新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で観光業は深刻なダメージを受けた。大手航空券予約サイト「skyticket(スカイチケット)」を運営するアドベンチャー<6030>も例外ではない。
同社の売上高はコロナ禍前の2019年6月期の約505億円から、2020年6月期には約496億円、21年6月期には約362億円と減少を続けた。コロナ禍前には積極的な買収をしていた同社も、一転にして子会社の売却に走る。その「売り」の流れが、ついに止まったのだ。
6月30日、アドベンチャーは3月に設立した宿泊事業子会社のVacations(東京都渋谷区)を通じて、レ・コネクション(京都市)の宿泊事業(年間売上高3630万円)を3億7000万円で取得すると発表した。同社は京町屋の一棟貸しを中心に、京都市内で59カ所の宿泊施設を運営している。取得予定日は9月1日。
アドベンチャーは旅行代理店業以外の宿泊事業を法人化してVacationsに集約。意思決定のスピードアップとサービスの高度化を図っている。今回の買収はポストコロナをにらみ、海外からのインバウンド客や国内旅行客の増加に対応するのが狙いだ。
同社は2015年4月から2019年1月にかけて積極的な買収を仕掛けてきた。2015年4月にアプリ事業の拡大を狙い、スマートフォンアプリを企画・開発・運営する香港AppAge Limited(売上高1110万円、営業利益608万円、純資産7550万円=当時、以下同)の全株式を取得して完全子会社化している。
2018年はアドベンチャーにとって「M&A」の1年だった。1月に6億3500万円でコスミック流通産業(横浜市。売上高207億円、経常利益3400万円、純資産1億4400万円)を、1400万円でコスミックGCシステム(同。売上高58億8000万円、経常利益300万円、純資産2100万円)の全株式を取得し、商品券やギフト券などの販売店・サイト運営を手がける両社を完全子会社化すると発表した。
同月にはスポーツ用品衣類やカジュエルウエアの製造を手がけるwundou(東京都葛飾区。売上高8億2600万円、経常利益1億1900万円、純資産5億2000万円)の全株式を8億円で取得し、完全子会社化している。アドベンチャーは自社の予約サイトで培ったオンラインマーケティングノウハウを活用してwundouの新規顧客開拓や販売拡大を目指した。
6月に同業のTET(大阪市。営業収益1240万円、経常利益302万円、純資産1510万円)の全株式を2億8000万円で取得し、完全子会社化した。TETは日本航空の認可代理店で、国内線の仕入れに強みを持つ。アドベンチャーは自社予約サイトとの連携を通じて航空券販売事業の拡大を狙った。
11月はファッション関連のM&Aが相次いだ。海外ブランド衣料・服飾雑貨の輸出入と販売を手がけるギャラリーレア(大阪市中央区。売上高79億9100万円、経常利益6700万円、純資産31億3200万円)の株式80.95%を11億5100万円(アドバイザリー費用などを含む)で取得し子会社化すると発表した。
ギャラリーレアは1979年創業で、海外ブランド衣料雑貨、服飾雑貨の取り扱いのほか、これら商品の古物の売買やBtoBオークションの開催、運営などに取り組んでいた。アドベンチャーがオンライン予約サービスで得た広告や集客のノウハウを、ギャラリーレアの顧客掘り起こしに活用することを狙った。
さらにゲームアプリ開発のenish(東京都港区)からファンションレンタルサービス「EDIST.CLOSET」事業を3700万円で取得すると発表。2016年1月にスタートした「EDIST.CLOSET」はプロのスタイリストが監修したコーディネートをセットで顧客に届けるファッションサービスだ。
「EDIST.CLOSET」事業の業績は売上高1億3500万円、営業損失7400万円と振るわなかったが、アドベンチャーはオンライン予約サービスで培ったシステム開発や広告・集客ノウハウを応用することで同事業の成長を加速できると判断し、傘下に取り込んだ。
