【センコーGHD】1兆円企業へ「両利きの経営」の一翼担うM&A戦略|中央化学にTOB

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センコーグループホールディングスの本社(東京都江東区)

センコーグループホールディング(GHD)は総合物流大手の一角を占める。成長の原動力とするのが既存事業の深掘りと、新規事業の推進だ。こうした「両利きの経営」の一翼を担ってきたのは積極的なM&A戦略に他ならない。M&Aに長けた同社だが、昨年末に初めてTOB(株式公開買い付け)に踏み切った。

プラ製食品容器の中央化学にTOB

TOBのターゲットとしたのは三菱商事傘下でプラスチック製食品包装容器メーカーの中央化学(東証スタンダードに上場)。生活関連の事業領域拡大が狙いで、これまでの卸売りにとどまらず、上流の製造にも進出する。TOBは2段階で行われ、中央化学の親会社の三菱商事から全保有株式70.64%を取得したうえで、残る株式を一般株主から買い取る内容。買付代金は約70億円で、センコーとして過去最大のM&Aとなる。

第1回TOBは2022年12月に完了し、すでに中央化学を子会社化。これを受けた第2回TOB(2月7日に終了)を経て、完全子会社化の運びだ。

中央化学は1961年に設立。当時主流だった紙や木製品に代え、プラスチック製食品包装容器を業界に先駆けて開発したことで知られる。米国事業からの撤退などによる財務悪化に伴い、2011年に三菱商事の傘下に入った経緯がある。三菱商事は非公開化後の中央化学に40%再出資し、引き続き同社の経営に関与する予定。

中央化学の2022年3月期業績は売上高476億円、営業利益7億8700万円、最終利益6億1700万円。足元の2023年3月期も売上高は前年並みを確保するが、プラスチック原料高騰や電力・物流費の上昇が直撃し、一層の減益を強いられる見通し。値上げ効果が浸透する2024年3月期以降、センコーの連結業績に大きく寄与することになりそうだ。

「1兆円企業」へ中期計画始動

センコーの2023年3月期業績予想は売上高12.3%増の7000億円、営業利益7.8%増の267億円、経常利益3.4%増の270億円、最終利益5%増の160億円。20年連続の増収、14年連続の経常増益を確実にしている。

事業内容は物流事業、商事・貿易事業、ライフサポート事業、ビジネスサポート事業の4つに分類される。売上高のうち、物流事業が70%強を占め、家庭紙卸を中心とする商事・貿易事業が21%で続く。

ライフサポート事業は健康、生活、食領域を担い、もう一方のビジネスサポート事業は不動産、情報、人材派遣などの領域をカバーしている。

今期スタートした中期経営5カ年計画では最終年度の2027年3月期に売上高1兆円、営業利益450億円を掲げる。売上構成としては物流事業6450億円(2022年3月期4406億円)、商事・貿易事業1950億円(同1461億円)、ライフサポート事業800億円(同288億円)、ビジネスサポート事業300億円(同77億円)、その他事業500億円(新規)を想定している。

5年間で総額2900億円の投資を計画。物流商業施設、車両、荷役設備などに2000億円、M&A、IT、環境関連に900億円を振り向ける。自社車両台数は中計始動時の約6700台から1万台に増やす。M&Aにもさらにアクセルを踏み込む構えだ。

◎センコーグループホールディングスの業績推移(単位億円)

2021/3期 22/3期 23/3期(予想) 27/3期(計画)
売上高 5724 6231 7000 10000
営業利益 215 247 267 450
経常利益 222 261 270
最終利益 142 152 160

M&A、コロナ以降に拍車かかる

センコーグループホールディングスは1月末に2023年初のM&Aとして、電気や水回り、カギなど緊急対応時の駆け付けサービスを展開するARS(東京都台東区)の全株式を取得し、子会社化した。2017年に買収した家事代行のイエノナカカンパニー(東京都千代田区)との連携を進め、生活支援サービスの拡充を目指す。

センコーは主なものだけで20件を超えるM&Aを手がけている。その範囲はライフサポート事業、ビジネスサポート事業の新規領域にとどまらず、既存の物流事業、商事・貿易事業を含めて事業ポートフォリオ全般にわたる。とりわけ、2020年のコロナ以降、拍車がかかっている。

