【神戸物産】業務スーパー、値上げしても増収増益が続く理由とは

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世界経済が急激な物価高に見舞われている。これまで30年にわたって「デフレ経済」で物価安が続いていた日本も例外ではない。特に食料品をはじめとする日用品の値上げは、庶民の生活に大きな打撃を与える。そのため食品スーパーは仕入れのコストアップと「1円でも安い」商品を求める顧客との板挟みになって苦戦中だ。そんな中、早々と値上げを実施しながらも、増収増益を実現した食品スーパーがある。「業務スーパー」を全国展開する神戸物産<3038>がそれ。なぜ、そんなことが可能だったのか?背景にはM&Aがあった。

値上げしたにもかかわらず増収増益

6月13日、神戸物産が発表した2022年10月期第2四半期(2021年11月ー2022年4月)連結決算は、同業者を驚かせた。売上高は前年同期比12.3%増の1981億6100万円、営業利益は同2.4%増の147億3300万円に成長したからだ。物価高による買い控えの影響はそれほど大きくなかった期間ではあったが、同社は前年秋に200品目で6~7%の値上げを断行していた。その影響が懸念されていたのだ。

ところが決算に値上げの影響はない。むしろ成長が持続する結果となった。値上げしたにもかかわらず業績を伸ばした背景には「高くても売れる商品」づくりを進めてきたことがある。その皮切りとなったのが2008年3月に発表した鶏卵加工工場を運営するウエボス(兵庫県姫路市)と食品製造業のターメルトフーズ(山口県防府市)の完全子会社化だ。

両社を買収した当時、中国からの輸入冷凍餃子に薬物が混入していた事件が大きな社会問題になっていた。「1円でも安い商品を売る」スーパー業界に衝撃が走り、神戸物産は品質が保証された国内商品の安定調達のため両社を買収したのである。同社は当時から「品質重視」もにらんだM&Aを進めていたのだ。

内製化で人気のPB商品を生み出す

内製化のためのM&Aは、さらに進む。2009年5月に子会社を通じて、スーパーマーケット運営のハナマサ(東京都港区)の子会社で食品メーカーのハナマサ太公(東京都江戸川区)から食品製造・食肉加工事業を取得すると発表した。

2012年12月には水産加工品製造・販売業のほくと食品(宮城県石巻市)の完全子会社化を発表する。三陸で水揚げされた魚を石巻漁港近くの冷凍加工場でレトルト商品などに加工し、全国の「業務スーパー」に供給した。2014年2月には1871年創業の老舗蔵元である菊川(岐阜県各務原市)の酒造事業を取得すると発表、日本酒醸造の内製化も実現している。

2015年1月には子会社で鶏肉の生産・加工・販売を手がける朝びき若鶏(群馬県高崎市)を通じて、同業の但馬(大阪市)から高崎事業所の食肉処理場と養鶏場事業を取得すると発表。但馬は伊藤忠商事グループの伊藤忠飼料(東京都江東区)の100%子会社だった。

食肉処理・養鶏場事業を取得することで鶏肉の鮮度を重視した店舗販売や、ハーブなどこだわりの飼料による健康的な鶏の育成を目指した。売り手の伊藤忠飼料からは飼料の提供や種鶏・養鶏の技術指導などを受けるなど、内製化のレベルアップも図っている。

さらには2020年4月に子会社を通じて、洋菓子製造販売のサラ二(岡山県瀬戸内市)の全事業を取得し、デザートの内製化にも着手。プライベートブランド(PB)商品の充実を図った。内製化により、厳格な品質コントロールが可能になる。こうした努力が、顧客から高く評価されたのである。

業務スーパーで人気のPB商品(同社ホームページより)

ビジネスモデルは意外にも無印良品と似ている

ネットやSNSで「業務スーパーのPB商品を使ったレシピ」が大きな話題になり、口コミで飛ぶように売れる状況が続いている。ハナマサ太公は「こだわり生フランク」、菊川は「菊川の鬼ころし」、朝びき若鶏は「上州高原どり」などのヒットPB商品を生み出した。

実はこうしたM&Aの対象となったのは、経営不振の中小企業。だから買収金額は安い。2008年3月以降に発表された12件の買収案件のうち、最高額は菊川の5000万円。買収当時の同社の純資産は△3億7500万円の債務超過状態だった。中には0円の案件も3件ある。いわば「買い物上手」のM&Aで、競争力の強化を実現しているのだ。

神戸物産のPBは他店にないユニークな商品が多く、来店客にとっては「新鮮な発見」があるという。同様のビジネスモデルで有名なのが、良品計画<7453>が展開する無印良品だ。同社は常に大量の新商品を開発して商品棚を入れ替え、「いつ来ても新しい商品がある」と顧客を飽きさせない。顧客は「必要な商品を買うため」ではなく、「面白い商品を見つけるため」に来店するのだ。

同じビジネスモデルだが、神戸物産の「業務スーパー」が値上げを選択したのに対して、良品計画の「無印良品」は「業務スーパー」と同時期に同じ約200品目を値下げしている。「体にフィットするソファ・本体」は9990円から7990円、「羽根まくら」を1190円から690円など値下げ幅が大きいものも。

その結果、良品計画の2022年8月期第2四半期決算では売上高こそ2445億円と同7.1%増だったものの、営業利益は189億円と同19.4%減に落ち込んだ。値下げで売上高は向上したものの、原材料費値上げなどのコストアップを吸収できず減益に終わった。同じビジネスモデルでありながら、値上げか値下げかで別れた神戸物産と良品計画。第1ラウンドは神戸物産に軍配があがったようだ。

業務スーパーと同じくPB戦略で差別化する無印良品は「値下げ」を選んだが…(良品計画ホームページより)

神戸物産の買収案件一覧

発表日 取引総額
(万円)
内 容
2008年3月6日       0 食料品卸売のエルフーズと鶏卵加工のウエボスを子会社化
2008年3月14日       0 食品製造業のターメルトフーズを子会社化
2009年5月27日 未確定 食品メーカーのハナマサ太公から食品製造・食肉加工事業を取得
2012年12月26日   900 水産加工品製造業のほくと食品を子会社化
2014年2月28日 5000 岐阜の老舗蔵元の菊川から酒造事業を取得
2015年1月28日 非公表 伊藤忠グループの但馬から食肉処理・養鶏場事業を取得
2015年4月17日   500 飲食店経営の可不可を子会社化
2015年6月10日 非公表 中華レストラン運営の日本臨床漢方研究機構を子会社化
2018年10月25日   800 シンガポールで鉄板焼き店を経営予定のWIZ JOINTを子会社化
2020年4月1日 非公表 洋菓子製造のサラニから全事業を取得
2020年6月30日 非公表 外食事業関連子会社のクックイノベンチャーを経営陣に譲渡

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部