かつて国内に3つあった長期信用銀行の明暗が分かれている。
インターネット金融大手のSBIホールディングスによる買収の標的となり、何かと騒がしい新生銀行。その前身は日本長期信用銀行(長銀)で、業界の「次男」だった。「長男」の日本興業銀行(興銀)は経営統合を経て、みずほ銀行に姿を変え、目下、大規模システム障害問題に揺れる。
一方、「末弟」の日本債券信用銀行(日債銀)を引き継ぐあおぞら銀行は自主独立経営に復帰後、中規模ながら、しっかり稼げる銀行に変身。傘下のネット銀行を軌道に乗せるなど、今や「勝ち組」との呼び声が高い。
旧長信銀3行のうち、新生銀行とあおぞら銀行は1998年、バブル崩壊後の不良債権問題で行き詰まり、経営破たんした過去を持つ。
いずれも一時国有化を経て、米投資ファンドの傘下で再建を進め、新生銀は2004年、あおぞら銀は2006年に再上場した。その際、金融債の発行で資金を調達できる長信銀の特権を返上し、普通銀行に転換。数年して両行の合併構想が持ち上がったが、幻に終わった。
長男坊の興銀は2000年に、都市銀行の富士銀行、第一勧業銀行と経営統合。金融持ち株会社「みずほフィナンシャルグループ(FG)」の傘下でみずほ銀行に再編されたことにより、長信銀という業態そのものが消滅したのだ。
みずほ銀行と親会社のみずほFGは現在、新たな存亡の危機に直面している。11月26日、相次ぐシステム障害の責任を取り、みずほFGの佐藤康博会長と坂井辰史社長、みずほ銀行の藤原弘治頭取の辞任(来年4月1日付)を発表した。3トップのうち佐藤会長、坂井社長はともに旧興銀出身。旧行のしがらみを払拭し、解体的出直しを求められている。
存亡の危機といえば、SBIホールディングスからTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられている新生銀も同様だ。新生銀が反発し、銀行業界初の敵対的買収に発展した。新生銀は買収防衛策で対抗する構えだったが、敗色が濃厚な情勢となったのを受けて一転、「反対」の矛を収め、SBIの軍門に下ることが決定的となった(TOB期間は12月10日まで)。
再民営化に際して投入された約3500億円の公的資金の返済が終わっていない新生銀では国が約20%の株式を持つ大株主。新生銀は臨時株主総会(11月25日の開催を中止)で買収防衛策発動の賛否を問う予定だったが、国の賛同を得られない方向となり、否決される可能性が高まっていた。
迷走する新生銀を横目に眺めながら、経営のフリーハンドを保っているのがあおぞら銀だ。2012年に米投資ファンドのサーベラスが保有株を売却し、同行の経営から手を引いたがことが一大転機となった。日債銀生え抜きの馬場信輔氏が社長に就任し、社内の求心力は大きく高まり、新事業や成長分野への展開を積極的に進めた。昨年6月に馬場氏からバトンを受けた谷川啓社長も生え抜きだ。
2015年には公的資金を完済し、名実ともに自主独立経営の路線を再び取り戻した。戦線縮小していた国際業務を本格的に再開し、2015年にロンドン、2020年にニューヨークに子会社を設立した。また、2018年にはM&A専門のABNアドバイザーズ、ベンチャーキャピタルのあおぞら企業投資、GMOあおぞらネット銀行を次々に立ち上げ、スマホアプリ「BANK」も翌19年にサービス開始した。
あおぞら銀は日債銀時代以来、事業法人や金融法人を主要顧客とする。岩盤である法人向けビジネスで専門性を磨く一方で、富裕層を中心とする個人取引のすそ野拡大に着々と手を打ってきた。
2021年3月期の総資産は約5兆9000億円で、新生銀(約10兆6500円)の半分程度。しかし、経常利益は新生銀443億円、あおぞら銀389億円と遜色がなく、収益性、資本効率の点ではあおぞら銀が断然上だ。
メガバンクでも地域金融機関でもない、あおぞら銀。その独自の立ち位置をフルに強みとして発揮できるのかどうか、今後の帰すうを左右することになりそうだ。
文:M&A Online編集部