【アサヒペン】四半世紀ぶりにM&A、ペットフード・用品事業に参入

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アサヒペンの東京本社ビル(東京都江東区)

アサヒペンは家庭塗料のトップメーカーとして高いブランド力を誇る。家庭塗料に進出したのは60年前の1962(昭和37)年で、業界のパイオニアとしても知られる。塗料事業とDIY(日曜大工)用品事業を経営の両輪としてきたが、ここへきてM&Aをテコに新たな成長戦略を打ち出した。ペット関連事業への参入だ。

25年ぶりのM&A

アサヒペンは4月末、ペットフード・ペット用品総合卸売のザ・ペット(大阪府茨木市)を子会社化した。実は同社が本格的なM&Aに取り組むのは25年ぶり。1987年にDIY販売の共福産業(大阪市)を傘下に収めて以来となる。

一見、畑違いに思えるペット関連市場への参入だが、どういう狙いが込められているのか。アサヒペンは現行の新中期経営ビジョン「AP SPEC180」(2022年3月期~25年3月期の4カ年)で10年後の連結売上高250億円を掲げている。

その目標達成に向け、課題に据えていたのが既存事業の枠にこだわらない新規事業の推進。新中期経営ビジョンのスタートを受け、満を持してM&Aを繰り出した形だ。

子会社化したザ・ペットは1984年に設立し、「ペットの総合商社」を標ぼうする。フード、おやつ、薬・サプリメント類から、おもちゃ・グッズ、犬具・犬舎、美容・トイレタリー用品まで幅広く取り扱い、取引先は関西約1800店、関東約400店に及ぶ。台湾、香港、中国、マレーシアなどに輸出も手がける。

ザ・ペットの直近業績(2021年5月期)は売上高38億円、営業利益1億7600万円、最終利益1億5400万円。アサヒペンは買収金額を明らかにしていないが、ザ・ペットの純資産額(約11億6000万円)を踏まえれば、20億円近いとみられる。

「売上高180億円」前倒し達成へ

アサヒペンが5月13日に発表した2022年3月期決算は売上高10.8%減の141億円、営業利益17.5%減の8億4100万円、最終利益58%増の10億300万円。巣ごもり消費による需要増の反動減や夏季の天候不順で売り上げが落ち込み、これに原材料価格の高騰などが加わり、2ケタの減収・営業減益につながった。

新中期経営ビジョンでは最終年度の2025年3月期に売上高180億円を目指している。今回、ザ・ペットを取り込んだことで早くも計画を前倒しで達成したのも同然といえる。

ただ、足元の今期(23年3月期)予想は未確定要素が多いとして公表を見送っている。当面は、子会社化したザ・ペットとの統合作業(PMI)を円滑に進めると同時に、既存事業を安定軌道に戻すことが急務となる。

◎アサヒペンの業績推移(単位億円)

20/3期 21/3期 22/3期 25/3期(目標)
売上高 137 158 141 180
営業利益 6.5 10 8.4 10
最終利益 5.2 6.3 10 7.5

「家庭塗料」専業にいち早く転進

アサヒペンは1940(昭和15)年に大阪市旭区で「大和塗料工業所」として発足し、塗料の製造に乗り出した。戦後の1947年に法人化したのに伴い、「旭ペイント」に改称した。

家庭塗料に進出したのは1962年。欧米での家庭塗料の普及ぶりと日本での将来性に着目し、家庭塗料専業メーカーに転身したのだ。生産財と位置づけられていた塗料を消費財としてとらえ、当時国内に存在しなかった家庭塗料という新しい市場に挑んだ。

専門的な知識・技能が必要な業務用塗料に対し、誰でも手軽に使えるのが家庭塗料。このため、1回の塗りだけで仕上げられるワンコート化などへの対応が求められる。1973年には水性塗料「住宅用7」を発売し、家庭塗料水性化の先鞭をつけるなど、商品開発で業界をリードした。

ひと頃、テレビCMに熱心に取り組み、「家庭用はアサヒペン!」「オーマイカラー アサヒペン」といったフレーズが茶の間に浸透し、知名度を一気に高めた。

3本目の柱にペット関連事業

塗料事業に並行してDIY事業に順次進出。ハウスケア(ワックス、洗浄剤、住宅用補修材など)、インテリア(障子紙、ふすま紙、ガラス用装飾シートなど)、ガーデニング(プランターなど園芸用品)に手を広げた。

こうした事業展開の過程で、いくつかのM&Aに取り組んでいる。1984年に工業塗料メーカーの大豊塗料(東京都江東区)を、1987年にDIY用品販売の共福産業を子会社化し、グループに迎えた。

現在の売上高構成をみると、塗料事業が約60%、DIY事業が約40%。ここに今回、ペットフード・ペット用品事業が3つの柱として加わることになったのだ。

強固な財務基盤に物を言わせる?

日本塗料工業会によると、2021年度需要実績見込みは前年度比1.6%増の117万4000トン。このうち家庭塗料は同7.1%減の2万7000トンで、総需要に占める割合は2.2%に過ぎず、ニッチ市場といえるジャンルだ。しかも、人口減や少子高齢化に伴い市場は縮小に向かっている。

アサヒペンは財務力に定評がある。2022年3月期末の純資産は132億円と売上高に迫り、自己資本比率も67.2%と極めてハイレベルにある。

すでに触れた通り、アサヒペンは経営ビジョンの中で2030年前後に売上高250億円を目指している。その道筋をどうつけるのか。強固な財務基盤を背景に、第2、第3のM&Aを準備することになりそうだ。

◎アサヒペンの沿革

主な出来事

1940 大阪市で大和塗料工業所として発足し、塗料の製造を始める
1947 株式会社に改組し、旭ペイントを設立
1962 家庭塗料を発売
1965 家庭塗料のブランドに合わせ、アサヒペンに社名変更
1969 ハウスケア用品に進出
1976 米国シアトルに現地法人を設立
1977 店頭市場に株式登録
1978 大証2部に上場
1980 兵庫工場(兵庫県加東市)が操業
1984 工業用塗料の大豊塗料(東京都江東区)を子会社化
1987 DIY用品販売の共福産業(大阪市)を子会社化
1988 東京本社ビル(東京都江東区)が完成
1991 大阪本社ビル(大阪市)が完成
2004 ホームセンター部門の不採算3社(オレンジタウン、サンジャンボ、ナイスデイ)を清算
2010 米国シアトルの現地法人を清算
2013 東証2部に上場
2022 4月、東証スタンダード市場に移行
4月、ペットフード・ペット用品総合卸のザ・ペット(大阪府茨木市)を子会社化

文:M&A Online編集部