【イートアンドHD】6年ぶりにM&Aを再起動、 タンメン発祥の「横濱一品香」買収

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東京・飯田橋の「大阪王将」店舗

中華料理「大阪王将」をチェーン展開するイートアンドホールディングス(HD)が昨年末、6年ぶりにM&Aを実行した。買収先は同じく中華の「横濱一品香」(横浜市)。国内でのタンメン発祥として知られる地域の名店を傘下に収めた。

イートアンドHDは2010年代前半、海外を含めて企業買収に積極的に取り組んだが、その後は音なしの構えを決め込んでいた。M&A再起動のきっかけとなるのだろうか。

6年ぶりに買収、選んだのは地域の名店

「横濱一品香」のネーミングは実は屋号。イートアンドHDは2020年12月30日付で、その運営会社である一品香の全株式を取得し、子会社化した。横浜市内を中心に11店舗を展開している。グループ入り前の直近業績は売上高8億1900万円、営業利益1000万円、最終赤字2100万円、純資産2億4800万円。取得金額は非公表としている。

タンメンは炒めた野菜に塩味のスープを加えた麺料理。横濱一品香の創業は1955(昭和30)年で、戦後満州から引き揚げてきた料理人が現地の家庭料理の味を再現したのが日本におけるタンメンの始まりと言われている。看板メニュー「絶品たんめん」をはじめ、モヤシたっぷりの「サンマーめん」、焼き餃子、各種一品料理を提供している。

イートアンドHDは「大阪王将」352店舗を中心に、ラーメン、ベーカリーカフェなど多様な業態で全国に465店舗(うち直営86店舗、2020年12月末。合計は海外35店舗を含む)を展開する外食大手。創業は1969年で、業歴の点では横濱一品香に軍配が上がる。イートアンドHDは伝統と老舗の味を取り込むことで、既存事業との相乗効果を期待している。

中国戦略も再び本格始動へ

イートアンドHDがこうしたM&Aに取り組むのは2014年以来となる。外食コンサルタントのフードランナー(東京都港区)、ビアレストランのA&B(同)を相次いで買収した後、M&Aから遠ざかっていた。

さかのぼれば、2012年には中華総菜のネット販売を目的にEC(電子商取引)サイト運営のナインブロック(大阪市)を買収したほか、中国では上海で飲食店を営む億特安餐飲管理有限公司の子会社化に踏み切った。億特安餐飲とは中国での大阪王将の直営・加盟(フランチャイズ)出店を連携して進める計画だったが、2年後の2014年に出資を解消している。

停滞していた中国戦略も2020年に再び動き出した。昨年12月末、ラオックスと合弁会社を上海に設立することで合意したと発表した。イートアンドHDが66%、ラオックスが34%を出資する。中国での外食展開、食品販売に本格的に乗り出す構えだ。

イートアンドHDは現在、海外では台湾19店舗を筆頭に、シンガポール8店舗、タイ3店舗などアジアの7カ国・地域に35店舗を持つが、中国では1店舗にとどまり、巻き返しがに急務になっている。

「食品」が外食を上回る売上構成

外食のイメージが強いイートアンドHDだが、もう一つが食品企業としての顔だ。売上構成は「大阪王将」を中核とする外食事業が46.3%に対し、「羽根つき餃子」「ぷるもち餃子」「手作り餃子の素」など中華総菜の食品事業が53.7%と半分を超える。一般市販用のほか、業務用、生協用に太い販路を持つ。

10年前は外食事業のウエートが70%近くを占めていたが、食品事業が経営の両輪を担うまでに成長を遂げた。この間、全社の売上高は倍増し、業容の拡大とともに、2本柱の確立は経営の安定化をもたらした。

加盟店への食材や冷凍商品を手がける生産拠点は関西工場(大阪府枚方市)、岡山工場(岡山県笠岡市)、関東第1・第2工場(群馬県板倉町)を持つ。

ただ、足元は新型コロナウイルス感染拡大の影響を免れない。2月12日に発表した2021年2月期業績予想(決算期変更に伴う11カ月変則決算)は売上高257億円、営業利益2億円、最終赤字2億1000万円。最終赤字は2011年に株式上場して以来初めてだ。

2020年4~12月の売上状況をみると、食品事業は在宅時間の増加などを追い風に6%余り伸びたのに対し、外食事業は21%の大幅な落ち込みとなった。不採算の50店舗を閉店(新規出店は24店舗)する一方、本社ビル(大阪市)の売却にも踏み切った。

 ◎イートアンドHDの業績推移(単位億円、△損失。21/2期は11カ月変則決算)

19/ 3 期 20/3期 21/2期予想
売上高 291 303 257
営業利益 8.3 8.1 2
最終利益 3.3 3.4 △2.1

持ち株会社に移行、“東京シフト”進む

イートアンドHDは「餃子の王将」を展開する現・王将フードサービスからのれん分けの形で1969年、大阪・京橋に「大阪王将」第1号店を開いたのが始まりだ。2002年に社名を大阪王将から、イートアンドに変更し、翌03年から関東に進出を開始した。

現在は47都道府県のすべての出店を果たしている。「横濱一品香」のケースに引き続き、全国各地域の名店を傘下に取り込んでグループ事業の運営効率化につなげる動きが広がることも予想される。 

2020年10月に経営体制の見直しを断行した。持ち株会社制に移行し、社名をイートアンドHDに改めた。傘下に大阪王将をはじめ、食品製造のイートアンドフーズ、ベーカリーカフェ事業のアールベイカー、海外事業のイートアンドインターナショナルの4子会社を配置する布陣だが、大阪王将以外はいずれも東京に本拠を構える。

祖業の外食事業では中国市場開拓と並び、大阪王将に続く新業態の育成が積年の課題だ。現在33店舗のラーメン業態では京風鶏ガラとんこつ「よってこや」に続き、「太陽のトマト麺」を展開中だが、苦戦中。ベーカリーカフェも伸び悩んでいる。 

外食事業の局面転回に向けた起爆剤として、アフターコロナを見据えつつ、M&Aの新たな出動機会をうかがうことになりそうだ。

沿革
1969 「大阪王将」第1号を大阪・京橋に開店
1977 大阪王将食品を設立
1996 大阪王将に社名変更
2002 イートアンドに社名変更
2003 「大阪王将」の関東進出を開始
2011 ジャスダックに上場
「大阪王将」300店舗達成
2012 ECサイト企画・運営のナインブロック(大阪市)を子会社化
中国の億特安餐飲管理(上海)有限公司へ追加出資し子会社化
東証2部に上場
2013 東証1部に昇格
2014 外食コンサルタントのフードランナー(東京都港区)を子会社化
ビアレストラン運営のA&B(東京都港区)を子会社化
中国の億特安餐飲管理(上海)有限公司への出資を解消
2018 台湾に一特安餐飲股份有限公司を設立
2019 関東第2工場(群馬県板倉町)を完成
2020 10月、持ち株会社制に移行、イートアンドホールディングスに社名変更
12月、「横濱一品香」の一品香(横浜市)を子会社化
12月、ラオックスと中国・上海に合弁会社設立で合意

文:M&A Online編集部