【フルサト工業】M&Aで誕生するかグループの新中核企業

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フルサト工業の東京本社(東京都大田区)

フルサト工業<8087>が2020年1月6日に、ほぼ3年ぶりにM&Aに踏み切った。2000年に子会社化した機械工具類商社のジーネット(大阪市)が、減速機などのメーカ-である日本電産シンポ(京都府長岡京市)から、一部の無段変速機と減速機の国内販売事業を譲り受けるというもので、ジーネットの伝動機器販売事業の拡大が狙いという。 

フルサト工業はジーネットのほか、2007年に子会社化した岐阜商事(岐阜市)を合わせた3社をグループの中核企業と位置付け、2020年3月期を最終年とする中期経営計画に取り組んできた。 

この中期経営計画ではM&A戦略として「既存事業のシナジーを最大限発揮できるパートナーとの協業」と「新たな分野への参入チャンスの検討」の2つを上げており、今回の事業譲受は1つ目の目標であるシナジーを狙ったM&Aと言えそうだ。 

2020年4月から始まる次の中期経営計画では、継続的に成長を続ける企業グループを目指しており、この目標達成のためにM&Aはどのように位置づけられるだろうか。 

現中期経営計画のもう1つの目標である「新たな分野への参入」については十分とは言い難く、こうした状況を踏まえれば次期中期経営計画にジーネットや岐阜商事のようにグループの中核企業となりうる企業の子会社化が盛り込まれる可能性もありそうだ。 

関心は早くも次期中期経営計画に

同社が2019年10月に発表した2020年3月期第2四半期決算では2020年3月期通期の売上高は1080億円、営業利益は40億円であり、この数字は中期経営計画で掲げた数字とぴったりと一致する。

このため無段変速機と減速機の販売事業譲受は現中期経営計画の数字目標の達成を目的としたものではなく、次期中期経営計画を見据えたものとも言える。事実、今回の事業譲受が2020年3月期の業績に与える影響は軽微としており、業績予想を修正していない。 

同社の2019年3月期は売上高が1078億7300万円、営業利益が40億4000万円で、1年前倒しで中期経営計画を達した状態にある。中期経営計画への関心は早くも2020年4月以降に移っていると言ってもよさそうだ。 

フルサト工業の沿革
1946 大阪市で建築金物の製造業として創業
1959 古里鉄工所を設立
1973 フルサト工業に社名を変更
1986 大阪証券取引所市場新第2部に上場
2000 機械工具類商社のジーネットを子会社化
2002 株式交換でジーネットを完全子会社化
2004 東京証券取引所市場第2部に上場
2006 東京証券取引所、大阪証券取引所市場第1部に上場
2007 工具、工作機械商社の岐阜商事を子会社化
2015 東京都大田区に東京本社設置、東京、大阪2本社制となる
2016 防犯監視システム会社のセキュリティデザインを子会社化
2020 日本電産シンポから一部の無段変速機と減速機の国内販売事業を取得

2つのM&Aで体制整備

フルサト工業は1946年に大阪市で建築金物の製造業として創業した。2000年にジーネットを、2007年に岐阜商事をグループ化し、高層ビルや大型ショッピングモールなどの社会インフラを構築する「鉄骨建築・配管資材事業」と、自動車や食品などの製造業を支える「機器・工具事業、機械・設備事業」の2大事業に加え、住宅やセキュリティ-設備などを手がける「その他事業」の現体制が整った。 

「鉄骨建築・配管資材事業」では建築物を地震から守るために使われる建築資材や、建築物と地盤をつなぐアンカーボルト、鉄骨同士を接合するハイテンションボルトなどのほか継手やバルブ、フランジ、パイプなどの配管資材類、溶接機器、塗装機器などを手がけている。 

「機器・工具事業、機械・設備事業」で取り扱っているのは、産業用ロボットをはじめ、切削用チップ、空圧機器、コンベヤー、作業工具、作業用安全靴などで、商品数は延べ20万アイテムを超える。 

「その他事業」ではシステムキッチン、ユニットバス、トイレ、給湯器、太陽光発電システムなどの住宅向け設備機器や、万引き防止機器、監視カメラ、録画装置などのセキュリティー機器を取り扱っているほか、日本製工作機械や設備機器の海外ユーザーへの販売、海外商品の日本国内での販売などにも取り組んでいる。 

これら事業は堅調に推移しており、2019年3月期決算では工業機器、自動車向け機械工具、住宅設備機器などから成る「機器・工具セグメント」は前年度比2.1%の増収、同13.5%の営業増益を達成。 

工作機械、FAシステムなどから成る「機械・設備セグメント」も同22.6%の増収、同28.7%の営業増益、鉄骨建築資材の「建築・設備資材セグメント」は同11.5%の増収、同39.9%の営業増益となった。 

2020年3月期第2四半期も同様の傾向が続いており、3セグメントとも前年同期比増収増益を達成している。2020年3月期が半分終わった段階で前年同期を上回る業績を残しており、中期経営計画の達成の可能性は極めて高い状況にある。 

新しいステージでのM&Aは

フルサト工業の売上高はジーネットの子会社化前の10年間は200億円前後で推移していた。それがジーネットを子会社化した後は、売上高が一気に400億円を突破。岐阜商事を子会社化した2007年度は過去最高を更新し1000億円に迫るところまで業績を伸ばした。 

その後2008年のリーマンショックで業績は悪化し、一旦は近づいた1000億円の大台が遠のいていたが、2019年3月期に売上高が1000億円を超え、新しいステージに入った。 

フルサト工業はジーネットの子会社化により機械工具や工作機械などの新しいビジネスへの参入を実現した。岐阜商事の子会社化では自動車という新たな販売チャネルを獲得し、提案型営業のノウハウを吸収することができた。 

ジーネットは1909年に鋲螺子や金物類を取り扱う五味屋商店として創業。1980年代に労働争議が発生し、1983年に創業家から銀行出身者に社長が交代したほか、1997年には簿外取引による特別損失30億円を計上するなどの経緯を経て、2000年に第三者割当増資を実施し、フルサト工業の傘下に入った(フルサト工業の出資比率は51%)。その後2002年に株式交換でフルサト工業の完全子会社となった。 

岐阜商事は1934年に岐阜市で燃料、油脂、機械工具の販売会社・華陽燃料として設立された。東海地区を中心に自動車関連産業に切削工具や工作機械などを直接販売しており、1995年に病院リネンサプライや病院運営の周辺業務受託、介護用品のレンタルなどを手がけているトーカイの傘下に入ったあと、2007年にフルサト工業の子会社となった。 

フルサト工業は2016年に監視カメラや防犯機器などを手がけるセキュリティデザイン(東京都港区)を子会社化したが、当時「影響が軽微なため連結の範囲には含めない」とした。無段変速機などの事業譲受も影響が軽微としており、両M&Aはともにジーネットや岐阜商事の子会社化のようなインパクトはない。新しいステージでは業績に大きなインパクトを与えるM&Aは実現するだろうか。今後の動向に注目したい。

ジーネットの沿革
1909 鋲螺子や金物類を取り扱う五味屋商店を創業
1947 五味屋機工を設立
1949 五味屋機工商会に社名を変更
1960 五味屋に社名を変更
1964 大阪証券取引所市場第2部に上場
1991 ジーネットに社名を変更
2000 フルサト工業グループ入り
年   岐阜商事の沿革
1934 岐阜市で燃料、油脂、機械工具の販売会社 華陽燃料を設立
1941 岐阜商事に社名を変更
1995 トーカイグループ入り
2007 フルサト工業グループ入り

文:M&A Online編集部