【渋沢倉庫】30年ぶりの企業買収を決断、今後のM&A戦略は?

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渋沢倉庫・創業の地に立つビルに本社を構える(東京都江東区)

近代ニッポンにおける資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一(1840~1931)。生涯に500余りの企業・団体の設立にかかわったとされ、その1つが渋沢倉庫だ。現在、全国に3900社近くある上場企業のうち、「渋沢」の名を冠した唯一の企業でもある。

三井倉庫ホールディングス、三菱倉庫、住友倉庫の3強に規模で及ばないものの、渋沢倉庫は準大手の立ち位置を安定的に確保してきた。コロナ後を見据え、M&Aへの向き合い方も積極姿勢が目立ち始めている。

ほぼ30年ぶりの企業買収

渋沢倉庫は5月末、静岡県を地盤に倉庫・運送業を手がける平和みらい(静岡市)を子会社化すると発表した。7月中に株式を追加取得し、19.5%(間接保有を含む)の持ち株比率を61.8%に引き上げる内容。取得金額は明らかにしていない。

実は、こうした企業買収はほぼ30年ぶり。1991年、国内フェリー輸送などに強みを持つ日正運輸(現連結子会社、東京都江東区)を傘下に収めて以来となる。

平和みらいの直近業績(子会社との単純合計)は売上高44億9000万円、営業利益1億3600万円、最終利益1億1300万円。設立は1950年で、70年を超える業歴を持つ。2016年には同社自身が冷凍・冷蔵輸送のヤマコー・テクノ流通(静岡市)を子会社化している。

渋沢倉庫は静岡県に物流基盤を確保し、東西間の陸上運送におけるスイッチング拠点としての活用を見込む。平和みらいは県内の三島から浜松まで東海道沿線の各地に物流拠点を置き、保管から荷役、流通加工、共同配送、調達物流まで総合物流サービスを提供している。

なかでも、平和みらいが強みとするのが菓子・食品、日用品の共同配送。各メーカーの商品を自社物流センターに集めたうえで、さまざまな商品を1台のトラックに積み合わせて配送するもので、車両台数の削減、渋滞緩和、ドライバー不足などに役立つとして期待されている。

新中計にM&A推進を盛り込む

渋沢倉庫は長らく企業買収から遠ざかっていたが、なぜここへきてアクションを起こしたのか。その答えは2021年5月に策定した3カ年の新中期経営計画(2022年3月期~24年3月期)に見て取れる。

新中計では物流事業の競争力強化に向けて「強みの明確化」と「業域の拡大」を重点課題に掲げ、その手立てとしてM&Aを積極的に推進する方針を盛り込んだのだ。

渋沢倉庫は飲料・日用雑貨といった特定品目の取り扱いや、東名阪・千葉地区へのエリア・ルートの集中などを差別化のポイントとしている。こうした流れに合致する形で今回、平和みらいを傘下に取り込むことになった。

これに先立ち、今年3月には書類・フィルム保管、機密文書の廃棄などの業務を手がけるデータ・キーピング・サービス(東京都千代田区)の株式を追加取得した。所有割合をこれまでの19.5%から49%に引き上げて持ち分法適用関連会社としたが、事実上の子会社化に近い。こちらは業域拡大の一環だ。

データ・キーピング・サービスの前身は第一勧銀書庫センター。第一勧業銀行(現みずほ銀行)グループが伝票・文書などの集中管理を目的に1972年に設立した。

◎渋沢倉庫の沿革

主な出来事
1897 渋沢栄一を営業主として東京・深川に渋沢倉庫部を創業
1909 渋沢倉庫を設立
1950 東京証券取引所に上場(現東証プライム)
1969 国際航空貨物に進出
香港に現地法人を設立
1981 大宮通運(さいたま市)を子会社化
1991 日正運輸(東京都江東区)を子会社化
2002 上海に現地法人を設立
2009 ホーチミンに現地法人を設立
2013 マニラに駐在員事務所を開設
2014 横浜市にR&D施設を備えた複合物流施設「渋沢ABCビルディング」を完成

ベトナムの物流企業Vinafcoに出資し、持ち分法適用関連会社化
2018
ダイドードリンコとダイドー・シブサワ・グループロジスティクス(大阪市)を設立
2020
渋沢陸運と親和物流の子会社2社を合併(渋沢陸運が存続会社)
2022
3月、データ・キーピング・サービス(東京都千代田区)の株式を追加取得し持ち分法適用関連会社化

7月、倉庫・運送業の平和みらい(静岡市)の株式を追加取得し子会社化

渋沢家直営の事業として始まる

「わが国の商工業を正しく育成するためには、銀行・運送・保険などと共に倉庫業の完全な発達が不可欠だ」。東京都江東区永代2丁目、運河沿いの敷地に立つ記念碑の冒頭に刻まれている。ここは渋沢倉庫発祥の地で、かつては渋沢の私邸があった。

渋沢邸内に前身の渋沢倉庫部が発足したのは1897(明治30)年。自ら営業主となって渋沢家直営の事業として立ち上げた。近代的倉庫を求める産業界の要望や、銀行業務に伴う担保品を保管する施設の必要性が急速に高まっていたという時代背景がある。

1909年、渋沢倉庫部を株式会社に改組し、現在の渋沢倉庫が誕生。関東大震災(1923年)で被災し、隅田川を挟んでほど近い中央区茅場町に本社を移したが、2009年に86年ぶりに発祥の地に本社(渋沢シティプレイス永代内)を戻した。敷地内には江東区登録史跡「渋沢栄一宅跡」と記した案内プレートが設置されている。

創業からすでに125年。倉庫業界では三井倉庫ホールディングス、三菱倉庫、住友倉庫の旧財閥系3社が大手を形成する。これに日本トランスシティ、渋沢倉庫が準大手として続く。

「1000億円企業」の仲間入りへ

コロナ禍が長期化する中で、足元の業績はどうか。新中期経営計画の初年度である2022年3月期は売上高9.8%増の717億円、営業利益24%増の45億円、最終利益91%増の52億円で、2年ぶりの増収増益となった。倉庫、港湾運送、陸上運送、国際輸送の取り扱いがそろって増えたほか、中国の現地法人を連結対象としたことなどが寄与した。

売上高構成は物流事業が約92%に対し、不動産事業が約8%。物流事業では陸上運送が全体の半分近くを占め、倉庫、国際輸送、港湾運送と続く。海外物流拠点は中国、香港、ベトナム、フィリピンに置く。

中計最終年度の2024年3月期予想(M&Aは織り込まず)は売上高730億円、営業利益45億円。もっとも、数字を見る限り、保守的と言わざるを得ない。

昨年5月、新中計のスタートと同時に策定したのが長期ビジョン「Shibusawa2030」。2030年度を見据え、売上高1000億円を掲げる。

その実現に向けて両輪と位置づけるのは他でもない「強みの明確化」と「業域の拡大」。カテゴリーNO.1の物流サービスの確立とともに、物流の枠を超えたアウトソーシングサービスを事業の柱に育てることができるのか。“封印”を解いたM&Aにアクセルを踏み込む場面が増えそうだ。

渋沢倉庫の業績推移(単位億円、23/3期は予想、24/3期は計画)

21/3期 22/3期 23/3期 24/3期
売上高 653 717 718 730
営業利益 36 45 46 45
最終利益 27 52 32

文:M&A Online編集部