【マネーフォワード】M&AでSaaSのトップランナーを目指す

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マネーフォワード<3994>は個人・法人向けに金融系のウェブサービスを手がけている。2012年に個人向けの家計簿アプリ「マネーフォワード(現マネーフォワード ME)」の提供で事業を立ち上げたが、2013年から法人向けに「必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できる」SaaS型サービスプラットフォームに参入。以来、高成長を続けている。その原動力となったのがM&Aである。

個人向けの家計簿アプリで創業も、現在は法人向けが主流

現在、祖業である個人向けサービスの売上比率が約16%なのに対して、法人向けのバックオフィス(管理部門)向けのSaaSが約55%を占める。2013年に「マネーフォワード For BUSINESS(現マネーフォワード クラウド会計・確定申告)」を、2014年には請求書、2015年には給与、2016年には経費と、SaaS型サービスの充実を進めた。

同社は2017年9月に東証マザーズに上場すると、積極的なM&Aに乗り出す。同11月にクラウド型の記帳サービス「STREAMED(ストリームド)」を開発するクラビス(東京都新宿区。売上高1億円、営業利益△2700万円、純資産8600万円)の全株式と新株予約権を取得して子会社化すると発表した。

クラビスは2012年設立で、領収書や請求書などをスキャンするだけで1営業日以内に会計データに変換できる経理自動化に特化したサービスを展開する。マネーフォワードは自社の会計ソフトの「MFクラウドシリーズ」と「STREAMED」の連携を図る。取得価額は8億円。

M&Aで知財への対応や見込み客の獲得を実現

2018年7月にWEBサービス開発のナレッジラボ(大阪市)が実施する第三者割当増資を引き受け、子会社化(所有割合51.4%)すると発表した。ナレッジラボは2012年、実務経験のある公認会計士や税理士を中心に設立し、財務戦略顧問サービスやクラウドツールの導入支援サービスを提供している。

マネーフォワードは経理・財務分野でインターネットサービスを展開しており、両社の主力サービスの機能連携、会計事務所や中小企業への導入促進に取り組む。取得価額は1億9800万円。

2019年11月にはSaaS向けのリード(見込顧客)獲得メディア「BOXIL」を運営するスマートキャンプ(東京都港区)の株式72.3%を取得して子会社化すると発表した。取得価額は新株予約権を含めて19億9800万円。

BOXILは月間1000万以上のページビュー(PV)があり、登録会員は12万人以上。SaaS導入を検討するユーザーは自社に最適なサービスを検索でき、ソフト提供側はBOXILに自社サービスを掲載することで見込顧客の獲得や認知度向上が期待できる。

マネーフォワードはスマートキャンプがBOXILで培ったマーケティングノウハウを活用し、自社の会計ソフト「マネーフォワードクラウドシリーズ」の新規顧客獲得を促進する。

国内トップクラスの実績がある企業を買収

2020年7月に会計関連システムを手がけるアール・アンド・エー・シー(東京都中央区)の株式を追加取得して持ち株比率を12.3%から77.8%に引き上げ、子会社化すると発表した。取得価額は13億2500万円。アール・アンド・エー・シーは2004年に設立。入金消込・債権管理システムの「Victory-ONE」「V-ONEクラウド」を展開。大手から中小企業まで幅広く導入され、国内トップクラスの実績がある。

マネーフォワードは「マネーフォワード 会計Plus」「マネーフォワード クラウド経費」「マネーフォワード クラウド給与」を通じて中堅企業や上場準備企業への顧客基盤拡大に力を入れている。アール・アンド・エー・シーを傘下に取り込むことで、中堅規模以上の企業向け商品の拡充につなげる。

2021年11月には人事労務関連のAI(人工知能)チャットボット「HiTTO(ヒット)」を展開するHiTTO(東京都千代田区)の全株式を取得して子会社化すると発表した。顧客企業のバックオフィスでの業務効率化を推進する。取得価額は新株予約権を含めて19億9900万円。

「HiTTO」は勤怠管理や年末調整、経費精算、福利厚生など人事労務についての社内問い合わせにチャット形式で対応し、AIが自動で即時に回答する。中規模以上の企業を中心に採用が進んでいるという。

人事労務関連のAIチャットボット「HiTTO」を採用した企業(HiTTOホームページより)

M&Aで売上高が急成長し、粗利率も向上

そして2022年4月に、保険代理店のNext Solution(東京都千代田区)の全株式を取得して完全子会社化すると発表した。マネーフォワードが提供する相談サービス「マネーフォワード お金の相談」との連携強化を進めるなど、お金に関するユーザーの課題解決に役立てる。取得価額は非公表。

Next Solutionは、2014年に設立された。複数の生命保険・損害保険会社の商品を販売する乗り合い保険代理店で、全国に7拠点を持つ。約50人の保険募集人が在籍し、保険に限らず、幅広く金融サポートに応じる体制を整えているという。

こうした積極的なM&Aが奏効して、マネーフォワードの売上高は2015年11月期の約4億4100万円から2021年11月期には約156億3200万円と、6年間で35倍以上に急増。粗利率も2016年11月期以来50%を超えており、2021年11月期には69.2%に達している。

公表日 取引総額 M&Aの内容
2017年11月2日  8億円 クラウド記帳サービスのクラビスを子会社化
2018年7月5日  1億9800万円 WEBサービス開発のナレッジラボを子会社化
2019年11月11日 19億9800万円 SaaS向け見込顧客獲得メディア「BOXIL」運営のスマートキャンプを子会社化
2020年7月31日 13億2500万円 入金消込・債権管理システム開発販売のアール・アンド・エー・シーを子会社化
2021年11月30日 19億9900万円 人事労務関連のチャットボットを展開するHiTTOを子会社化
2022年4月13日 非公表 保険代理店のNext Solutionを子会社化

赤字脱却の決め手となるARRの増加につながるM&Aを

しかし、広告宣伝費や積極的な採用に伴う人件費増などで、2021年11月期は営業利益が△10億6300万円、純利益が△14億8300万円と、赤字が続いている。ただ同期はEBITDA(​​利払い前、税引き前、減価償却費前利益)が約4億3000万円の黒字に転換した。

今後も年率40%程度の売上成長率を見込むが、今期第1四半期だけで17億〜19億円の広告宣伝費を投入するなど経費も増加し、赤字決算は続く見通しだ。それでも投資家からの期待は大きい。同社の時価総額は約2705億円と帝人(約2684億円)やタカラバイオ(約2670億円)、J.フロント リテイリング(約2643億円)を上回っている。

同社は法人向けSaaSでのARR(年間定期収益)の増加を最重要課題としている。いわゆる「年間契約」であり、安定した収入を見込めるからだ。2021年11月末時点のARRは112億2700万円だったが、今期第1四半期には129億円を達成。今期末には40~50%増の157億1800万~168億4100万円に引き上げ、早い段階での200億円突破を目指す。

そのためにも顧客が年間契約したくなる魅力的なサービスの迅速な拡大が欠かせない。M&Aによる事業の補強も強力なツールだ。最初に買収したクラビスを創業した菅藤達也最高経営責任者(CEO)が、グループ全体のM&A戦略を統括し、新たな「戦力」の獲得に乗り出している。ARRの増収に向けて、M&Aによる成長戦略がさらに加速しそうだ。

ARRを増やすためにもM&Aでサービス連携が必要だ(同社ホームページより)

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部