【日清紡ホールディングス】脱繊維、積極的なM&Aで「大変身」を遂げる

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日清紡ホールディングスの本社(東京・日本橋人形町)

日清紡ホールディングス(HD)はM&Aをテコに事業ポートフォリオ(構成)の変革に挑んできたことで知られる。現在、無線・通信、ブレーキ、マイクロデバイスの主要3事業で全売上高の4分の3を占め、祖業の繊維事業は1割に満たない。所属業種も2015年に繊維製品に別れを告げ、電気機器に変更済みだ。そして今年、同社として過去2番目のスケールとなる大型買収を繰り出した。

日立国際電気を370億円で買収

日清紡は5月、日立国際電気を子会社化すると発表した。約370億円を投じ、7月末に株式80%を取得する。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で需要拡大が見込まれる無線・通信事業の拡充を狙いとする。残る20%の株式は日立製作所が引き続き保有する。

日立国際電気は日立の上場子会社再編の一環として、米投資ファンドのKKRによるTOB(株式公開買い付け)などが行われ、2018年に株式を非公開化(東証1部上場を廃止)。これにより、日立の連結子会社から外れた経緯がある。

日立国際電気の母体は国際電気、日立電子、八木アンテナで、2000年に3社が合併で誕生した。2018年の非公開化後の事業再編に伴い、旧国際電気が手がけていた半導体製造装置事業(現KOKUSAI ELECTRIC)を分社化。現在、無線通信技術、映像監視・画像処理技術を応用したさまざまな製品・システムを提供している。2022年3月期業績は売上高671億円、最終利益53億円。

日清紡の無線・通信事業は2010年に子会社化した日本無線を中核とし、防災システム、見守りサービスなどの社会インフラから、船舶や自動車などモビリティー分野の通信機器まで幅広く展開する。一方、日立国際電気は官公庁向けに強みを持つ。

繊維事業の比率、今や7%に

日清紡の2022年12月期業績は売上高1.1%増の5160億円、営業利益29.2%減の154億円、最終利益20.3%減の197億円と微増収・大幅減益だった。

主要3事業は明暗が分かれた。無線・通信事業は電子部品のひっ迫の影響で受注の一部が次期に繰り越しになったことなどから減収減益。ブレーキ事業は原燃料価格高騰で増収ながら減益を余儀なくされた。

一方、アナログ半導体を主力とするマイクロデバイス事業は車載や産業機器向けの好調に円安が加わり増収増益を達成した。

売上高構成をみると、無線・通信、ブレーキが各30%、マイクロデバイス16%で、全体の3分の2を占める。これに精密機器、化学品、繊維、不動産などが続く。

110年以上の業歴を持つ祖業の繊維事業のウエートは今や7%強に過ぎない。2000年代前半までは30%を超えていたが、代わって台頭したのがブレーキ事業とエレクトロニクス事業。エレクトロニクス事業はその後、無線・通信事業、マイクロデバイス事業に分かれ、今日の経営を牽引する。

こうした主役交代の原動力になったのが他でもないM&Aだ

◎日清紡HDの業績推移(単位は億円。△は赤字)

2019/12期 20/12期 21/12期 22/12期 23/12期予想
売上高 5096 4570 5106 5160 5570
営業利益 64 12 217 154 240
最終利益 △66 135 248 197 180

ブレーキ摩擦材で世界トップへ

日清紡ホールディングスは2009年に現在の持ち株会社制に移行した。これを境に、M&Aのアクセルを大きく踏み込んだ。

ハイライトが訪れたのは2011年、自動車ブレーキに使われる摩擦材(ブレーキパッド)で当時世界2位のルクセンブルクTMDフリクション・グループを子会社化した。取得金額は約460億円。日清紡として今回の日立国際電気の買収はこれに次ぐ大型案件となる。

ブレーキ摩擦材はディスクブレーキの主要部品の一つで、摩擦によって車輪の回転を止めるのが役割。優れた制動力や性能安定性、耐久性、心地よい制動フィーリングが求められる。

日清紡が繊維事業で培った技術を生かし、自動車用ブレーキ、メカトロニクス製品、化学品などの非繊維事業の拡充に本格的に乗り出したのは1970年代。なかでも戦後すぐに着手し、実績を積み重ねていたのがブレーキ事業。TMDを傘下に収めたことで、ブレーキ摩擦材で世界トップメーカーに躍進を遂げることになったのだ。

環境規制の流れに対応して、国内や米国、中国では銅を使わない銅フリー摩擦材の供給をいち早く開始し、リーディングカンパニーとしての存在感を発揮している。

2010年には当時東証1部の日本無線をTOB(株式公開買い付け)で子会社化し、無線・通信事業の基盤を手に入れた。取得金額は約125億円。日清紡は2017年に同社を完全子会社化したが、現在でも日本無線の社名を維持している。日本無線は1915年創業で、無線メーカーの名門として知られる。

2013年にはオランダの海上・内陸船舶用カーナビシステムメーカー、アルファトロン・マリーンを子会社化。繊維事業でも15年に紳士服の東京シャツ(東京都台東区)をグループに迎えている。

マイクロデバイスではどうか。2018年、リコー傘下でアナログ半導体メーカーのリコー電子デバイス(現日清紡マイクロデバイス)を子会社化。翌2019年にFDKからフェライト製品などの電子部品事業を取得し、2022年にはエレコム傘下でLSI(大規模集積回路)受託開発のディー・クルー・テクノロジーズ(横浜市)を子会社化した。

「両利きの経営」に欠かせないM&A

日清紡は1907(明治40)年に日清紡績として設立。高級綿糸を国産化し、輸入品に真正面から挑戦するところから歴史が始まった。戦後は産業構造の変化や技術革新の潮流をとらえながら、非繊維事業の拡充を推し進め、今日、大変貌を遂げた。

持続的な安定成長路線をどう保持・発展させるのか。既存事業の深掘りと新規事業の推進による「両利きの経営」が問われるが、M&Aはそのツールの一つとして欠かせない。

日清紡が日立国際電気の大型買収を成功に導き、次の飛躍につなげるのか、要ウオッチとなりそうだ。

◎日清紡HDの沿革(2000年以降)

出来事
1907 日清紡績を設立
2004 ナイガイシャツを子会社化
2005 新日本無線を子会社化
2009 持ち株会社制に移行し、日清紡ホールディングスを発足
2010 日本無線を子会社化
2011 ブレーキ摩擦材メーカーのルクセンブルクTMD Friction Groupを子会社化
2013 海上・内陸船舶用カーナビメーカーのオランダAlphatron Marineを子会社化
2015 紳士服の東京シャツを子会社化
プラスチック製品メーカーの南部化成を子会社化
2017 紙製品事業を大王製紙に譲渡
2018 アナログ半導体メーカーのリコー電子デバイス(現日清紡マイクロデバイス)を子会社化
2019 FDKからフェライト製品などの電子部品事業を取得
2020 車載機器開発支援のドイツRBIなど2社を子会社化
2022 エレコム傘下でLSI受託開発のディー・クルー・テクノロジーズを子会社化
2023 5月、日立国際電気を子会社化すると発表

文:M&A Online