【ナガセ】学習塾大手が8年ぶりにM&A、ターゲットは「スイミングスクール」!

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ナガセの本社(東京都武蔵野市)

「東進ハイスクール」「四谷大塚」に代表される学習塾大手のナガセ。テレビで大活躍中の林修先生(現代文)をはじめ、カリスマ講師を多数抱えることでも知られる。実はその同社、学習塾とは別にもう一つの「顔」を持つ。スイミングスクールのトップ企業でもあるのだ。

ブリヂストン傘下のスイミングスクールを買収

ナガセは2014年に、現役高校生向けに学習塾を展開する早稲田塾(東京都豊島区)を子会社化した。これ以来、M&Aから遠ざかっていたが、今年2月半ば、8年ぶりの企業買収を発表した。ただ、ターゲットに選んだのは学習塾ではない。

今回、傘下に収めるのはブリヂストンの子会社で九州を中心にスイミングスクール19校を運営するブリヂストンスポーツアリーナ(福岡県久留米市)。3月中に全株式を取得する。取得金額は明らかにしていない。

ブリヂストンスポーツアリーナは1992年に設立。主力事業の「ブリヂストンスイミングスクール」のほか、スポーツ・文化教室、テニススクール、新体操教室、ジュニアサッカー教室などを手がけている。2020年12月期の売上高は21億1000万円。前の期に比べて約10億円の大幅ダウンとなっており、コロナ禍による会員の減少、利用自粛などが響いたとみられる。

「イトマン」と合わせて70校を超える

ナガセが学習塾に続く経営の第2の柱と位置付けるのが他でもないスイミングスクール。2008年に子会社化したイトマンスイミングスクール(東京都新宿区)が首都圏や関西で53校(うち直営35校)を運営する。

地域的な重複がほとんどないブリヂストンスイミングスクールをグループに迎え、品質・規模の両面で日本を代表するスイミングスクールを目指す。生徒指導、募集、校舎運営などのノウハウを融合し、ブランド力、顧客満足度の向上につなげる。

イトマンスイミングスクールといえば、日本におけるスイミングスクールの草分けとして名高い。創業は1972年で、30人以上の五輪選手を輩出してきた日本水泳界の名門でもある。昨年の東京五輪で女子200メートル、400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した大橋悠依選手もその一人。男子では背泳ぎの第一人者、入江陵介選手らが所属する。

スイミングスクール業界では専業大手のジェイエスエス(ジャスダック上場)が全国に83校(受託を含む)を展開する。これに対し、ナガセは今回、ブリヂストンスイミングスクールを取り込むことで、イトマンと合わせた校舎数は70校を超え、トップに迫ることになる。

◎ナガセ:主な沿革

出来事
1976 「ナガセ進学教室」(1971年創立)を母体にナガセを東京都武蔵野市に設立
1978 東京カルチャーセンターから「東京進学教室」の営業権を取得
「東京進学教室」を「東進スクール」に改称
1985 現役高校生のための「東進ハイスクール」をスタート
1988 「東進ハイスクール」に浪人生のための大学受験本科を併設
店頭市場(現ジャスダック)に株式上場
1992
育英舎教育研究所(現東進育英舎、水戸市)を買収
2005
進級スクール(現東進四国、松山市)を買収
2006
中学受験の四谷大塚(東京都中野区)と関連会社の四谷大塚出版、四大印刷を買収
2008
スイミングスクール運営のアイエスエス(現イトマンスイミングスクール、東京都新宿区)を買収
2009
シンガポールに現地法人を設立
2011
中国・上海に現地法人を設立
2014
大学受験の早稲田塾(東京都豊島区)を買収
2022
2月、ブリヂストンスポーツアリーナ(福岡県久留米市)の買収を発表

2006年に中学受験の「四谷大塚」を子会社化

ナガセの代名詞は「東進ハイスクール」。首都圏を中心に現在96校を数え、東京大学をはじめ、旧7帝大、国公立医学部、早稲田、慶応など難関大学に多数の現役合格者を送り出すことで知られる。

東進ハイスクールを軸とする高校生部門ではほかに早稲田塾が12校、東進衛星予備校のフランチャイズを構成する加盟校が1000校を超える。高校生部門は全売上高の6割以上を占める。

小・中学生部門は四谷大塚、東進四国、東進育英舎などで構成する。なかでも中学受験のパイオニアとして知られるのが四谷大塚。首都圏に約30校を展開し、全国最大の中学受験模試「合不合判定テスト」を主催する。ナガセは2006年に四谷大塚と関連会社を子会社化したが、そのブランド名は変えずに維持した。

小・中学生部門の売上高構成は2割強。四谷大塚に先立ち、東進四国(松山市、15校)は1992年、東進育英舎(水戸市、3校)は2005年にナガセの傘下に入った。

これらの学習塾部門に続くがスイミングスクール部門であり、ビジネススクール部門だ。小学生から社会人にいたる幅広い年代層を対象に教育事業を展開している。

スイミングスクール、売上高100億円が視野に

足元の業績はどうか。2022年3月期予想は売上高10.7%増の507億8000万円、営業利益38.5%増の63億6200万円、最終利益53.6%増の37億2900万円。高校生部門を中心に夏期から冬期にかけての生徒募集が順調に推移したことなどから、1月末に業績予想を上方修正した。

このうち、スイミングスクール部門の売上高はコロナ禍に伴う休校措置などの影響で前期(2021年3月期)に2割減の56億4800万円となったが、今期はコロナ前の水準近くに回復する勢いを見せている。

ここに来期はブリヂストンスイミングスクールが加わり、部門売上高100億円の大台をいよいよ視野にとらえることになる。

教育業界では、大学入学共通テスト(2022年度)、小学生5・6年生の英語必修化(2020年度)が相次いでスタート。コロナ禍を契機に児童・生徒1人にパソコン1台を整備するGIGAスクール構想(文部科学省)が進められるなど、オンライン型教育の需要も急速に高まっている。さらに、少子化による市場縮小や異業種からの参入、生徒・保護者の厳しい選別も加わり、企業間競争が激しさを増している。

こうした中、持続的な成長への次の一手をどう打つのか。本業の深耕、新領域への進出、海外展開など、いずれにおいてもM&Aが重要な選択肢となりそうだ。

◎ナガセ:業績の推移(単位は億円)

19/3期 20/3期 21/3期 22/3期予想
売上高 456 451 458 507
営業利益 26 45 45 63
最終利益 10 29 24 37

文:M&A Online編集部