【ヒビノ】東京五輪で“任務”果たし「音と映像」の世界ブランドへ

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ヒビノ<2469>は「音と映像のプレゼンテーター」を標榜する。コンサートやイベントで運用する音響・映像機材を世界有数の規模で保有し、コンテンツの演出や進行を舞台裏で操る。2020年の東京五輪・パラリンピックでは開閉会式や各競技会場の設備・設営などで特需が控え、業績も上昇基調が一段と強まる見通しだ。

実はその同社はM&A巧者としての顔を持つ。傘下に収めた企業は10数社に及ぶ。ここへきて韓国、米国で音響関連企業の買収を決め、海外M&Aを本格化している。

東京五輪特需に照準

「ヒビノをグローバルブランドへ」。現在の中期経営3カ年計画「ビジョン2020」(2019年3月期~)が掲げるテーマだ。最終年度の21年3月期に連結売上高500億円、海外売上高比率15%を数値目標とする。

具体的な経営課題として①東京五輪・パラリンピック需要の取り込み、②業界トップの維持・シェア向上、③ものづくり事業の強化、④グローバル展開の強化、⑤新規事業の開発ーの5項目を位置づけた。②~⑤の項目は前中期計画(16年3月期~18年3月期)でも設定したが、中長期的に取り組む課題であることから現中計に引き継いだ。

目下、全社の総力をあげているのが東京五輪・パラリンピックの施設整備需要への対応。グループ横断組織を設置し、電機メーカーや広告代理店、同業他社を連携し、競技施設への音響・映像機器の設置や運営サポートの受注に向けて活動を展開している。

東京2020大会では全43会場のうち新設が18会場(8会場は恒久施設)。大型LEDディスプレー、パワーアンプ、デジタルプロセッサーなどの納入がすでに実現しているという。一連の設備・設営で中核的な役割を果たし、大会の成功に貢献することで「『ヒビノ』をグローバルブランドへと成長させる足がかりをつかみたい」(日比野晃久社長)と意気込む。

海外で初の企業買収

海外での事業展開には着々と布石を打ってきた。2017年、「ヒビノUSA」(カリフォルニア州)を設立。モーターショーに照準を合わせ、大型映像サービス事業に乗り出した。米国事業については現中計の1~2年目を基盤づくりの期間とし、3年目以降に収益貢献を狙う。東京2020の特需後の反動減なども見据え、米国事業を収益の柱に育てる方針だ。

今年に入り、その米国で初めてとなるM&Aを仕掛けた。相手は照明・音響サービスを展開する同業のTLS PRODUCTIONS(ミシガン州)。株式の80%を約4億8000万円(約440万ドル)で取得し、2月末に子会社化を完了する。

世界4極体制を整える

TLSは1996年に設立し、各種イベントの照明・音響を中心に機材のレンタル、運営サービスを主力とする。直近業績は売上高16億6000万円、営業損失3300万円、純資産1億2000万円。

米国でのイベント市場では照明、音響、リギング(吊りもの)機材の運用を包括的に提供可能な企業にフルサービスを発注する「ターンキー契約」が主流となっている。これまで現地子会社を通じてターンキー需要に対応するためモーターショー案件を中心に、両社は連携関係にあった。今回、TLSを傘下に取り込むことで受注機会の拡大や新領域への進出を目指す。

TLSに先立ち、1月末には韓国でマイクロフォン、ワイヤレスシステムなどの音響機器販売を手がけるSama Soundグループ3社(ソウル)を子会社化した。

ヒビノが取り扱う輸入商品のブランド数は60を超える。ただ、販売代理権は日本国内に限られるため、海外展開はできない。そこで海外同業他社のM&Aによって商圏を国外に拡大しようというわけだ。

ヒビノの海外展開は2007年にLEDディスプレーの販売を目的に英国、香港に現地法人を開設したのが始まり。これに中国(上海)、米国、タイ、韓国が続いた。2017年にはドイツのイベント用映像サービス会社AV-Xに出資(約28%)した。10年余りで日本、アジア、北米、欧州の4極体制をひとまず整えた格好となる。

海外売上比率は明らかにしていないが、現状は1ケタ台とみられる。現中計では15%、将来的には30%を目標とする。4極体制の真価がいよいよ問われることになる。

中計初年度 2ケタ増収増益、コンサートが好調

本社ビル(東京都港区)

現中期計画の初年度である2019年3月期は売上高12.7%増の335億円、営業利益25.8%増の13億5000万円を見込む。2020東京大会の施設整備需要に加え、収益性の高いコンサート市場が計画以上に好調に推移し、2月初めに業績予想を上方修正した。

ヒビノはコンサート市場では圧倒的な機材と現場運営スタッフ(30チーム体制)により、業界トップシェアを誇る。スピーカー保有数は約4000台。最先端の音響機材で迫力に満ちたステージをバックアップする。昨年引退した安室奈美恵さんのラストドームツアーを担当したのも同社。

ヒビノは音響機器販売・施工事業とコンサート・イベント事業を経営の2本柱とし、全売上高の9割以上を占める。主戦場である国内では毎年のようにM&Aに取り組み、傘下に収めた企業は15社近い。こうした積極姿勢を解くキーワードは「ハニカム型」経営だ。

