【三光マーケティングフーズ】居酒屋事業の苦境打破なるか 「水産事業」育成へM&A

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三光マーケティングフーズが展開する居酒屋「金の蔵」(都内)

居酒屋チェーン「金の蔵」などを展開する三光マーケティングフーズ。長期化する新型コロナウイルス感染拡大の直撃で外食企業の多くが疲弊しているが、同社も例外ではない。コロナ前に比べ、直営店舗数は3分の1に縮小し、売上高は5分の1に激減した。

逆境下、活路を求めて水産事業を立ち上げ、その一環として11年ぶりの企業買収に取り組む。また、海外での本格的な事業展開を見据え、10月1日付で「SANKO MARKETING FOODS」に社名変更する。反転攻勢の狼煙(のろし)となるか。

総合居酒屋からの脱却に遅れ

三光マーケティングフーズが8月半ばに発表した2021年6月期業績は売上高71%減の21億円、営業赤字17億円(前期は20億円の赤字)、最終赤字18億円(同27億円の赤字)と極めて厳しい内容だった。

売上高は2年前の2019年6月期(107億円)の2割まで落ち込だ。もっとも、原因は昨年来のコロナ禍だけではない。すでに営業赤字は4年連続、最終赤字は5年連続。根底にあるのが主力事業の総合居酒屋を取り巻く環境変化だ。

総合居酒屋は凋落傾向がはっきりして久しい。かつては絶大な支持を集め、店舗数を競ってきたが、今や「何ら特徴のない居酒屋」としてとらえられ、集客力が低下。総合居酒屋は大型店舗を多数抱えてきたが、需要減とともに逆に弱みとなり、業績の足を引っ張る状況となった。

こうした中、総合居酒屋からの脱却と大型店の整理・再編を進めていたところに、コロナ禍が直撃。臨時休業や営業時間短縮で売上高が急落し、不採算店舗の閉鎖による減損処理などで大赤字に陥った。

2021年6月期末時点での店舗数は直営29、運営受託21、FC(フランチャイズ)4の計54店舗。なかでも直営店舗数は2年前の100店舗から3分の1以下に減った。今や「金の蔵」は14店舗にとどまり、「東方見聞録」「月の雫」といった往年の主力ブランドも姿を消した。一方、現在育成中の居酒屋「アカマル屋」、焼肉店「焼肉万里」は郊外に位置する中小型店舗で、コロナ禍でも善戦中という。

◎三光マーケティングフーズの業績推移(単位億円、店舗数は運営受託店、FC店を含む)

19/6期 20/6期 21/6期
売上高 107 73 21
営業損益 △9.9 △20 △17
最終損益 △15 △27 △18
純資産 41 19 4.8
店舗数 111店 88店 54店

沼津の漁協と提携、水産事業に進出

居酒屋事業が総崩れの様相を見せる状況下、どう攻勢に転じるか。三光マーケティングが失地挽回に向けて取り組みを始めたのが水産事業だ。

ちょうど1年前の昨年9月、沼津我入道漁業協同組合(静岡県沼津市)との業務提携を発表した。日本の漁業活性化と相互の事業発展を目的とし、三光は首都圏の系列店舗に魚を供給するとともに、EC(電子商取引)サイトなどを通じて全国に沼津の魚の魅力を発信する。

昨年11月には共同プロジェクトの第一弾として沼津港食堂街に定食店「まるが水産」をオープンしたが、運営を担うのは三光だ。また、沼津直送鮮魚の寿司を提供する新業態「まるがまる」の1号店を昨年11月に神奈川県横須賀市、続いて今年2月に高田馬場に出店した。

そして水産事業の基盤構築に向けて次の一手として繰り出したのがM&Aだ。

生鮮魚介卸の「海商」を子会社化

三光マーケティングフーズは8月末、民事再生手続き中で生鮮魚介卸の海商(浜松市)が会社分割して設立する新会社の全株式を取得し、子会社化すると発表した。進出間もない水産事業の基盤づくりが狙いだが、買収案件としては2010年にパスタ店「元祖壁の穴」運営のチボリを子会社化して以来、実に11年ぶりだった。

