エレベーターのメンテンナンス(保守・管理)で独立系として業界トップに立つジャパンエレベーターサービスホールディングス(HD)。近年、国内のM&A市場でもにわかに存在感を高めている。ここ2年間に手がけた企業買収は10件を超え、ベトナムでは同社初の海外M&Aに踏み切る。
日本全国では現在、約100万台のエレベーターとエスカレーターが稼働している。そのメンテナンスを巡っては三菱電機、日立製作所、東芝、日本オーチス・エレベータ、フジテックなどの主要メーカーとその系列会社が80%以上のシェアを持つ。
これに対し、どこのメーカー系列にも属さない事業者が「独立系」と呼ばれ、メーカーを問わずあらゆる機種に対応している。独立系では「SEC」の略称で知られるエス・イー・シーエレベーター(SECエレベーター、東京都台東区。1967年設立)が先駆者として業界をリードしてきたが、ジャパンエレベーターサービスが急成長を遂げ、ついに首位に躍り出た。
同社が手がけるエレベーターメンテナンス台数は9月末時点で約7万4500台。2021年4~9月期(上期)だけで契約台数は約7000台増えており、このうちの約2400台はM&Aによる増加分で占める。
前期(2021年3月期)でみると、年間の増加台数は約1万2700台に上り、約5300台はM&Aで増やした。直近1年半で合計約2万台増加したが、そのほぼ4割をM&Aで賄った形だ。ライバルであるSECエレベーターのメンテナンス台数は5万台にとどまっており、逆転からさらに差を広げた。
ジャパンエレベーターサービスの2021年3月期業績は14%増の245億円、営業利益32%増の36億円。足元の22年3月期は売上高16%増の285億円、営業利益13%増の41億円と、引き続き2ケタの増収増益を見込む。コロナ禍で企業の経費削減ニーズが高まる中、独立系メンテナンス会社への契約切り替えの動きが広がるとみて、潜在需要を掘り起こす。
同社は1994年に、現会長・CEO(最高経営責任者)の石田克史氏が東京都内に設立したのが始まり。群雄割拠する業界にあって後発の部類に入るが、首都圏を地盤に顧客を開拓し、めきめき頭角を現した。
エレベーターやエスカレーターは原則として1カ月に1回の保守点検と、建築基準法に基づく年1回の定期検査を実施しなければならない。
飛躍への原動力の一つとなったのが2007年に独自開発したリモート遠隔点検サービス「PRIME」。主要メーカーの機種ごとに、24時間・365日体制でエレベーターのコンディションを常に把握し、万一の異常発生時への早急な対応を可能にした。
2017年に東証マザーズに株式を上場し、翌18年に東証1部に昇格した。これと軌を一にして関西、九州などへの全国展開が本格的に始動し、M&Aの号砲が鳴った。
2019年4月、第一弾のM&Aに取り組んだ。信越地域でのサービス展開を目的とし、ビルメンテナンス業の上新ビルサービス(新潟県上越市)を傘下に収めた。エレベーターのメンテナンス会社ではないが、ビルメンテナンスと顧客層が重なることなどが決め手となった。
これと相前後し、2017年にジャパンエレベーターサービス関西(大阪市)、19年にジャパンエレベーターサービス九州(福岡市)の両子会社を設立。首都圏にとどまらず、全国的なサービス体制づくりにいよいよ着手したのだ。
2020年には各地のエレベーターメンテナンス会社の買収に一気にアクセルを踏み込んだ。セイコーエレベーター(東京都千代田区)、NSエレベータ(京都府向日市)、三好エレベータ(高松市)、コスモジャパン(青森県八戸市)、関西エレベーター(大阪市)、長野エレベーター(長野市)の6社を子会社化した。
21年に入っても勢いは衰えず、東京エレベーター(東京都中央区)、トヨタファシリティーサービス(東京都豊島区)、エヒメエレベータサービス(松山市)、四国昇降機サービス(高松市)、四国エレベーターサービス(徳島市)を傘下に収めた。
これまで未進出だった東北、中国・四国地方ではM&Aによる地場有力メンテナンス会社の獲得と同時に、自前の営業拠点(支社・営業所)を次々に整備してきた。
9月末の約7万4500台のメンテナンス契約台数をエリア別にみると、東日本が82%、西日本が18%。西日本のウエートが2割を占めるまでになっており、首尾は上々のようだ。
同業他社との差別化の切り札ともいえるのが2017年に埼玉県和光市に開設した「JESイノベーションセンター」。高さ50メートルのテストタワーを備えた研究施設や教育施設、コントロールセンター、パーツセンターなどで構成する。高層テストタワー(エレベーター10台)の建設は独立系メンテナンス会社として初めてで、技術開発やエンジニア教育に威力を発揮している。
海外展開も本格的に動き出した。11月初め、ベトナムの独立系メンテナンス会社であるUNIECO VIETNAM COMPANY(ハノイ)の株式51%を取得し子会社化すると発表した。月内に取得完了の見込み。ベトナムでも保守契約における低コストニーズが高く、今後、独立系メンテナンス会社のシェア拡大が期待できると判断した。
2020年3月には現地企業と合弁会社を設立し、インドネシアのエレベーター市場に参入しているが、海外でのM&Aはベトナムが初めて。
ジャパンエレベーターサービスは中期目標としてメンテナンス台数10万台を掲げている。国内では未進出のエリアが15県ほど残っている。東南アジアでの事業展開と合わせ、国内外でのM&Aは引き続き活発に推移しそうだ。
年 | 主な沿革 |
1994 | 東京都内にジャパンエレベーターサービスを設立 |
2007 | リモート遠隔点検サービス「PRIME」を開発 |
2014 | 香港に現地法人を設立 |
2015 | 持ち株会社化に伴い、ジャパンエレベーターサービスホールディングスに社名変更 |
2016 | インドに現地法人を設立 |
2017 | 東証マザーズに株式上場 |
〃 | ジャパンエレベーターサービス関西(大阪市)を設立 |
〃 | 高層テストタワーを備えた研究施設「JESイノベーションセンター」を完成 |
2018 | 東証1部に上場 |
2019 | ジャパンエレベーターサービス九州(福岡市)を設立 |
〃 | 上新ビルサービス(新潟県上越市)を子会社化 |
2020 | インドネシアに合弁会社を設立 |
〃 | セイコーエレベーター(東京都千代田区)を子会社化 |
〃 | NSエレベータ(京都市向日市)を子会社化 |
〃 | 三好エレベータ(高松市)を子会社化 |
〃 | コスモジャパン(青森県八戸市)を子会社化 |
〃 | 長野エレベーター(長野県松本市)を子会社化 |
〃 | 関西エレベーター(大阪市)を子会社化 |
2021 | 東京エレベーター(東京都中央区)を子会社化 |
〃 | トヨタファシリティーサービス(東京都豊島区)を子会社化 |
〃 | エヒメエレベータサービス(松山市)を子会社化 |
〃 | 四国昇降機サービス(高松市)を子会社化 |
〃 | 四国エレベーターサービス(徳島市)を子会社化 |
〃 | ベトナムのUNIECO(ハノイ)を子会社化 |
文:M&A Online編集部