2019年1月にはツアー企画のラド観光(大阪市。売上高61億5000万円、経常利益9200万円、純資産4億5800万円)の全株式を10億5000万円で取得し、完全子会社化した。同社は1968年に設立し、西日本で航空券の発券やバススキーツアーなどの旅行サービス・商品を販売していた。オンライン予約サービスで得た広告・集客のノウハウを応用し、新たな顧客獲得などを通じてラド観光の事業拡大を狙った。
一連の買収企業のうちTETとラド観光、それに予約サイトを支えるアプリ開発のAppAgeを除く4社は、アドベンチャーにとっては畑違いの業種。航空券予約サイト以外のビジネスを取り込む多角化戦略の一環で、経営の安定を図るためのM&Aと言えるだろう。ところが、その目論見はコロナ感染の拡大で吹っ飛ぶ。
コロナ感染拡大で政府は2020年春以降に何度も非常事態宣言を発出し、国民や企業に旅行や出張を含む県境をまたぐ移動の自粛を求めた。その影響で航空券予約が激減し、アドベンチャーの業績も急降下した。こういう時のために買収した異業種の子会社だったが、期待していたほどの成果は出せなかったようだ。買収した他業種企業を次々と売却し始めた。
2020年8月にwundou(東京都葛飾区。売上高6億4700万円、営業利益4640万円、純資産5億2300万円)の全株式を、各種織物製造の丸井織物(石川県中能登町)に5億9000万円で譲渡すると発表した。新型コロナウイルス感染拡大で主力の旅行事業を除く分野での事業整理第1号に。
同月にはギャラリーレア(大阪市。売上高55億円、営業利益7500万円、純資産2億8400万円)の全株式を、オークネット<3964>に5億9900万円で譲渡すると発表。2021年4月にEDIST(東京都渋谷区。売上高3億8800万円、営業利益△7640万円、純資産244万円)の全株式を1800万円でダスキンに譲渡すると発表した。
そして2022年3月に金券・チケットショップ運営のコスミック流通産業(横浜市。売上高237億円、営業利益3300万円、純資産2億7900万円)と、ギフト券販売などを手がけるコスミックGCシステム(同。売上高140億円、営業利益7200万円、純資産4400万円)の全株式をプロトコーポレーション<4298>に15億7100万円で譲渡した。
この両社は買収額よりも9億3600万円も高く売却できた。そのため売却した4社合計では9300万円の譲渡益が出ている。4社買収による事業多角化の夢は挫折したものの、損失が出なかったのだから「M&A上手」と言えるだろう。
さて、本業に極めて近い宿泊事業で買収を再開したアドベンチャーだが、当面は本業周辺の買収で経営基盤を固めるのか、それとも再び異業種企業を取り込んで経営多角化を軌道に乗せるのか?今後の同社のM&Aに注目したい。
開示日 | 取引価額(単位:百万円) | 内 容 |
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2015年4月1日 | 非公表 | スマホアプリ開発の香港AppAgeを子会社化 |
2018年1月22日 | 686 | 商品券・ギフト券販売のコスミック流通産業など2社を子会社化 |
2018年1月31日 | 811 | スポーツウエア製造のwundouを子会社化 |
2018年6月12日 | 282 | 日航認可代理店のTETを子会社化 |
2018年11月16日 | 1,151 | 海外ブランド輸出入・販売のギャラリーレアを子会社化 |
2018年11月30日 | 37 | enishからファンションレンタルサービス事業を取得 |
2019年1月23日 | 1,050 | ツアー企画のラド観光を子会社化 |
2020年8月5日 | 590 | スポーツ用品衣料製造子会社のwundouを丸井織物に譲渡 |
2020年8月25日 | 599 | 海外ブランド輸入販売のギャラリーレアをオークネットに譲渡 |
2021年4月28日 | 18 | 洋服レンタルサイト運営のEDISTをダスキンに譲渡 |
2022年3月25日 | 1,571 | 金券ショップ運営のコスミック流通産業など2社をプロトコーポレーションに譲渡 |
2022年6月30日 | 370 | レ・コネクションから京都市内の宿泊事業を取得 |
この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。
文:M&A Online編集部