【加賀電子】富士通エレを子会社化 、業界トップへ宿願のM&A

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エレクトロニクス商社の加賀電子<8154>が2019年1月1日に同業の富士通エレクトロニクス(横浜市)を子会社化した。グループ売上高は5000億円規模となり、業界トップのマクニカ・富士エレホールディングス<3132>とほぼ肩を並べる。規模拡大によって商社ビジネスの競争力を向上させるとともに、海外を中心にEMS(電子機器受託製造サービス)ビジネスの成長を加速する。

富士通エレクトロニクスの子会社化は今後予想される業界再編に備え、主導権を確保する狙いも込められている。

「5000億円」企業に躍進

「まずは業界トップクラスの事業規模を実現する。それを足場として売上高兆円クラスの海外競合企業と伍して戦い、勝ち残ることができる世界に通用する企業を目指す」。加賀電子の門良一社長はホームページ冒頭の“社長メッセージ”の中で、富士通エレクトロニクスのグループ入りを受け、こう意気込みを示した。

加賀電子は富士通エレクトロニクスの株式取得を3段階に分けて実施する。第1段階として1日付で70%を親会社の富士通セミコンダクターから取得し、傘下に収めた。2020年末に追加取得して持ち株比率を85%に高め、翌2021年末に完全子会社化する。取得金額は総額205億円。富士通エレクトロニクスの社名については当面継続する方針だ。

富士通エレクトロニクスは半導体・電子部品などの設計・開発、販売を主力とし、2018年3月期の業績は売上高2587億円、営業利益26億3000万円。売上高ベースで業界順位は4位。

同社は1952年に平山電機商事として発足し、1968年に富士通グループに加わり、メーカー系エレクトロニクス商社として歩んできた。2007年に富士通の電子デバイス営業部門と統合し、現社名に。その後のグループ内の再編を経て現在にいたる。かつて東証2部に上場していた時期もある。

本社(東京・秋葉原)

一方、加賀電子は独立系エレクトロニクス商社で、業界7位。1968年に創業者で現会長の塚本勲氏が東京・秋葉原で設立したことに始まる。半導体・電子部品、情報機器などを販売する商社ビジネスと、基板モジュールや各種電子機器のEMSビジネスを両輪とする。

18年3月期業績は売上高2359億円、営業利益81億円。営業利益は過去最高を記録した。富士通エレクトロニクスの子会社化により、同社の売上高は5000億円規模に倍増する。国内ナンバーワンの座がいよいよ見えてきた。

〇買収後の業界ポジション: エレクトロニクス商社の売上高上位5社

1 マクニカ・富士エHD 5,040億円
2 加賀電子+富士通エレ 4,946億円
3 丸文 3,475億円
4 UKCホールディングス 3,014億円
5 リョーサン 2,540億円

※いずれも2018年3月期実績。加賀電子+富士通エレは単純合算

経営統合“破談”の苦い経験も

実は、加賀電子にはM&Aをめぐる苦い経験がある。2015年11月、同業のUKCホールディングス<3156>と経営統合することで基本合意した。同じ年の4月には、マクニカと富士エレクトロニクスが持ち株会社方式で経営統合し、「マクニカ・富士エレホールディングス」が発足したばかりだった。

加賀電子が秋波を送ったUKCホールディングスはソニーを主要調達先とするメーカー系で、規模もほぼ同じ、顧客や取り扱い製品などの重複も少なく、似合いの“カップル”とみられていた。統合が実現すれば、「5000億円」企業が誕生するはずだった。

ところが、翌16年4月、経営統合の中止を発表した。資産査定後の最終的な詰めの段階で合意に達せず、破談になったのだ。

時は移って18年9月。加賀電子は富士通エレクトロニクスの子会社化を発表した。パートナーの顔ぶれは変わったが、数年来の宿願を果たした。

この数日後、奇しくも、かつての相手先であるUKCホールディングスがバイテックホールディングス<9957>との経営統合を発表した。バイテックもソニーが主要調達先の一つ。UKCはバイテックを吸収合併し、統合新会社「レスターホールディングス」を4月に発足させる。ここへきてエレクトロニクス商社再編の動きに改めて火が付いた格好だ。

商社ビジネス拡大、EMSの加速につなげる

加賀電子は4月から3カ年の「中期経営計画2021」をスタートさせる。富士通エレクトロニクスの子会社化を踏まえ、最終年度の2022年3月期(21年度)に売上高5000億円、営業利益130億円、ROE(株主資本利益率)8%以上を目標とする。

