介護業界の最新トピックをひも解く(下)高齢者住宅新聞社・網谷敏数氏インタビュー

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 超高齢社会である日本において、介護の在り方は日毎に重要さを増している。介護・医療業界で取材を重ね、最新事情に明るい『高齢者住宅新聞』網谷敏数氏に、業界内の動向についてお話を伺った。インタビュー第2回目は、介護業界のM&A事例と、今後の動向について。

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介護業界における最新M&A事例

――最近の介護業界におけるM&Aについて、どう見ていらっしゃいますか。

 2016年、損保ジャパン日本興亜ホールディングス(旧SOMPOホールディングス)<8630>が、業界大手のメッセージ(現SOMPOケアメッセージ)<2400>を買収しました。これにより損保ジャパン日本興亜ホールディングスの介護事業は業界トップクラスの規模を有することになり、2017年7月からはより既存事業との一体的な経営を行うため、経営体制を一新し新たなスタートを切っています。

(参考)損保ジャパン日本興亜ホールディングスの介護事業ブランド

SOMPOケアネクスト 2015年に居酒屋大手のワタミ<7522>の介護事業を210億円で買収。「SOMPOケアネクスト」のブランド名で展開中
SOMPOケアメッセージ 2016年1月、TOBでメッセージを買収。「SOMPOケアメッセージ」のブランド名で展開中

 また、2017年4月にはソニーグループのソニー・ライフケアが、30弱の介護施設を運営しているゆうあいホールディングスを完全子会社化。引き受けていた転換社債型新株予約権付社債(転換社債;CB)の権利行使が終了しました。こういった形で資本力のある大手グループが、既存の事業者を子会社化したり、買収する流れは今後も続いていくでしょう。介護業界への進出を狙う企業が1からノウハウを積み上げ、人材を育てていくのには相当な時間と労力がかかりますし、介護系事業全般を網羅することで事業形態の充実を図るねらいもある。業界内における企業の買収意欲は依然として高いものがあります。

――そうすると、M&Aを通して介護事業が大手企業へ集約されていく流れが今後も続いていきそうですね。

 はい。ソニー・ライフケアの例以外にも、今年の上半期は住友林業<1911>が神戸製鋼所の介護事業子会社である神鋼ケアライフを傘下に収めたほか、ワイグッドホールディングスが関東圏で介護事業を展開する川商アドバンスを子会社化するなど、さかんにM&Aが行われています。

――このような傾向は、働き手の意識にも影響を与えますか?

 そうですね。やはり大手企業のグループ社員となれば、高いブランド力の中で働くことができますし、充実した福利厚生が得られたり、日々の労働環境が改善されたりと目に見える変化が期待できるケースもあります。事業所を運営する資本が変わることで対応を迫られる部分も当然ありますが、「M&Aによって待遇がよくなった」と現場からの声が聞こえてくることを期待したいですね。

介護業界の今後の動向 本業×介護で相乗効果が期待できる企業・業種に注目

――今後の介護業界において、注目している企業はありますか。

高齢者住宅新聞社 代表取締役社長 網谷 敏数氏

 大和ハウス工業やパナホームなどのハウスメーカーは、自前で事業所を建設できるという意味合いで引き続き存在感を保つでしょう。全国規模の大手でなくても、地域で事業展開を行うビルダーが、M&Aを絡めながら参入するケースは大いにあり得ると思います。

 また、藤沢市のパナソニック工場跡地を再開発する形で、多数の企業が参画したFujisawaサスティナブル・スマートタウン(FujisawaSST)など、「街づくり」という観点から介護事業を考え、戸建て住宅、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)・特別養護老人ホームなどが一体化した形で開発を行う動きもみられます。

 そんな中、自社マンション「PROUD」の周辺に介護施設を開き、入居者の方が優先的に利用できるという取り組みをはじめた野村不動産、サ高住の建設に取り組み始めた三井不動産などは、デベロッパーとしてこれまで行ってきた「街づくり」の感覚を介護事業に生かせるという点で注目しています。

 ケースに応じて利用できる介護事業所が、そこに暮らす住民にとって必要不可欠だ、という前提での開発が、今後進んでいくのではないでしょうか。

――進出を拡大する企業側は、これまで他業種で培ってきた実績やノウハウを、介護業界でどのように生かすかという点がテーマになりそうですね。

 介護業界とリンクしやすい、住宅、不動産、保険などのフィールドにある企業は、すでに生かせる強みを持っていると言ってもいい。介護業界に参入することで本業との相乗効果が期待できる企業には注目です。

――来年など、近い将来で予期される業界の動向についても教えていただけますか。

 住宅の確保が困難な高齢者や低所得者層などに対して、国や地方自治体がサポートしながら既存の空室を積極的に再生・活用し、空室率の改善を促進していこうという趣旨の「改正住宅セーフティネット法」が2017年4月に成立しました。

 今後、例えば空室が目立っている賃貸アパートの1F住居をサ高住としてリノベーション&登録を行い、高齢者が入居しやすい環境を整えるなどの動きが出てくるかと思います。高齢者問題は国が抱える直近の課題であることに変わりはありませんので、今後も数か月単位で新たな動きが出てくるはずです。

――ありがとうございました

取材・文:M&A Online編集部

株式会社高齢者住宅新聞社 代表取締役社長 網谷 敏数
網谷 敏数(あみや・としかず) 
青山学院大学卒業後、株式会社全国賃貸住宅新聞社入社。全国の有力管理会社、ハウスメーカーなどの取材を重ね、全国的なイベントとなった「賃貸住宅フェア」の企画・運営に携わる。平成15年3月、同社社長に就任。平成18年4月から『高齢者住宅新聞』の創刊・発行に携わり、介護・医療などをテーマに取材活動を行なっている。 
『高齢者住宅新聞』 http://www.koureisha-jutaku.com/