【市光工業】「ミラー事業」売却を決断、自動車変革期にどう立ち向かう?

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市光工業の本社(神奈川県伊勢原市)

市光工業が事業基盤の再構築にアクセルを踏み込んでいる。自動車用ランプ・ミラーの専門メーカーとして地歩を築いてきた同社だが、2枚看板のうち、ミラー事業を売却することを決断した。

フランスの自動車部品大手、ヴァレオの傘下に入って10年余り。「CASE」と形容される電動化、自動運転などの大変革期が到来する中、ヴァレオのグローバル戦略の一翼を担いつつ、どう再成長に歩を進めようとしているのか。

マザーソン傘下の英SMRに売却

市光工業は9月26日、自動車用ミラー事業を英国SMRオートモービル・ミラーズUK(ポーチェスター)に売却すると発表した。主力の自動車用ランプ(ヘッドランプ、リアランプなど)に経営資源を集中させるのが狙いだ。

市光本体のミラー製造所(群馬県藤岡市)、中国子会社・市光(無錫)汽車零部件有限公司(江蘇省)が手がけるミラー事業を会社分割し、傘下の美里工業(群馬県藤岡市)に移管したうえで、2023年5月1日付で美里工業の全株式を売却する。売却金額は約52億円。

売却先のSMRはインドの自動車部品大手、サンバルダナ・マザーソン・インターナショナル(マザーソン・グループ)の傘下で、バックミラーの製造を主力としている。時期は未定だが、市光はタイ、マレーシアにある自動車用ミラー事業についてもマザーソン・グループに売却する予定。

市光は自動車用のランプとミラーを経営の両輪としてきた。では、今回売却を決めたミラー事業のウエートはどの程度なのか。

世界初の電動格納ドアミラーを開発

2021年12月期の部門売上高は約183億円(本体130億円、中国子会社53億円)で、タイ、マレーシアの事業を含めて200億円弱。2021年12月期の市光全体の売上高1251億円のうち、ミラー事業は約15%を担う。これに対し、ランプ事業は約80%と圧倒的なウエートを占める。

自動車ミラーをめぐってはカメラやモニターに置き換わる動きが広がっている。従来の鏡面ミラーではカバーしきれなかった側方、後方の死角をカメラでとらえ、モニター画面で運転手に伝えるもので、市光もこうした次世代システムにいち早く対応している。

市光は1987年、世界で初めて電動格納ドアミラーを開発したことで知られる。今では当たり前だが、運転席でのスイッチ操作でドアミラーを車体とほぼ平行に折りたためるのは当時、画期的だった。

その市光がミラー事業を手放し、“一本足打法”を選ぶ決断を下したのだ。ランプ事業への選択と集中を進め、限られた経営資源を重点配分し、強い競争力を確保するとしている。

◎市光工業の業績推移(単位は億円。22/12月期は予想)

2019/12期 20/12期 21/12期 22/12期
売上高 1330 1138 1251 1344
営業利益 64 24 55 58
最終利益 52 28 39 51

コロナ禍が背中を押す?

マグニチュードは今回のミラー事業ほどではないが、2020年12月には自動車用電球や光学機器用電球などを手がけるライフエレックス(群馬県邑楽町。2019年12月期売上高は17億1000万円)の保有株式の大部分を中国企業に売却し、連結子会社から外した。

この時、理由としたのが自動車用ランプとミラー事業への経営資源の集中。それだけに、ミラー事業の売却は想定外にも映るが、コロナ禍による事業環境の変化が背中を押したと考えられる。2020年9月には100人規模の早期退職を実施した。

同じく売却案件としては、2015年に本体で手がけるSV(後方確認カメラシステム)、鉄道用前照灯、LED(発光ダイオード)表示灯などの営業販売に関する事業を売却したことがある。

ヴァレオ、2017年にTOBで子会社化

市光工業は2000年代終わりから2010年代にかけて経営が大きく揺らいだ。2008年のリーマン・ショックで業績が悪化し、2009年3月期に178億円の最終赤字に転落。国内6工場のうち、2工場の閉鎖に追い込まれた。

2010年に資本・業務提携先のフランスの自動車部品大手、ヴァレオから社長を受け入れ、事実上、同社の傘下に入った。現在のヴィラット・クリストフ社長(2021年3月に専務から昇格)までヴァレオ出身の外国人トップは3代連続となる。

市光は元々、日産自動車系列。日産の系列見直しに伴い、2000年にヴァレオが日産から市光株を買い取り、資本・業務提携関係が始まった。

ヴァレオが子会社化に踏み切ったのは2017年。TOB(株式公開買い付け)を行い、当時約32%の保有比率を55%まで引き上げた。市光は東証1部(現プライム)上場を維持しているが、ヴァレオの保有比率は現在61%まで高まっている。

ヴァレオはコンプレッサー、パワートレイン(車の動力源)、エアコンなどを主力とし、世界30カ国以上で事業を展開する。日本国内ではヴァレオジャパン(東京都渋谷区)、ヴァレオカペックジャパン(神奈川県厚木市)、市光工業の3社が主軸となっている。

変革期、進化が問われるランプ

自動車をめぐっては「CASE」を呼ばれる技術変革のうねりが押し寄せている。こうした中、自動車ランプの役割も変化が予想される。

例えば、EV(電気自動車)の走行距離に影響しないようランプの消費電力を低減することが必須。また、自動運転では安全走行に寄与する機能を備えたヘッドランプの開発が求められている。

自動車ランプでは市光は小糸製作所、スタンレー電気に次ぐ業界3位。1位、2位とは6倍から3倍の開きがあるが、大変革期は対応次第で順位変動につながりかねない可能性をはらむ。

ヴァレオ・グループの一員として、市光がグローバル市場でどういう立ち位置を獲得するのか、要ウオッチといえよう。

◎市光工業の沿革

主な出来事
1903 白色蝋油・信号灯の製造会社として創業
1939 白光舎を設立
1957 白光舎工業に社名変更
1961 東証2部上場
1968 市川製作所と合併し、市光工業を発足
1971 東証1部上場
2000 フランスのヴァレオと照明機器部門で包括的事業提携
2014 ドアミラー生産の中国「市光(無錫)汽車零部件有限公司」の持ち分50%を追加取得して完全子会社化
2015 SV(後方確認カメラシステム)、鉄道用前照灯などの販売事業をエレマテック(東京都港区)に譲渡
2017 フランスの自動車部品メーカー、ヴァレオのTOBにより、同社の子会社となる
2018 自動車用電球などを製造する子会社のライフエレックス(群馬県邑楽町)の株式約44%を中国社に譲渡
2022 9月、自動車用ミラー事業を英国SMRオートモービル・ミラーズに譲渡すると発表

文:M&A Online編集部