富士通エレクトロニクス買収の目的は、電子部品を中核とする商社ビジネスの量的拡大による業界トップ企業の実現にある。中期的にはEMSビジネス拡大による収益向上を目指している。富士通エレクトロニクスが強みとする車載、通信、IoT(モノのインターネット)関連の商材をEMSビジネスに取り込み、新技術や新たな市場ニーズへの対応を強化する。

足元の2019年3月期は売上高22.9%増の2900億円、営業利益5.2%減の77億円、ROE9.9%を見込む。売上高には富士通エレクトロニクス子会社化の寄与分580億円を織り込む。ただ、利益面への寄与は限定的としている。

〇「中期経営計画2021」の経営目標

19/3期見通し 22/3期目標
売上高 2,900億円 5,000億円
営業利益 77億円 130億円
ROE 9.9% 8%以上

EMSで40年の実績を積む

加賀電子の売上構成をみると、電子部品73%、情報機器(パソコン、周辺機器など)20%、ソフトウエア(CG映像制作など)1%、その他(修理業務、スポーツ用品販売など)6%。現在、EMSは電子部品事業に括られているが、4月から始める新中期計画では従来の開示セグメントを組み替え、EMSを独立させる。

売上高5000億円時点の売上構成のイメージはこうだ。電子部品60%、EMS28%、CSI(従来の情報機器とソフトウエアを統合)10%、その他2%を想定している。中核の電子部品事をさらに強固なものとし、これに続く主力事業のEMS拡充を推し進めるシナリオが見てとれる。

新中計では成長戦略の重点テーマとして、EMSビジネス強化に向けた海外拠点拡充を打ち出している。昨年、メキシコ、ベトナム、トルコに新拠点を開設。今春には世界15番目の自社工場となるインド拠点の稼働を控えるが、富士通エレクトロニクスの子会社化を弾みにさらに攻勢に強める構えのようだ。

“親子関係”見直しも今後浮上へ

加賀電子はEMSビジネスで40年の経験を積んでいる。当初は国内の協力工場に生産を委託する形でスタートし、1999年に中国・深圳に初の自社工場を立ち上げた。製品の設計開発から完成品(基板実装、半完成品を含む)までの生産をワンストップで提供する体制を確立。顧客ニーズの変化に伴い、近年は通信・IoT関連機器や医療機器といった新分野にシフトが進んでいる。

新規事業の創出も課題の一つ。保育、福祉、介護など社会課題や素材分野でのビジネスを模索中で、M&Aを積極的に活用する方針だ。ベンチャー投資も50億円(3年)の枠で取り組んでいる。

エレクトロニクス商社はサプライヤーである半導体、電子部品メーカーの再編や国内市場の縮小、完成品組み立ての海外シフトなどで厳しい事業環境に直面し、企業間競争が激しさを増している。こうした中、富士通エレクトロニクス子会社化の動きが業界再編の引き金になる可能性もある。

また、富士通エレクトロニクスとの経営統合の形も現在も親子関係から、数年後には親会社による合併、共同持ち株会社への移行などの選択を迫られることになりそうだ。

加賀電子は昨年、設立50年の節目を迎えた。次の50年に向けて今回の大型買収が「世界に通用する企業」への跳躍台となるのか。まずは、そのカギを握るのがシナジー(相乗効果)創出などポストM&Aの取り組みといえよう。

沿革と主なM&A
1968 東京・秋葉原に加賀電子を設立
1986 東証2部上場
1997 東証1部上場
   
2001 電子部品販売のユニオン商事(東京)を子会社化
2002 エー・ディーデバイスとユニオン商事が合併し、エー・ディーデバイス(東京)に
2003 コンピューターグラフィック制作のデジタル・メディア・ラボ(東京)を子会社化
2005 カメラ関連製品卸商社の樫村(東京)を子会社化
2006 プラスビジョン(東京)からプロジェクター事業を取得
電子部品販売の大塚電機(川崎市)を子会社化
2008 半導体商社のエー・ディ・エム(大阪市)をTOBで子会社化
2009 電気通信工事の東京電電工業(現加賀テクノサービス、東京)を子会社化
2011 加賀テックと大塚電機が合併し、加賀テック(東京)に
2013 加賀デバイスとエー・ディ・エムが合併し、加賀デバイス(東京)に
2015 11月、UKCホールディングスと経営統合で合意(翌年4月、白紙に)
2016 加賀ソルネットと加賀ハイテック(前身は樫村)が合併し、加賀ソルネット(東京)に
2017 パワー半導体用SiC基板製造子会社のサイコックス(東京)を住友金属鉱山に譲渡
2018 9月、富士通エレクトロニクスの子会社化で合意

文:M&A Online編集部