次期MacにCPUを提供のARM、実はアップルが設立していた

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米アップルが2020年中にパーソナルコンピューター「Mac」シリーズのCPU(中央演算処理装置)を、現在のインテル製から自社開発したARMアーキテクチャーの「Apple Silicon」へ切り替える。アップルは1984年に大型コンピューターCPUの流れをくむモトローラ製CPUでパソコンに参入し、1994年に米IBMなどと共同開発した「パワーPC」を採用するなど、米マイクロソフトの「ウィンドウズ」OSと組んだ機械制御派生のインテル製CPUとは一線を画してきた。

ARMの創立前から関っていたアップル

ARMアーキテクチャCPUが搭載される「MacBook Pro」(アップルホームページより)

しかし、アップルは2006年にパソコンでは事実上の世界標準になっていたインテル製CPUに変更。創業者のスティーブ・ジョブズCEO(当時)が、こき下ろしていた「ウィンドウズ」を「Mac」シリーズで利用できるようになった。その結果、それまでは個人やデザイナー、医療機関、教育機関に限られていた「Mac」シリーズが企業でも採用されることになる。

アップルにパソコンでの「脱インテル」を決断させたARM。日本では2016年にソフトバンクグループ<9984>が約240億ポンド(約3兆3000億円=当時)で完全子会社化したことで一躍有名になったが、実は同社とアップルの関係は深い。そもそもARMはアップルが誕生させた会社なのだ。

アップルは1980年代後半からARMの前身である英エイコーン・コンピュータと共同開発を進めており、1990年に両社とカスタム半導体の開発・製造を手がける米VLSIテクノロジーのジョイントベンチャーとして、ARMアーキテクチャー専業の「Advanced RISC Machines Ltd」を設立した。アップルが150万ポンド(約2億円)の資金を、エイコーンが12人の自社エンジニアを送り込み、ARM株を43%ずつ持ち合う。当時のARMの時価総額は、わずか350万ポンド(約4億7000万円)程度だったわけだ。

その後、アップルは1993年から業績が低迷し、キヤノン<7751>や米IBM,蘭フィリップスなどへの身売りを模索するが、いずれも実現しなかった。エイコーンも業績が悪化し、1999年から事業部門ごとに切り売りされて解体されている。VLSIテクノロジーは1999年に約10億ドルでフィリップスに買収された。一方、ARMは1998年にロンドン証券取引所とNASDAQに上場。併せて「ARM Ltd」に社名変更し、親会社たちの苦境を尻目に成長していく。

ARM・アップル連合はIoT時代のプラットフォーマーになる?

さて、アップルによるARMアーキテクチャーCPUの初採用は、1991年に発売したPDA(個人情報端末=通信機能がないタブレット端末)「ニュートン」向けに共同開発した「ARM6」ベースの「ARM610」だった。「ARM6」は、ARMが設立後に初めて開発したCPUだ。その後もARMは携帯音楽プレーヤーの「iPod」やスマートフォンの「iPhone」、タブレット端末の「iPad」向けにCPUを開発している。ARMにとってアップルは「創業以来のお得意様」なのだ。

アップルの初ARM搭載機は約30年前に発売したPDA端末の「ニュートン」。商業的には成功しなかった。(Photo by moparx)

それにもかかわらずARMとアップルの関係が目立たないのは、モバイル端末向けのCPUとして圧倒的に強く、モバイルCPUの「事実上の世界標準」だから。日本製品だけでも任天堂<7974>の「ゲームボーイアドバンス」や「ニンテンドーDS」「同 Lite」、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation Vita」といったポータブルゲーム機、NTTドコモの3G(第3世代)携帯電話「FOMA」シリーズ以降の端末など、多くの製品でARMアーキテクチャーが採用されている。そのためARMの「アップルカラー」が薄められているのだ。

現在、ARMの持株会社である英ARMホールディングスはソフトバンクグループ(出資比率75%)と同社傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(同25%)の子会社となっており、アップルとの資本関係はない。だが、アップルとARMは「二人三脚」による共同開発を続け、ついにパソコンの「Mac」シリーズにまで到達した。

新たに採用する「Apple Silicon」は「電気は食わないが、処理能力はそこそこ」だったモバイル用のARMアーキテクチャーを、パソコンにも利用できるようパワーアップしている。インテル製CPUより省電力なのはもちろんのこと、処理能力も高いという。アップル製パソコンに搭載するCPUは、今後2年をかけて全てがARMアーキテクチャーになる。

アップルとしては音楽端末からスマホ、タブレット、パソコンに至るまで、同一の環境でシステムやアプリケーション開発が可能になる。マイクロソフトが「ウィンドウズ」で実現できなかったスマホやタブレット、パソコンといった端末のカテゴリーに依存しないシームレスな使用環境を提供できれば、現在は世界シェアが7%弱にすぎない「Mac」シリーズの存在感も高まるだろう。

さらには、IoT(モノのインターネット)で最も普及しているARMアーキテクチャーを「Mac」シリーズに取り込むことで、アップルが次世代デジタル社会の新たなプラットフォームを構築するかもしれない。

文:M&A Online編集部