文具事務用品の“雄”として、抜群のネームバリューを持つキングジム。看板商品の「キングファイル」は書類の保管や整理に欠かせないファイル類の代名詞的存在だ。ラベルプリンター「テプラ」に代表される電子製品の品ぞろえも充実している。その同社が近年、アクセルを踏み込んでいるのが新領域と位置付けるインテリアライフスタイル事業。M&Aを駆って攻勢に出ている。
キングジムは7月末、「第10次中期経営計画」(2022年6月期~24年6月期)をスタートした。アフターコロナに向けての基盤づくりを掲げ、成長分野への戦略投資を推し進める。文具事務用品の領域にとどまらず「暮らし」全般に着目した商品開発を進めてきたが、一連の流れをさらに加速するのが新中計の狙いだ。
コロナ禍を機にテレワークが広がるなど働き方・暮らし方の変化によってペーパーレス化やデジタル化がますます進行することが予想される。こうした中、ファイル依存の収益構造からの脱却が課題となっている。
計画によると、今後3年間で、事業領域の拡大に100億円を配分。積極的なM&A投資をはじめ、海外展開、EC(電子商取引)事業に振り向ける。また、新製品開発・生産設備投資に20億円、販売物流システム刷新に10億円を投じる。
直近の2021年6月期業績は売上高8.6%増の363億円、経常利益85%増の27億5500万円と、コロナ禍でも好決算を確保した。部門別の売上構成は文具事務用品事業276億円(前期比3.6%増)、インテリアライフスタイル事業86億円(同28.4%増)。
文具事務用品事業はラベルプリンター「テプラ」、デジタルメモ「ポメラ」、デジタルノート「フリーノ」といった「電子製品」と、各種ファイルを中心とする「ステーショナリー」に大別される。
一方、インテリアライフスタイル事業は家具・室内装飾雑貨・時計・造花(アーティフィシャルフラワー)などを主力とするが、その牽引役はM&Aでグループ入りした企業群が担う。
新中計では最終年度の2024年6月期に現行の1.3倍にあたる売上高480億円を目標とする。内訳として文具事務用品事業で305億円、インテリアライフスタイル事業で125億円を想定するが、注目されるのは残る50億円をM&Aによる新事業の取り込みで賄うとしている点だ。
その公約通り、早速、M&Aを実行した。10月半ば、生活家電や雑貨、ルームフレグランス(屋内用芳香商品)などを企画・製造するライフオンプロダクツ(大阪市)を買収すると発表した。
買収金額は約37億円で、キングジムとして過去最大のM&Aとなる。言うまでもなく、「インテリアライフスタイル事業の飛躍的な拡大を実現する」(同社)のが狙いだ。
◎キングジムの業績推移(単位は億円)
20/6期 | 21/6期 | 22/6期 | 24/6期目標 | ||
売上高 | 334 | 363 | 380 | 480 | |
経常利益 | 14.8 | 27.5 | 22.7 | 34 | |
最終利益 | 10.8 | 19.6 | 15.6 | ー |
今や売上高100億円を目前にするインテリアライフスタイル事業だが、その成長の原動力となったのはM&A。2001年に室内装飾雑貨製造の長島商事(現ラドンナ、東京都江東区)を子会社化したのを手始めに、周辺分野で買収を段階的に進めてきた。
ラドンナではキッチン雑貨・時計、デジタル雑貨(デジタルフォトフレームなど)のほか、かき氷器やファンといった季節商品を取り扱う。
2008年に傘下に収めたのが造花・雑貨販売のアスカ商会(名古屋市)。同社は国内の造花市場で「asca」ブランドで知られている。オフィスや公共スペースの装飾需要に対応し、さまざまなグリーン・人工観葉商品を品ぞろえする。
2014年にはオリジナル家具のインターネット通販会社、ぼん家具(和歌山県海南市)をグループに加えた。ここへきて巣ごもりやテレワーク需要の収納用品やデスク・チェアで販売を伸ばしている。ぼん家具の買収金額は約21億円だったが、これを大きく上回るのが今回のライフオンプロダクツの子会社化(11月4日付)だ。
ライフオンプロダクツは2003年に設立。グリル、ケルト、加湿器といった生活家電から、抗菌・除菌・消臭関連、ハンモック、テント、自転車などのアウトドアまで幅広い商品を独自ブランドで展開している。直近売上高は42億円で、この2年で倍増した。本業のもうけを表す営業利益も7億4800万円と、収益力も申し分ない。
キングジムは同社を取り込むことで、インテリアライフスタイル事業の商品構成がぐっと厚みを増す。中計初年度の2022年6月期への寄与はやや限定的だが、次年度以降は業績をフルに押し上げる見込みだ。
昨年1月には工場や医療・介護の現場で使わる作業手袋を製造するウインセス(高松市)を子会社化した。ニッチな製品分野ながら、グループの既存事業との相乗効果を期待している。
成長分野と位置付けるのはインテリアライフスタイル事業だけではない。
例えば、既存の文具事務用品事業でいえば、新型コロナの流行に伴う新しい生活様式に対応した衛生・健康用品の開発力が一層求められている。ワークスタイルの変化に合わせたデジタル文具、かわいらしさを強調した「女子文具」などの拡充も引き続きテーマとなる。シニア市場向けの新ブランド「arema(アレマ)」も立ち上げたところだ。
新中計では海外事業がキーワードの一つ。アジアに加え、欧米市場の開拓に力を入れ、日本発のキッチン家電や女子文具のグローバル展開を目指す。
中計で掲げた目標をどう実現に導くのか。ポストコロナを見据え、事業の成長スピードを加速するうえでは国内にとどまらず、今後、海外でのM&Aも視野に入ることになりそうだ。
年 | 主な沿革 |
1927 | 「名鑑堂」の屋号で創業。人名簿、印鑑簿を発売 |
1947 | ルーズリーフ、バインダー、各種ファイル類を生産発売 |
1948 | 個人経営から会社組織に改組 |
1961 | キングジムに社名変更 |
1987 | 株式を店頭登録 |
1996 | 初の海外生産拠点としてインドネシアに化成品ファイルの製造会社を設立 |
2001 | 東証2部上場(2005年に東証1部) |
〃 | 室内装飾雑貨類製造の長島商事(現ラドンナ、東京都江東区)を買収 |
2003 | 時計の企画開発を手がける合同(現ラドンナ)を買収 |
2008 | 造花・雑貨販売のアスカ商会(名古屋市)を買収 |
2011 | 「キングファイル」シリーズ、累計販売5億冊を突破 |
2014 | 家具のインターネット通販会社、ぼん家具(和歌山県海南市)を買収 |
2018 | ラベルプリンター「テプラ」累計販売台数1000万台を突破 |
2020 | 作業手袋製造のウインセス(高松市)を買収 |
2021 | (11月)生活家電、雑貨企画・販売のライフオンプロダクツ(大阪市)を買収 |
文:M&A Online編集部