【丸和運輸機関】EC物流拡大を追い風に快進撃、M&Aも加速中

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丸和運輸機関の本社(埼玉県吉川市)

物流業界で目下、最も勢いのある会社の一つとされるのが丸和運輸機関<9090>。EC(ネット通販)物流の需要急増を追い風に、業績は快進撃を続けている。事業拡大の加速に向け、ここへきてM&Aへの取り組みも意欲的だ。

小売業界に特化

丸和運輸機関は小売業界に特化した物流サービスを展開している。主軸とするのが3PL(サードパーティーロジスティクス)事業。荷主の物流部門を一括受託する業務形態で、荷主に代わって品物を保管する倉庫運営から在庫管理、輸配送までを一元的にこなす。

顧客にはAmazon(アマゾン)、良品計画、ダスキン、ニトリ、イトーヨーカドー、マツキヨココカラ&カンパニー、アルフレッサなど錚々(そうそう)たる顔ぶれが並ぶ。

輸配送は「桃太郎便」のブランドで知られている。なかでもEC物流で要となるラストワンマイル(最寄りの配送所から品物を注文者の自宅や受け取り場所に届ける最終区間)配送網に強みを持つ。

丸和の成長を大きく後押しする形になったのが2017年、アマゾンからの業務受託だ。首都圏で「ECラストワンマイル当日お届けサービス」に乗り出した。EC市場の急拡大に人手が追い付かず、大手宅配会社の一部ではアマゾンとの取引から撤退を余儀なくされた。そうした中、丸和はアマゾンの当日配送を引き受けた。

さらにコロナ禍による巣ごもり消費が加わり、EC物流の需要が激増した。丸和グループの物流ネットワークを支えるパートナー企業は全国約1700社(3月末)で、当面3000社以上を目指している。引き続き、ラストワンマイル配送網のエリア拡大を急ピッチで進める構えだ。

アマゾンが売上の4分の1を占める

実際、アマゾンのウエートは急上昇。2022年3月期の売上高1330億円のうち、ほぼ4分の1の24%をアマゾン関連で占めるまでになっている。

また、マツキヨココカラのウエートも11%に達する。マツキヨココカラとは旧マツモトキヨシ時代から25年を超える取引がある。

丸和は5月、マツキヨココカラが中部地区と九州地区に建設する新たな物流センターの運営を受託した。マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合(2021年10月)を受け、両社の物流効率改善に向けた物流統合を提案していた。

丸和の足元の業績はどうか。2022年3月期は売上高18.6%増の1330億円、営業利益7.8%増の86億円で、過去最高を更新した。売上高を主要部門別にみると、ネット通販や生活雑貨などの「EC・常温物流」が672億円、食品スーパー向けをはじめとする「食品物流」が444億円、ドラッグストア・調剤薬局や医薬品卸を中心とする「医薬・医療物流」が203億円。

もっとも、伸び率は明暗が分かれる。EC・常温物流が46%を超える大幅増加となったのに対し、食品物流、医薬・医療物流はいずれも横ばい圏にとどまった。

EC物流の事業拡大に連動して、アクセルを踏み込んでいるのが他でもないM&Aだ。

◎丸和運輸機関の業績推移(単位億円、23/3期以降は予想)

22/3期 23/3期 24/3期 25/3期
売上高 1330 1715 2000 2400
営業利益 86 111 136 171
最終利益 61 73

ファイズHDをTOBで子会社化

丸和運輸機関は2022年に入り、いずれも同社として過去最大級となる2つのM&Aを実行した。

1つは、3月末に子会社化したファイズホールディングス。ファイズは2013年に大阪市で設立し、EC向けに倉庫運営や拠点間輸送などの3PL事業を展開する。最大顧客はアマゾン。EC物流での連携を強化するのが狙いだ。

丸和はファイズにTOB(株式公開買い付け)を行い、約58%の株式を取得した。取得金額は42億円。ファイズの2022年3月期の売上高は180億円。ファイズは東証1部上場(4月に東証プライムに移行)を維持しており、丸和として初の親子上場の形となった。

もう1つは、九州を地盤にEC向けに3PL事業を手がけるM・Kロジ(福岡県粕屋町)の子会社化。約41億円を投じて、7月末に全株式を取得した。同社は2009年設立で、首都圏にも倉庫を展開する。2021年9月期の売上高は106億円。

もう少しさかのぼると、2020年には日本物流開発(東京都板橋区)を株式取得と株式交換で完全子会社化した。同社の設立は1990年で、やはりEC物流に強みを持つ。現在、茨城県土浦市に約32億円をかけて新物流センターを建設中。市内にある既存拠点を集約し、中小規模のECサイト運営企業をターゲットに流通加工を含む物流代行の新規獲得を進める。

10月、持ち株会社制に移行

丸和は今年、「中期経営計画2025」(3カ年)をスタートした。最終年度の2025年3月期に売上高2400億円、営業利益171億円を掲げるが、売上高8割増、営業利益ほぼ倍増という野心的な内容だ。

10月には持ち株会社「AZ‐COM丸和ホールディングス」を発足させる。中長期的な視点でグループ戦略を推し進めるとともに、傘下の各事業会社が迅速な意思決定と機動的な業務運営が行える体制づくりを狙いとする。

持ち株会社の名前に冠した「AZ‐COM」は丸和が提供する3PLの事業ブランド。物流のすべて(A~Z)に関して、顧客の困り事や悩み事をコミュニケーション(COM)によって解決するという考え方が込められている。

丸和の始まりは1973年8月。この年の秋に第1石油危機が起き、荒波の中での出発だった。以来、半世紀にわたり経営の先頭に立つのが創業者の和佐見勝社長(77)。トラック1台から始まり、一代で1000億円企業に育て上げた辣腕経営者だ。

同社が軸足を置く3PLは物流アウトソーシング(外部委託)化の波に乗ってビジネスを拡大し、そのニーズは一段と高まっている。一方で、EC市場の急膨張に伴い輸配送を担うドライバー不足の深刻化などが物流業界の先行きに影を落としている。

こうした中、持続安定的な経営の実現に向け、二手先三手先を読みつつ、いかなる施策を繰り出すことになるのだろうか。

主な沿革
1973 埼玉県吉川市に有限会社丸和運輸機関を設立
1978 株式会社丸和運輸機関(現在)に改組
1993 昭和通運(現丸和通運、東京都荒川区)をグループ化
関西丸和サービス(現関西丸和ロジスティックス、京都府綾部市)をグループ化
2008 ジャパンクイックサービス(東京都荒川区)を子会社化
北海道丸和ロジスティックス(北海道石狩市)を子会社化
2014 東証2部上場
2015 東証1部上場
2017 首都圏で「ECラストワンマイル当日お届けサービス」を開始
2018 国際トランスサービス(東京都文京区)、関東運送(東京都江戸川区)から商品個配事業を取得
2020 日本物流開発(東京都板橋区)を子会社化
2022 3月、ファイズホールディングスをTOBで子会社化
4月、東証プライム上場に移行
5月、マツキヨココカラ&カンパニーと物流業務受託(新東海、新九州センター)に関する協定締結
7月、M・Kロジ(福岡県粕屋町)を子会社化
10月、持ち株会社制に移行

文:M&A Online編集部