大黒柱の国内物流では2020年にUACJ傘下のUACJ物流(名古屋市)、長瀬産業傘下のナガセ物流(現センコーナガセ物流、兵庫県尼崎市)をそれぞれ子会社化。さらに今年3月末には、日立造船傘下のオーナミ(大阪市)がグループ入りすることが決まっている。海外物流では2021年に豪州AIRROAD、2022年にシンガポールAIR PLANNERを傘下に収めた。

商事・貿易事業では家庭紙卸のアズフィット(東京都中央区)を2021年に、カルタス(東京都中央区)を2022年に相次いで子会社化。家庭紙卸業界は人員不足や物流費高騰、小売価格の低迷などに直面し、収益確保が課題となっている。センコーは2013年に子会社化したアスト(大阪市)との卸3社体制による運営効率化とシェア拡大につなげる。

スポーツクラブ、クリーニング…

新規領域のライフサポート事業、ビジネスサポート事業でもM&Aの取り組みはひっきりなしだ。その一つが昨年7月、大阪ガス傘下で関西を中心にスポーツクラブ事業(約60施設)を展開するオージースポーツ(現COSPAウエルネス、大阪市)の子会社化。オージースポーツは売上高は100億円規模で、1981年の設立から業歴40年を超える業界の名門だ。

センコーはグループ企業を通じて山梨県を中心にスポーツクラブ事業を手がけている。オージースポーツの買収で事業エリアを関西圏に広げるとともに、介護事業と連携した新サービスに開発などを予定する。

2021年には岡山県を中心に中四国や兵庫県西部に約200店舗を持つクリーニング大手のダイヤクリーニング(岡山県倉敷市)を傘下に収めた。また、2021年から2022年にかけて在留外国人の人材派遣を手がける2社を子会社化した。

戦後、「扇興」の名前で再出発

センコーの歴史は古い。前身企業が1916(大正5)年、日本窒素肥料(現チッソ)の専属物流会社として誕生したことに始まる。戦後、「扇興」の名前で再出発。その名前には日本窒素肥料のシンボルマークだった扇を再興するという志が込められたという。

「1兆円企業」の仲間入りに向け、順当であれば、業績は1~2年後に“胸突き八丁”にさしかかる。既存事業の拡大・深化と成長事業の創出・育成という「両利きの経営」の真価が一段と試されることになりそうだ。

センコーグループホールディングスの主な沿革
1946年 扇興運輸商事を大阪市に設立
1947年 扇興運輸に社名変更
1973年 センコーに社名変更
1990年 東証1部に上場(2022年4月にプライム市場に移行)
2009年 物流サービスの東京納品代行(千葉県市川市)を子会社化
家庭日用品卸の丸藤(神戸市)を子会社化
2011年 包装資材・雑貨卸のスマイル(東京都江東区)を子会社化
2013年 紙製品卸のアスト(大阪市)を子会社化
2014年 冷凍食品輸送のランテック(福岡市)を子会社化
2017年 家事代行サービスのイエノナカカンパニー(東京都千代田区)を子会社化
センコーグループホールディングスに社名変更し、持ち株会社制に移行。本社を東京に移転
JX傘下で海上輸送の日本マリン(東京都港区)、栄吉海運(岡山県玉野市)を子会社化
貨物輸送の安全輸送(横浜市)を子会社化
2018年 航空・海上輸送のタイBest Global Logisticsを子会社化
2020年 装飾品・服飾雑貨卸の寺内(大阪市)を子会社化
UACJ傘下のUACJ物流(名古屋市)を子会社化
長瀬産業傘下のナガセ物流(現センコーナガセ物流、兵庫県尼崎市)を子会社化
2021年 家庭紙卸のアズフィット(東京都中央区)を子会社化
オーストラリアの物流企業AIRROADを子会社化
在留外国人の人材派遣を手がけるセルフ・グロウ(名古屋市)を子会社化
クリーニング大手のダイヤクリーニング(岡山県倉敷市)を子会社化
2022年 家庭紙卸のカルタス(東京都中央区)を子会社化
航空・海上輸送のシンガポールAIR PLANNERを子会社化
大阪ガス傘下でフィットネス事業のオージースポーツ(現COSPAウエルネス、大阪市)を子会社化

三菱商事傘下の中央化学をTOBで子会社化
2023年 1月、暮らしの駆け付けサービスのARS(東京都台東区)を子会社化
3月、日立造船から物流子会社のオーナミ(大阪市)を子会社化

文:M&A Online編集部