【AOKIホールディングス】M&Aで「ネカフェ」トップ企業に

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行で、飲食業や観光業が大きな打撃を受けたのは周知の通り。だが、大手企業で最も荒波を被ったのはアパレル業、中でもオフィス勤務者向けのビジネススーツ業界だろう。リモート勤務の普及で、スーツを着る機会が激減したからだ。そもそもコロナ禍以前からオフィス衣料のカジュアル化が進み、スーツ市場は縮小していた。紳士服チェーン国内2位のAOKIホールディングス<8214>は、どうやって生き残ろうとしているのか?同社のM&A戦略から探る。

紳士服チェーンが複合カフェを買収

5月23日、AOKIは複合カフェ「自遊空間」を運営するランシステム<3326>の株式50.71%を第三者割当増資引き受けなどで取得し、子会社化すると発表した。「ネットカフェ(ネカフェ)」とも呼ばれる複合カフェは、飲食だけでなく漫画喫茶やインターネット喫茶、ゲーム喫茶、ワークスペース、ビリヤードやダーツなどが楽しめる。スーツをはじめとする紳士服チェーンのAOKIが、なぜ複合カフェを買収するのか?

実はAOKIはエンターテインメント事業として、複合カフェ「快活CLUB」を展開しているのだ。鍵付き完全個室を30分380円(税込、以下同)、12時間4150円で利用可能な手軽さに加えて、コミックや雑誌、ビデオ、カラオケなどのエンターテインメントを利用できるほか、無線LANやコンセント、プリンターなどを備えておりオフィス代わりにも使える。

「自遊空間」は自社が手掛ける「快活CLUB」の同業であり、AOKIは8億8786万円(第三者割当増資引き受け8億2400万円、株式譲渡6386万円)を投じて、事業規模拡大のためのM&Aに乗り出した。

AOKIの子会社が展開している複合カフェ「快活CLUB」(快活フロンティアホームページより)

売上高の3分の1以上がエンターテインメント事業に

2022年3月期の「快活CLUB」を含む同社のエンターテインメント事業売上高は569億9300万円と、主力のファッション事業の886億4200万円に次ぐ2位で、売上シェアの36.8%を占める。

2022年3月期事業セグメント別売上高(単位:百万円)

事業セグメント 売上高 売上高シェア 前期比増減
ファッション事業  88,642 57.2%  3.8
エンターテイメント事業  56,993 36.8% 17.5
アニヴェルセル・ブライダル事業    7,976   5.1% -0.7
不動産賃貸事業    4,429   2.9% 14.3
154,916   -   8.2

エンターテインメント事業の営業利益も2021年3月期の△51億9000万円の赤字から5億9000万円の黒字に転換した。営業利益に占める同事業のシェアは10.8%と売上高に比べると小さいが、これは同事業のうちカラオケの「コート・ダジュール」が7億6500万円の営業赤字で同事業の足を引っ張ったため。

同事業のうち複合カフェの「快活CLUB」は、13億5500万円の営業黒字を計上している。「快活CLUB」単独の営業利益シェアは24.9%と全体の約4分の1を占める。「快活CLUB」の2022年3月期売上高は対前期比19.2%増と、同3.8%増のファッション事業の成長率を大きくしのぐ。AOKIが主力のファッションではなく、複合カフェをM&Aのターゲットにしたのも、そのためだ。

2022年3月期事業セグメント別営業利益(単位:百万円)

事業セグメント 営業利益 営業利益シェア 前期比増減
ファッション事業 4,795  88.1% 219.9
エンターテイメント事業    590  10.8%
アニヴェルセル・ブライダル事業   -580 -10.7%
不動産賃貸事業    833  15.3%  30.2
5,443    8.2

複合カフェでダントツに、課題は利益率の向上

大手企業がしのぎを削る紳士服チェーンやファッション小売業界と違い、複合カフェは中小事業者が多く、競争がそれほど厳しくないという事情もある。「快活CLUB」を運営するAOKI子会社の快活フロンティア(横浜市)が業界首位で、23日に買収を発表したランシステムが2位。このM&AでAOKIが複合カフェ「1強」状態となる。そもそも快活フロンティアも、2008年4月にAOKIが株式交換で完全子会社化した会社だ。

今後もAOKIは複合カフェのM&Aを積極的に推進し、縮小するファッション事業に代わる主力事業として育てていく。さらに同社の場合、紳士服店舗の多くは郊外で広い駐車場スペースがあり、乗用車での移動が当たり前の地方都市では複合カフェに最適の立地条件だ。紳士服店舗を「快活CLUB」に改装することで、縮小するファッション事業から複合カフェへの業種転換もスムーズにできる。

複合カフェシフトの課題は、利益率の向上だろう。「快活CLUB」の2022年3月期売上高営業利益率は2.89%と、ファンション事業の5.41%を大きく下回る。同社を支える主力事業となるには、最低でも5%は必要だ。2021年3月期末に前期比8店舗増の504店舗と500店舗を超えた「快活CLUB」だが、同期に29店舗を開店する一方で21店舗を閉店するなど出店戦略の精度にも問題がある。

複合カフェを紳士服に代わる看板事業とするには、M&Aによる規模拡大と同時に不採算店舗をなるべく出さない慎重な出店前審査が必須だろう。複合カフェ部門の営業利益率を引き上げるためには、出店先を精査して赤字店舗を出さないこと、それにより閉店費用を抑える必要がある。

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online編集部