【クオールHD】総合ヘルスケアカンパニーに前進、第一三共子会社を250億円で買収

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クオールホールディングスの店舗(東京都中央区)

目指すは「総合ヘルスケアカンパニー」。こんな掛け声とともに、調剤薬局大手のクオールホールディングス(HD)<3034>がM&Aにアクセルを踏み込んでいる。調剤薬局事業を基軸に、周辺・関連領域に事業を広げてきた。その一つが4年前に進出した医薬品製造。今年5月、同社として過去最大となる買収を発表したが、ターゲットに定めたのは医薬品メーカーだった。

過去最大の250億円を投じる

クオールHDが傘下に収めるのは第一三共エスファ(東京都中央区)。第一三共<4568>のジェネリック(後発)医薬品子会社で、250億円を投じて全株式を取得する。2024年4月までに株式51%を取得し、将来的に持ち株比率を100%とする。

クオールHDとして100億円を超える大型M&Aは過去に1度だけで、2016年に新潟・山形県で85店舗を展開する調剤薬局の共栄堂(新潟市)を134億円で子会社化したが、今回、これを大きく上回る。

第一三共エスファは2010年に設立し、新薬メーカーから許諾を得て、新薬と同一の原薬や添加物、方法で製造する「オーソライズドジェネリック(AG)」製品に強みを持つ。2023年3月期の業績は売上高787億円、営業利益128億円、最終利益89億円。

クオールHDは2019年に藤永製薬(東京都中央区)を子会社化し、医薬品の製造事業に乗り出した。現行の売上高は20億円程度にとどまるが、将来に向けて調剤薬局事業に続く収益の柱に育てる。第一三共エスファを傘下に取り込むことで、事業規模が一気に拡大する。

藤永製薬は1924(大正13)に創業した老舗医療用医薬品メーカーで、主に精神科、皮膚科領域で実績を積んできた。同社が昨年12月に発売した新型コロナウイルス抗原検査キット「テガルナスティック」はすでに約76万本を出荷し、ビジネス出張や学校行事向けを中心に需要好調という。

調剤薬局と医療関連が経営の両輪

クオールHDの2023年3月期業績は売上高2.3%増の1700億円、営業利益3.7%減の94億9500万円、最終利益3.0%増の56億5600万円。2期連続増収で売上高は過去最高を記録した。

調剤薬局事業と並んで経営の両輪を担うのが医療関連事業。売上高構成は1割弱にとどまるが、MR(医薬情報担当者)、医療系人材(薬剤師、看護師ら)の紹介派遣、治験(臨床試験)、出版、そして医薬品製造まで事業の間口は幅広い。

クオールHDは中期目標として連結売上高3000億円、営業利益250億円を掲げ、「総合ヘルスケアカンパニー」の実現を旗印とする。なかでも、要(かなめ)と位置付けるのが医薬品の製造事業だ。M&Aを積極的に活用しながら、医薬品に関する研究開発から製造、販売、調剤までをトータルに展開する体制づくりを着々と進めてきた。

クオールHDは傘下に900近い調剤薬局を持つ。薬局を訪れる患者目線での新薬開発に期待が集まる。

◎クオールHDの業績推移(単位は億円)

2020/3期 21/3期 22/3期 23/3期 23/3期予想
売上高 1654 1618 1661 1700 1800
営業利益 77.3 73.6 98.5 94.9 100
最終利益 40.6 33.6 54.8 56.5 55

M&Aで調剤店舗網を拡大

調剤薬局業界で現在、クオールホールディングスはアインホールディングス、日本調剤に次ぐ3位につける。ただ、2位の日本調剤とは売上高で1400億円超の開きがあり、事実上、2強状態ともいえる状況にある。

クオールHDは1992年に東京・日本橋兜町で現会長の中村勝氏が創業したことに始まる。自社出店とM&Aを組み合わせ、店舗数を拡大してきた。3月末の店舗数は892。コロナ禍前の2019年に800店舗を達成したが、その後、M&Aの遅れもあり、出店ペースが鈍った。

調剤薬局を対象とするM&Aが活発化し始めたのは2010年代以降。主な案件をみると、2013年にアルファーム(水戸市、33店舗)、14年にセントフォローカンパニー(同、35店舗)、16年に共栄堂(新潟市、85店舗)を相次いで子会社化した。2019年にセラ・メディック(堺市、10店舗)、21年に勝原薬局(兵庫県姫路市、11店舗)、ケーアイ調剤薬局(鹿児島県姶良市、8店舗)などと続いた。

今年1月には久々の大型案件として栃木県を中心に38店舗を展開するパワーファーマシー(宇都宮市)を子会社化。これを弾みに早期に1000店舗体制を整える構えだ。

もう一方の医療関連事業はどうか。今日、医療関連事業の屋台骨を担うのが2012年に子会社化したアポプラスステーション(東京都千代田区)だ。

アポプラスは1993年に創業以来、薬剤師、看護師、保健師などの医療系人材紹介・派遣事業を手がけ、2000年には国内企業として初めてCSO(医薬品販売業務受託機関)事業に乗り出した。

CSOはMRを自社で採用・養成し、派遣先の製薬会社で営業やマーケティングに携わる業務。アポプラスはMRについて業界最多の600人以上を抱える。

健康・介護関連の取り込みは?

クオールHDは2022年10月に創業30周年の節目を迎えた。しかし、足元の市場環境は同業間にとどまらず、調剤薬局を併設したドラッグストアとの競争が激しさを増している。業界全体の店舗数は約6万とコンビニを上回る。

また、超高齢社会の到来で国民医療費の削減が大きな課題となる中、薬価・調剤報酬引き下げが薬局経営を圧迫している。今年1月には電子処方箋の運用がスタートし、薬局運営におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)対応も待ったなしだ。

2024年3月業績予想は売上高5.9%増の1800億円、営業利益5.3%増の100億円。売上高は中期目標とする3000億円のようやく6割、営業利益は4割にとどまる。

「総合ヘルスケアカンパニー」への道程では健康関連、介護関連といった新たな領域を取り込む可能性も十分に考えられる。どんなM&Aが繰り出されることになるのか、要ウオッチといえそうだ。

◎クオールHDの歩み

主な出来事
1992 調剤薬局のクオールを設立
2003 治験関連事業を開始
2006 大証ヘラクレス市場に上場
2007 医療・医薬系出版の第一メディカル(現メディカルクオール)を子会社化
2008 労働者紹介・派遣事業を開始
2011 東証2部上場(2012年東証1部、2022年から東証プライム)
2012 医療・医薬専門職業紹介・派遣のアポプラスステーション(東京都千代田区)を子会社化
2013 アルファーム(水戸市)を子会社化
2014 セントフォローカンパニー(水戸市)を子会社化
2016 共栄堂(新潟市)を子会社化
2018 持ち株会社制への移行に伴い、クオールホールディングスを発足
2019 藤永製薬(東京都千代田区)を子会社化
セラ・メディック(堺市)を子会社化
2021 勝原薬局(兵庫県姫路市)を子会社化
ケーアイ調剤薬局(鹿児島県姶良市)を子会社化
2023 1月、パワーファーマシー(宇都宮市)を子会社化
5月、第一三共エスファ(東京都中央区)を2024年4月に子会社化すると発表

、文:M&A Online