【クスリのアオキHD】食品スーパーの買収が止まらず、「フード&ドラッグ」の深化へ

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埼玉県内の店舗

北陸最大手のドラッグストアチェーン、クスリのアオキホールディングス(HD)がM&Aにアクセルを踏み込んでいる。買収ターゲットに定めるのは地場の食品スーパー。その数は最近2年間で6件に上る。クスリのアオキは元々、食品の取り扱いを成長の原動力としてきたが、ここへきて攻勢が際立つ。

上場企業のトップを切ってM&A

仕事始めの1月4日、クスリのアオキは食料品や衣料のスーパーを展開するホーマス・キリンヤ(岩手県一関市。売上高35億8000万円)、仕入れ業務を手がける関連会社のフードパワーセンター・バリュー(同。売上高12億円)を3月1日付で吸収合併すると発表した。実は、この案件は2022年の上場企業によるM&Aの第1号(適時開示ベース)。図らずも、M&Aへの積極姿勢を社内外に示す格好となった。

目的はドラッグストアにおける食品販売の強化。吸収合併するホーマス・キリンヤは1962年に設立し、岩手・宮城県で食品スーパーを6店舗、衣料品店を2店舗運営する。

クスリのアオキは2020年4月に岩手県に進出した。まだ2年足らずだが、盛岡市、一関市、水沢市、奥州市など県内に14店舗を展開し、店舗数は東北地区で最も多い。地場の有力スーパーを取り込み、大型店では今後、生鮮3品(精肉、鮮魚、青果)の取り扱いを本格化する見込みだ。

クスリのアオキは石川県と本拠地とし、北信越、東北、関東、東海、関西の23府県にドラッグストア789、(うち調剤薬局併設454)、専門調剤薬局6の合計795店舗(1月25日時点)を展開する。立地にあたっては駐車場を備えた郊外型店舗を特徴とする。都市型ドラッグストアの代表格であるマツキヨココカラ&カンパニーとは好対照をなす。

2020年に食品スーパー買収に着手

「フード&ドラッグ」を旗印に、集客の手立てとしたのが食品の販売だ。近隣スーパーに負けない食品の品ぞろえと低価格を売り物に顧客を呼び込み、医薬品や化粧品、日用雑貨、衣料小物などの販売につなげている。

売上構成をみると、食品主導の構図が明らかだ。フード部門(食品、飲料など)は全体の42%を占め、ヘルス部門(医薬品、健康食品など)12%、ビューティー部門(化粧品、フェイスケア商品など)15%、ライフ部門(家庭用品など)21%、調剤薬局部門10%が続く(2021年5月期実績)。

その同社が食品スーパーの買収に乗り出したのは2020年のこと。金沢市内で5店舗を運営するナルックス(金沢市)、京都府北部で8店舗を持つフクヤ(京都府宮津市)を相次いで子会社化した。設立はナルックスが1964年、フクヤが1953年で、それぞれ半世紀を優に超える業歴を持つ。

いよいよM&Aへの号砲が鳴ったのだ。

生鮮強化へ福島県、茨城県でも

クスリのアオキは翌2021年、地場食品スーパーのサン・フラワー・マリヤマ(石川県輪島市)、一二三屋(福島県いわき市)の子会社化、スーパーマルモ(茨城県土浦市)からの事業取得を立て続けに決めた。いずれも生鮮食品の販売には長けている。なかでも茨城県ではクスリのアオキの店舗は50店舗を数える。

生鮮食品は鮮度保持と廃棄ロスの管理が最大のポイント。従来は外部業者にテナントとして出店してもらうコンセッショナリー方式で生鮮を取り扱ってきた。

これに対し、食品スーパーを傘下に収めることは生鮮部門を自社で運営する体制への転換を意味する。ドラッグストアのヘルス&ビューティーや日用品と食品スーパーならではの生鮮の品ぞろえを組み合わせ、顧客利便の高い店舗づくりにつなげる作戦だ。

主力地盤の北陸3県以外で店舗数の多いのは新潟県(70店舗)、群馬県(78店舗)、岐阜県(66店舗)、愛知県(40店舗)、埼玉県(38店舗)など。今後、これらのエリアでも地場スーパーの買収を視野を入れることになりそうだ。

売上高5000億円を目指す中計始動

クスリのアオキは2022年5月期までに3000億円としていた売上高目標を2年前倒しで達成した。これを受け、昨年7月に発表した新中期経営計画(5カ年)では2026年5月期に売上高5000億円を掲げた。2021年5月期の6割超にあたる。また5年間で500店舗を新規出店し、総店舗数は1200を超える見込みだ。

◎クスリのアオキHD:業績の推移(業績項目の単位:億円、店舗数の22年5月期は1月25日時点)

19/5期 20/5期 21/5期 22/5期(予想)
売上高 2508 3001 3058 3380
営業利益 141 163 166 163
最終利益 106 124 120 114
店舗数 541 630 728 795

同業への新たなM&A戦略も?

ドラッグストア業界をめぐっては厳しい出店競争、価格競争にとどまらず、コンビニでの医薬品販売など異業種からの参入も加わる。

業界再編の動きも後を絶たない。トップを争うウエルシアホールディングスとツルハホールディングスは各地の有力ドラッグストアのグループ化を競っている。マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは2021年10月に経営統合を実現し、首位の座を虎視眈々と狙う。

目下、クスリのアオキはドラッグストア業界で8位。一つ上の7位で、神奈川県を地盤とするクリエイトSDホールディングスとは売上高で300億円強の開きがある。

売上高5000億円の目標達成に向け、見どころの一つは戦線拡大の行方。現在、店舗網は23都府県に広がるが、西日本に目を向けると、手薄な関西の拡充、まったく手つかずの中国・四国、九州に進出はあり得るのかが注目される。最大市場の関東ではさらに攻勢を強めるとみられる。

食品スーパーの取り込みによる「フード&ドラッグ」路線を深掘りする一方、規模拡大を追求するうえではこれまでの自力出店に加えて、各地に根を張る同業者に照準を合わせた新たなM&A戦略が動き出す可能性もありそうだ。

主な沿革
1869 石川県で薬種商を創業
1930 合資会社「青木二階堂」を設立し、薬局を開業
1976 有限会社「青木二階堂薬局」を設立
1985 株式会社「クスリのアオキ」を金沢市内に設立、ドラッグストアに進出
1986 石川県1号店を金沢市に出店
1996 クスリのアオキが青木二階堂薬局などを合併
2001 イオンウエルシア(現イオン商品調達)と商品の共同仕入れなどで業務提携
2006 東証2部上場
2007 100店舗を達成
2011 東証1部上場
2013 200店舗を達成
2016 300店舗を達成
  〃 持ち株会社「クスリのアオキホールディングス」を設立
2018 500店舗を達成
2020 600店舗を達成
   〃 食品スーパーのナルックス(金沢市)を子会社化
  〃 食品スーパーのフクヤ(京都府宮津市)を子会社化
2021 食品スーパーのサン・フラワー・マリヤマ(石川県輪島市)を子会社化
  〃 食品スーパーのスーパーマルモ(茨城県土浦市)から事業取得
  〃 700店舗を達成
  〃 食品スーパーの一二三屋(福島県いわき市)を子会社化
2022 1月、食品スーパーのホーマス・キリンヤ(岩手県一関市)を吸収合併すると発表

文:M&A Online編集部