海商は1979年に設立。冷凍マグロの取り扱いで知られ、スーパーマーケットや鮮魚店、飲食店などに幅広く販路を持ち、韓国やフィリピンにも拠点を展開。しかし、海外事業が足を引っ張ったうえ、コロナ禍で飲食店向け販売の低迷が重なるなどして行き詰まった。売上高は2017年3月期当時の65億円から半減していた。

三光をスポンサーとする再生計画は9月13日に静岡地裁で正式に認可が決定。これを受け、三光は予定通りに11月1日付で海商の事業を引き継ぐ新会社を傘下に収める(取得金額は非公表)。海商が培ってきた生鮮魚介卸の強みを生かし、飲食事業の業態・商品力の強化、新たな販路の開拓につなげるほか、沼津で始めた水産事業との相乗効果を引き出したい考えだ。

三光はこの8月に沼津魚市場での買参権(競りに参加する権利)を取得。沼津我入道漁協を通じて市場で流通する水産物を購入してきたが、新たに市場から直接仕入れることができようになった。

現在、計画しているのが「水産DXプラットフォーム」。魚市場での競りについて、自社だけでなく、同業他社の飲食店舗や小売店などもITツールを介して参加できる、いわゆる“バーチャル競り”を実現するシステムを構築するという。行く行くは全国の他の港への横展開を模索する。

「東京チカラめし」香港にお目見え

三光は1977年に東京・神田のJRガード下で、カレーと牛丼の店として創業。1980年代に居酒屋業態に進出し、1990年代後半には居酒屋での「個室」導入で業界の先べんをつけた。さらに2008年のリーマン・ショックに端を発する大不況期には低価格の全品均一(300円以下)の居酒屋を1年足らずで東京23区を中心に約80店舗を大量出店し、話題を呼んだ。

それだけではない。一世を風靡したといえば、焼き牛丼「東京チカラめし」だ。2011年から展開し、一時は約130店舗まで拡大し、大ブレイクした。この頃、全社の売上高は250億円を超え、総店舗数も250を突破し、絶頂にあった。

ところが、2014年、「東京チカラめし」の店舗の大半を売却。米国産牛肉の高騰や競合激化で軌道修正を迫られ、居酒屋事業に集中することとしたのだ。その居酒屋事業も縮小に次ぐ縮小を重ね、今日にいたる。

「東京チカラめし」は今年、香港にお目見えした。現地企業とのライセンス契約により、6月に1号店、8月下旬に2号店がオープンした。「東京チカラめし」は国内では現在3店舗に過ぎず、香港を足掛かりに海外で息を吹き返すことになるのだろうか。

三光は10月1日に「SANKO MARKETING FOODS」に社名を変更する。水産事業、海外事業はいずれも緒に就いたばかり。新たな収益の柱に育てられるか、新生SANKOの国内外でのカジ取りが注目される。

主な沿革
1975 東京・神田で創業
1977 三光フーズを設立
1983 組織変更に伴い、株式会社化
1984 「だいこんの花」を東京・渋谷に開店
1991 「東方見聞録」を東京・渋谷に開店
1996 スパゲッティ専門店「パスタママ」を東京・新宿に開店
2000 「月の雫」を東京・赤坂に開店
2002 三光マーケティングフーズに社名変更
2003 ジャスダック上場
2004 「黄金の蔵ジパング」を東京・新宿に出店
東証2部上場
2008 中華料理「周之家」運営のアジアンエイトを子会社化
2008 「金の蔵Jr.」を東京都調布市に出店
2009 全品300円居酒屋「金の蔵Jr.」を展開
2010 パスタ店「元祖壁の穴」運営のチボリを子会社化
2011 「東京チカラめし」を東京・池袋に開店
2014 「東京チカラめし」68店舗をカラオケチェーンのマックに譲渡
「アカマル屋」をさいたま市に開店
2015 「焼肉万里」をさいたま市に開店
2020 沼津我入道漁業協同組合(静岡県沼津市)と業務提携
2021 4月、香港の千源集團有限公司と「東京チカラめし」に関するライセンス契約締結
10月、社名を「SANKO MARKETING FOODS」に変更
11月、生鮮魚介卸の海商(浜松市)を子会社化

文:M&A Online編集部