。2018年5月にはFind Modelを子会社化し、2020年4月に同社を吸収合併して親会社本体の事業として取り込んでいる。

このように同社はM&Aで新規事業に参入し、成長性が見込める場合は本体に取り込む「新規事業を買う」M&Aで成長を続けたきた。デジタルPR事業の2022年3月期の売上高は26億3200万円、営業利益は5億9300万円で、売上高営業利益率は22.6%と高い。

シェアオフィス事業売却の「次の一手」として、新規事業となる企業買収に乗り出すことになるだろう。どの事業を取り込むのかはまだ分からないが、市場が成長しておりシナジー効果が見込めるデジタルPR事業から選択することになりそうだ。

ソーシャルワイヤーの沿革

年月 出来事
2006年 9月 前身となる未来予想を設立
2008年 2月 アットプレスを子会社化し、プレスリリース配信サービス「@Press」運営開始
2008年 2月 アップステアーズを子会社化し、シェアオフィス「CROSSCOOP」運営開始
2008年 8月 アットプレスとアップステアーズを吸収合併
2011年 1月 SOCIALWIRE SINGAPORE PTE. LTD.をシンガポールに設立
2012年 1月 ソーシャルワイヤーに社名変更
2012年10月 クリッピングサービス「@クリッピング」運営開始
2014年 1月 メディア・アイズを子会社化し、 クリッピングサービス「@クリッピング」を強化
2014年 4月 メディア・アイズを吸収合併
2015年12月 東京証券取引所マザーズ市場に株式公開
2016年 4月 Entrehub (Thailand) Co., Ltd.を子会社化し、CROSSCOOPバンコクをタイ・バンコクに開設
2016年 4月 トランスマートを子会社化し、クラウド翻訳「TRANSMART」運営開始
2017年10月 取引先チェックサービス「RISKEYES」運営開始
2018年 3月 ネットスケットから事業を譲受し、イベント集客・運用「everevo(イベレボ)」運営開始
2018年 5月 Find Modelを子会社化し、インフルエンサーマーケティング「Find Model」運営開始
2019年 4月 サブスクリプション型プレスリリース配信サービス「NEWSCAST」開始
2020年 4月 Find Modelを吸収合併
2020年
5月
ミャンマー最大の美容メディア「YUYU Beauty」を事業譲受し、子会社YUYU BEAUTY Company Limitedを設立
2023年
9月
国内シェアオフィス事業をヒューリックに譲渡(予定)

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online