〇中期3カ年計画の概要(単位は億円)

19/3期予想 20/3期 21/3期
売上高 335 390 500
<部門別>
音響機器販売・施工 224 263
映像製品の開発・製造・販売 22.5 24.6
コンサート・イベント 134 195
その他 8 17.1
営業利益 13.5 20 28
最終利益 9.5 12 16

M&Aで「ハニカム型」経営を推進

ハニカムとはハチの巣のように正六角形をすき間なく並べた構造をいい、強度があり、衝撃への吸収力に優れる特徴がある。ハニカム型経営は、いわばハチの巣の孔を増やしていくことで強靭な事業構造を形成できるとの考え方に基づく。その手立てがM&Aの活用というわけだ。

前回中期計画の期間中、ヒビノは建築音響の日本音響エンジニアリング(旧・日東紡音響エンジニアリング)、業務用音響・映像機器販売のエレクトリ、同じくヒビノアークス(旧JVCケンウッド・アークス)の3社を子会社化した。

このうち、日本音響エンジニアリングは放送局やスタジオ、ホールなどの音空間の設計・施工を手がける。同社を傘下に収めたことで、川上の建築音響から川下の音響システム販売までの一気通貫体制を確立した。

建築音響をめぐってはさらに今年1月、日本板硝子環境アメニティを4月1日に子会社化すると発表した。同社は1988年に日本板硝子の環境事業部が独立して発足。ホール、スタジオのほか、高速道路の騒音や商業施設の防音対策に強みを持つ。同社とすでにグループ入りしている日本音響エンジニアリングは建築音響市場を二分する関係にある。買収金額は19億5000万円で、ヒビノとして過去最大級のM&Aとなる。

2013年にはファーストエンジニアリングを子会社化し、照明分野に新規参入した。同社はホールやライブハウスなどの舞台照明で実績を積んでいる。照明事業は現在、「その他の事業」に括られるが、音響、映像に次ぐ柱に育成する構えだ。

ヒビノは2006年に東証ジャスダックに上場したのを機に、M&Aに本格的に着手した。07年、録音・音響機器輸入のヒビノインターサウンド(旧ヘビームーン)、08年に音響・映像機器輸入のスチューダー・ジャパンーブロードキャストを子会社化した。主要機材に関し、複数ブランド体制の確立を推し進めてきた。14年には映画館向けに強みを持つヒビノイマジニアリング(旧コバレント販売)をグループに迎えた。

この間の取り組みをみると、M&Aを活用して既存事業領域の強化と新たな成長機会の創出につなげている。「ハニカム型」経営の実践が読み取れる。実際、売上高も5年前の176億円(14年3月期)からほぼ倍増している。

「世界のHIBINO」への切符をつかむか

ヒビノは前回の東京五輪が開かれた1964年にスタートした。前身の日比野電気(1956年創業)を母体として、「ヒビノ電気音響」を設立し、業務用音響機器の設計・販売・修理業務に乗り出した。

半世紀余りを経て、来る東京2020大会では設備・設営の中核的役割を担うまでに発展を遂げた。「世界のHIBINO」への切符を手に入れることができるのか、要注目だ。

沿革と主なM&A
1964 日比野電気を母体に、ヒビノ電気音響を東京都台東区に設立
2006 東証ジャスダックに上場
映像・音響機器システムプランニングのメディア・テクニカル(東京都江東区、現ヒビノメディアテクニカル)を子会社化
2007 映像・通信機器販売などのアイテムプラス(東京都品川区)を子会社化
英国、香港に現地法人を設立
録音・音響機器輸入販売のヘビームーン(東京都世田谷区、現ヒビノインターサウンド)を子会社化
2008 音響・映像機器輸入販売のスチューダー・ジャパン―ブロードキャスト(東京都港区)を子会社化
2010 中国・上海に現地法人を設立
2013 映像音声機器のレンタル・販売のベスコ(東京都中央区、現ヒビノベスコ)を子会社化
ライブハウス「ケネディハウス銀座」運営のエィティスリー(東京都港区)を子会社化
舞台用など照明・音響機器販売のファーストエンジニアリング(東京都中央区、現ヒビノライティング)を子会社化
2014 映画館、ホール向け映像・音響機器の販売のコバレント販売(東京都中央区、現ヒビノイマジニアリング)を子会社化
イベント用映像・音響システムのメディアニクス(大阪市)を子会社化
2015 建築音響の日東紡音響エンジニアリング(東京都墨田区、現日本音響エンジニアリング)を子会社化
2016 業務用音響・映像機器販売のエレクトリ(東京都豊島区)を子会社化
業務用音響・映像機器販売のJVCケンウッド・アークス(東京都港区、ヒビノアークス)を子会社化
2017 米国に現地法人
ドイツの映像サービス企業AV-Xに出資(27.7%)
2018 タイに現地法人
業務用映像・音響機器販売のテクノハウス(東京都中央区)を子会社化
2019 (1月)音響機器販売の韓国Sama Soundグループ3社を子会社化
(1月)建築音響の日本板硝子環境アメニティ(東京都港区)を子会社化=発表
(2月)照明・音響サービス事業の米TLS PRODUCTIONSを子会社化=発表

文:M&A Online編集部