安楽亭、買収したアークミールがコロナで一層の重荷になっている件

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コロナ禍でも焼肉店の業績は好調

12億円の純損失を計上した安楽亭

全国に焼肉店を展開する安楽亭<7562>が2021年3月期第3四半期で12億2,500万円の純損失(前年同期は3,800万円の黒字)を計上しました。郊外のロードサイドに店舗を構える安楽亭は、前年同期比96.2%減となっているものの、セグメント利益が2,200万円となり、コロナ禍でも辛うじて利益を出しました。

巨額損失の直接的な原因は、2020年2月29日に吉野家ホールディングス<9861>から買収したアークミールです。「ステーキのどん」などを運営するアークミールは、セグメント損失が5億9,600万円となりました。

もともと債務超過だったアークミールを買収し、更にコロナによる損失を計上したことで自己資本比率は悪化。2019年12月末の42.4%から18.6%まで落ち込みました。

この記事では、以下の情報が得られます。

・安楽亭とアークミールの業績
・アークミール買収の狙いと誤算

吉野家を赤字転落させていた張本人

アークミールは、「ステーキのどん」の株式会社どんと、ダイエーグループ傘下で「ステーキハウスフォルクス」を運営していた株式会社フォルクスが合併してできた会社です。2008年に吉野家が第三者割当増資を引き受けて、吉野家の持分法適用会社となりました。その5か月後にTOBを実施し、連結子会社となっています。

2010年に債務超過に陥って吉野家が救済しましたが、その年に43億円の特別損失を計上した上、上場基準を満たせず上場廃止となりました。

2015年に株式交換で吉野家の完全子会社となり、アークミールに社名変更しています。アークミールは吉野家の完全子会社となる前から赤字体質が続いており、吉野家の重荷となっていました。

吉野家ホールディングスは売却前の2019年2月期に60億円の純損失(前期は14億9,100万円の黒字)を計上していますが、牛丼の吉野家は35億2,200万円のセグメント利益を出していました。はなまるが6億円、京樽も1億6,200万円の黒字。アークミールが8億4,100万円のセグメント損失を計上しています。

アークミールは2009年からステーキのどんを中心に、不採算店の閉店を進めていました。2015年ごろから「いきなりステーキ」に端を発する空前のステーキブームが起こりましたが、アークミールにその勢いが及ぶことはありませんでした。アークミールは2019年2月期に債務超過となっています。

■買収前のアークミール業績推移(単位:百万円)

2017年2月期 2018年2月期 2019年2月期
売上高 22,754 22,406 20,205
営業利益 182 212 △930
純利益 △306 △140 △2,116
純資産 1,998 1,792 △337
店舗数 184店 178店 171店

※「アークミールの株式の取得に関するお知らせ」より筆者作成

吉野家の完全子会社となった後も、アークミールは不採算店の退店を進めていました。2018年2月期に6店舗、2019年2月期に7店舗を閉めています。更に2020年2月期に17店舗を退店して店舗数は154となっています。安楽亭は譲受する前に、不採算店の徹底的な退店を条件としていたものと考えられます。

債務超過のアークミールを買収した理由

安楽亭は焼肉店の一本足打法から抜け出して、業態の多角化が必要だったものの、業態開発力が弱く、手っ取り早く買収する必要がありました。そこで、ネームバリューのある「ステーキのどん」や「フォルクス」を運営するアークミールを買収したのです。

しかし、債務超過の会社を買収したことにより、安楽亭の自己資本比率は2019年12月末の42.4%から18.6%まで落ち込んでしまったのです。さらに新型コロナウイルス感染拡大による外食自粛が打撃となりました。

営業利益率の改善が必要だった安楽亭

新型コロナという想定外の出来事がなかったとしても、アークミールが重荷になることは見通せていたといえます。

安楽亭の弱点は営業利益率の低さ。新型コロナ感染拡大前の2019年3月期安楽亭の営業利益率は1.1%。競合あみやき亭<2753>の同時期の営業利益率は8.6%。7ポイント以上の差がついています。アークミールが大量閉店に至る前の2018年2月期の営業利益は0.9%で、1%を切っています。不採算店を閉店したとしても、この数字が急回復するとは思えません。

安楽亭の原価率は36.3%で、あみやき亭と変わりません。焼肉店の平均的な水準です。アークミールと業態が近いフライングガーデン<3317>の原価率が32.0%です。ファミリーレストランの買収によって大幅に原価率が改善される見込みはありません。販管費が膨らんで更なる利益率の悪化が懸念されていたのです。

■安楽亭、あみやき亭、フライングガーデンの原価率、販管費率(単位:百万円)2019年3月期

安楽亭 あみやき亭 フライングガーデン
売上高 16,342 32,136 7,321
原価 5,930 11,775 2,344
原価率 36.3% 36.6% 32.0%
販管費 10,226 17,595 4,710
販管費率 62.6% 54.8% 64.3%

決算短信より筆者作成

安楽亭の焼肉店の2021年3月期第3四半期売上は前期比22.6%減の75億1,700万円となりました。競合あみやき亭の売上高は30.5%減の166億7,300万円。安楽亭はあみやき亭よりも減少幅を低く抑えられました。関東を中心にロードサイド店を展開する安楽亭は、普段は繁華街へ出向く人の地元消費志向を取り込んだと考えられます。

重荷になったのはやはりアークミールです。売上高は103億7,200万円、セグメント損失は5億9,600万円となりました。2020年3月期第3四半期に吉野家が発表したアークミールの売上高は148億2,800万円。セグメント損失は2億5,800万円でした。売上高は31%も減少しています。

新型コロナウイルス感染拡大でファミリーレストランの月次売上は70%台で推移しており、その影響を強く受けたものと考えられます。この影響は長期化するものと予想され、アークミールは更なる退店を強いられるかもしれません。

業態の幅を広げるための買収でしたが、皮肉にもコロナ禍で焼肉店が人気となりました。一方でステーキやファミリーレストランは低調です。

アークミール不採算店の更なる退店を進めるのか。ポストコロナのかじ取りに注目が集まっています。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由