【ジンズホールディングス】メガネ版「SPA」を先んじて確立、業界2位に躍進|海外一極生産から脱皮も

alt
「JINS」店舗(東京・吉祥寺)

メガネ専門店「JINS」を展開するジンズホールディングス<3046>。メガネ版SPA(製造小売業)による低価格路線を確立し、市場に旋風を巻き起こしてきた。メガネ業界の新興企業として登場して20年余り。現在では業界2位に躍進を遂げた。その同社が初の本格的な企業買収を手がけた。

福井県のメーカーを子会社化

ジンズは10月28日、メガネフレームを製造するヤマトテクニカル(福井県越前市、奥田博之社長)を子会社化した。第三者割当増資を引き受け、株式51%を取得した。

メガネフレームの国内生産拠点を確保し、中国に依存する生産の分散化や為替変動リスクなどに対処する狙い。また、国内に生産拠点を持つことで店頭に商品が届くまでのリードタイム短縮につなげる期待もある。取得金額は開示していない。

ジンズはメガネ、サングラス、グラスコード(メガネストラップ)などのアイウエアについて企画、製造、販売を一貫して行うSPA方式を実現。商品のデザインや企画は自社で行う一方、生産は主に中国の協力工場に委託している。

海外での生産拠点の一極集中は世界経済の動向や為替リスクにさらされる度合いが高い。足元ではロシアのウクライナ侵攻の長期化、記録的な円安進行、原材料・エネルギー価格の高騰などの影響が拡大している。こうした中、継続的かつ安定的な商品調達のために国内で生産拠点の確保に着手したもので、手立てとしてM&Aを繰り出した。

傘下に収めたヤマトテクニカルは2018年9月に設立。メガネフレームの射出成形生産と塗装を手がけている。

SPAで低価格路線を実現

メガネといえば、かつては限られた人が使う医療器具の一つで、高価というイメージがあった。それがファンションアイテムとしてとらえられ、その日の気分や服装に応じてメガネを選ぶといったカジュアルなものになった。近年はスポーツ用、目の健康など、メガネに対する消費者ニーズも一段と多様化している。

こうした流れをとらえて右肩上がりで成長してきたのがジンズだ。SPA方式による流通の中抜きで低価格路線を具現化。同社が提供する商品の多くは1万円以下で購入できる。2022年8月期におけるメガネ一式の平均単価は8510円。フレームとレンズのセット価格表示とし、価格の透明感を高めている。

商品面ではパソコン、スマートフォンから放出されるプルーライトをカットするメガネ「JINS SCREEN」で大ヒットを飛ばしたことで知られる。超軽量「エアフレーム」、花粉対策用「JIN 花粉CUT」といった品ぞろえも人気を呼んでいる。

ジンズは1988年、創業者の田中仁・現代表取締役CEO(最高経営責任者)が前橋市に前身のジェイアオエヌを設立したことに始まる。バッグ、帽子、アクセサリーなどの服飾・生活雑貨の企画、製造、卸売りに乗り出した。

◎ジンズホールディングスの沿革

1988年 前橋市でジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立
2001年 福岡市に「ジンズ天神店」を出店し、アイウエア事業に進出
2006年 大証ヘラクレス市場に上場
2010年 吉姿商貿(瀋陽)有限公司を設立し、中国に進出
2011年 睛姿商貿(上海)有限公司を設立
睛姿美視商貿(北京)有限公司を設立
2013年 東証1部に上場
米国にJINS Eyewear US(サンフランシスコ)を設立
2015年 台湾に台彎睛姿股份有限公司を設立
2016年 香港にアジア統括会社JINS ASIA HOLDINGSを設立
2018年 香港に販売会社JINS Hong Kongを設立
オフィススペース企画・運営のThink Lab(東京都千代田区)を設立
2019年 持ち株会社制に移行し、ジンズホールディングスを設立
装飾品・装身具販売のVios INTERNATIONAL(東京都中央区)からアイウエア事業を取得
2020年 レディース雑貨・メンズ雑貨事業から撤退
2021年 ソフト開発のフランスFITTIGBOX S.Aを持ち分法適用関連会社化
2022年 10月、眼鏡フレーム製造のヤマトテクニカル(福井県越前市)を子会社化

後発でメガネ事業進出、2位に躍進

メガネ事業に進出したのは2001年。第1号として福岡市の「JINS天神店」を出店した。積極的な出店戦略を後押ししたのがSPA方式によるビジネスモデルの構築に成功したことだ。JINSブランドを立ち上げて20年の節目となる2021年3月には佐賀県に出店し、全国47都道府県への展開を果たした。

2010年代に入ると、海外事業に着手。中国を手始めに、米国、台湾、香港に現地法人を構え、メガネの販売をスタートした。

国内外の総店舗数は2022年8月期末で700。内訳は国内464、中国174、台湾49、香港7、米国6となっている。

2006年に株式を上場(ヘラクレス市場。2013年東証1部、2022年4月に東証プライムに移行)した当時に50億円前後だった売上高は10年で10倍に増え、今や700億円に迫る。

ジンズは後発ながらメガネ業界でのポジションも2位に躍進。「眼鏡市場」「ALOOK(アルク)」を展開し、業界トップに立つメガネトップ(静岡市)を追撃している。

3位は「パリミキ」「メガネの三城」のパリミキホールディングス<7455>で、これに「メガネスーパー」のビジョナリーホールディングス<9263>、「Zoff」のインターメスティック(東京都港区)、「メガネの愛眼」の愛眼<9854>などが続くが、ジンズは3位以下とのリードを広げつつある。

課題解決へM&Aを早速実行

足元の業績はどうか。ジンズが10月半ばに発表した2022年8月期決算は売上高4.7%増の669億円、営業利益34%減の33億1500万円、最終利益77.2%減の7億5000万円。円安による原価上昇や、中国の都市封鎖などが響き、大幅減益を余儀なくされた。

売上高構成は国内533億円、海外135億円。海外では中国が73億円と半分以上を占める。新規事業として育成中のコンタクトレンズは13億円とウエートはまだ小さいものの、初めて10億円を超えた。

ジンズは2020年に祖業だった雑貨事業から撤退した。売上高は20億円程度だったが、これと入れ替わる形で取り扱いを本格化したのがコンタクトレンズだ。

2023年3月期は売上高17%増の781億円、営業利益2.1倍の70億円、最終利益5.5倍の41億円を見込む。計画達成に向けて、今期の課題として打ち出したのが2点。一つが郊外ロードサイド(沿道)への出店強化、もう一つが国内生産体制の確立だ。

後者については今回、ヤマトテクニカルの買収を早速実行した。ジンズはこれまで事業レベルの買収と売却を各1件手がけたことがあるが、企業まるごとを傘下に収める初めてのケースとなった。

ロードサイト出店にみられる出店戦略の軌道修正とともに、ネット販売の拡充が避けて通れないテーマになって久しい。アフターコロナが見え始める中、M&Aの取り組みを含めて次の一手が要ウオッチといえそうだ。

◎ジンズホールディングスの業績推移(単位は億円)

2019/3期 20/3期 21/3期 22/3期 23/3期予想
売上高 618 602 638 669 781
営業利益 74 56 50 33 70
最終利益 38 16 32 7.5 41
国内店舗 379 415 434 464 471

文:M&A Online編集部