【パイロットコーポレーション】非筆記具事業を拡大へ、ついにM&Aに着手

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パイロットコーポレーション本社(東京・京橋)

パイロットコーポレーションは筆記具のリーディングカンパニーとして抜群のブランド力を誇る。1918(大正7)年に日本初の純国産万年筆を製品化し、100年を超える歴史を刻んできた。海外事業比率が70%に達するグローバル企業としても知られる。そんな同社が中長期的な重点課題とするのが非筆記具事業の拡大だ。手つかず状態だったM&Aにも着手した。

手帳・ノートの「マークス」を買収

パイロットは2023年1月、手帳、ノート類などの文具を製造・販売するマークスグループ・ホールディングス(東京都世田谷区)を傘下に迎え入れる。マークスグループの株式69.7%を取得し、子会社化する。取得金額は非公表。実はこうした企業買収はパイロットにとって事実上初めてで、エポックメーキングな出来事を意味する。

マークスグループは持ち株会社で、中核子会社のマークス、欧州販売子会社のマークスヨーロッパ(パリ)を含めた3社で構成する。2022年6月期業績(簡易連結)は売上高30億1400万円、営業利益1億2900万円、最終利益1億6900万円。

グループの中心であるマークスは1982年に創業。手帳、ノート、日記をはじめとしたデザインステーショナリーや、革小物(スマートフォンケース、バッグ、メガネケースなど)といったライフスタイルプロダクトを主力としている。

「日本の“素敵”で世界に快適を」を理念に掲げ、デザイン・新規性に優れた商品群で知られる。2008年にはフランスのパリに販売会社を設立し、欧州市場に打って出た。

非筆記具の売上高構成比を25%に

パイロットは今年3月、「2030年ビジョン」と「2020-2024中期経営計画」を策定した。2030年ビジョンでは重点戦略の一つに非筆記具事業を第2の柱として成長させる方針を打ち出した。数値目標として現在の2倍以上にあたる売上高構成比25%を掲げた。

ビジョン実現の推進役となる中期経営計画では最終年度の2024年12月期に連結売上高1180億円のうち、筆記具で1050億円、非筆記具で130億円を想定している。この時点で非筆記具事業の売上高構成比は12%。足元の状況は明らかにしていないが、10%に届いていないとみられる。

非筆記具事業とは何か。筆記具以外の文具(手帳・ノート、修正用品など)、リサイクルトナー、玩具、宝飾、産業資材などを指す。

中期計画では、非筆記具事業の拡大に向けて、既存分野において他社との協業・提携で事業の幅を広げる一方、新規事業を推し進めるのが基本戦略だ。3年間で300億円程度を成長投資に配分するとしており、その一つがM&A。計画初年度に早速、M&Aを実行に移した形だ。

パイロットとしてこれまでグループ内再編を除けば、対外的なM&Aの経験はなかった。M&Aの封印を解き、いよいよアクセルを踏み込むことになるのか、要ウオッチといえる。

◎パイロットコーポレーションの業績推移(単位は億円)

2019/12期 20/12期 21/12期 22/12期予想
売上高 1037 870 1030 1060
営業利益 191 141 193 210
最終利益 132 99 142 155

2021年、子会社から玩具事業を継承

パイロットコーポレーションの非筆記具事業をみると、実に多彩だ。

リサイクルトナー事業はプリンターで使われたメーカー純正トナーを分解・洗浄し、部品を交換したうえで、パイロットの自社工場でトナーを再充填した再生トナーカートリッジを取り扱っている。また、宝飾事業は万年筆の金属加工技術から派生し、結婚指輪などを「パイロット」ブランドで展開する。

産業資材事業で主力のセラミックス部品はシャープペン芯の生産技術が応用されており、微細孔、複雑形状、異形など多様なニーズにこたえている。広告用マグネットシート、ホワイトボード・黒板、掲示板といった看板・ボード製品は産業資材事業のもう一方の柱だ。

意外感があるのは玩具事業かもしれない。女児向け玩具「メルちゃん」シリーズや知育玩具「スイスイおえかき」、バス用品「おふろのおもちゃ」シリーズなどを展開している。2021年7月に子会社のパイロットインキ(名古屋市)から会社分割により事業を承継した。

これらの商品群はパイロットインキの独自技術「メタモカラー(熱変色性材料)」の玩具分野への応用を起源とし、なかでも「メルちゃん」シリーズは2022年に発売30周年を迎えた。現在、玩具事業の売上高は42億円(2021年12月期)で、非筆記具事業の牽引役を果たしている。

世界に広がる「PILOT」ブランド

パイロットは1918年に並木製作所として発足し、万年筆の国産化に乗り出した。ボールペン、シャープペンに加え、多機能ペン、カラーペン、サインペン・マーカー、画材・製図用ペンまで、筆記具をフルラインで品ぞろえする。

1926年に早くも海外に進出。現在はアジア、欧米などに18拠点・4工場を構える。2017年には連結売上高1000億円を突破した。海外売上高は70%を超え、「PILOT」ブランドの筆記具が世界190以上の国・地域で販売されている。

長時間筆記でも疲れにくい筆記具として発売された「ドクターグリップ」、こすると消えるインクを搭載した「フリクション」シリーズなど世界的ヒット商品も数多い。

文具業界はコロナ禍による在宅勤務の広がりで法人向け需要の落ち込みに見舞われた。とりわけ筆記具をめぐってはペーパーレス化の進展とともに、逆風が吹きつけて久しい。

過去1世紀にわたって培ってきた筆記具技術と世界的な販売ネットワークをベースに、次の100年をどう切り開くのか。リーディングカンパニーの一挙手一投足に注目が集まる。

◎パイロットコーポレーションの沿革

主な出来事
1918 並木製作所を設立し、万年筆の製造を開始
1938 パイロット萬年筆に社名変更
1961 ボールペンの製造を開始
東証2部上場(1962年に東証1部)
1972 米国に現地法人を設立
貴金属・宝飾品類の製造を開始
1989 パイロットに社名変更
2002 持ち株会社制に移行し、パイロットグループホールディングスを設立
2003 パイロットコーポレーションに社名変更
2008 筆記具・光通信部品製造の子会社、パイロットプレシジョンを吸収合併
2016 北星鉛筆(東京都中央区)と協力関係で合意
2019 本社ビル(東京都中央区)を建て替え
2021 パイロットインキ(名古屋市)の玩具事業を会社分割で承継
2023 1月、マークスグループ・ホールディングス(東京都世田谷区)を子会社化へ

文:M&A Online編集部