【アインファーマシーズ】ピンチをチャンスに変える鮮やかなM&A

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臨床検査受託会社として出発したアインファーマシーズ

 アインファーマシーズ<9627>は、1969年に臨床検査受託の会社として設立され、創業当時の社名は「第一臨床検査センター」だった。創業以来順調に業績を伸ばし、89年にはドラッグストア事業に、93年には調剤薬局事業に参入し、94年には店頭公開(現・東証JASDAQ)を果たしている。まさに破竹の勢いである。
 しかし、勢いは長くは続かなかった。本業では、本州系の同業との競争が激化したほか、多角化事業の不振がダブルパンチとなって足を引っ張り、経営危機に陥る。その窮地を乗り切るための切り札となったのが「本業の売却」と「資本提携」であった。

苦境をも乗り越えるM&A戦略は、まさにお手本

 当時の臨床検査業界は、トップ3社のシェアを合計しても10%程度と寡占化が進んでおらず、第一臨床検査センターのポジションは盤石とは言えなかった。そこで臨床検査事業を同業大手のビー・エム・エルへ売却することを決断する。ビー・エム・エルが「第一臨床検査センター」(現・第一岸本臨床検査センター)の商号を引き継いだため、このとき「アインファーマシーズ」に社名を変更する。ちなみに「アイン」はドイツ語で「第一」の意味である。

 残った調剤薬局事業で勝ち抜くためにパートナーとして選んだのが丸紅であった。第三者割当増資潜在株式を含めて20%程度を丸紅に割り当てたほか、子会社のアインメディカルシステムズの第三者割当増資も丸紅に対して行った。なお、アインメディカルシステムズは後に買い戻され、再びアインファーマーズの子会社となっている(さらにその後、アイン本体に吸収合併)。

 まるでお手本のようなM&Aで会社の苦境を乗り切り、大手商社の信用と増資による軍資金を得た同社は、今度は攻めのM&Aに転ずる。

 その後アインファーマシーズは、大型のM&Aだけでも今川薬品との合併(23億円=買収金額。以下同)、リジョイス(45億円)、ダイチク(55億円)、あさひ調剤(80億円)、メディオ薬局(60億円)と、かつての苦境が嘘のような勢いでM&Aを進めていくほか、公表されていない小規模なM&Aも数多く行っている。

 調剤薬局は小売業であるため、小型のM&Aは「出店」という意味合いが強いが、実際に同社の2006年以降の出店の60%近くがM&Aによるものである。 

■アインファーマシーズの沿革と主なM&A

年月 沿革と主なM&A
1969.8 受託臨床検査の会社として設立(当時の社名は第一臨床センター)
1989.5 オータニを吸収合併、ドラッグストア6店舗を承継
1993.5 北海道・旭川市に処方せん保険調剤薬局「第一薬局」(現・アイン薬局富岡店)を開局
1994.3 株式を店頭公開(現・東証JASDAQ)
1997.6 ホームセンター事業をカウボーイに営業譲渡
1998.10 臨床検査事業をビーエムエルに営業譲渡
1998.11 社名をアインファーマシーズに変更
1999.2 丸紅と業務資本提携。丸紅はアインに21.8%を出資するとともにアイン子会社のアインメディカルシステムズの増資も引き受け、50.6%を出資して子会社化
2002.6 ナイスドラッグと業務提携
2002.11 今川薬品(売上高100億円、44店舗)と合併(対価23億円)
2004.5 ナイスドラッグ(売上高61億円、10店舗)を完全子会社化
2003.11 ナイスドラッグの株式を18.31%取得
2004.12 アインメディカルシステムズ(売上高87億円)に対する出資比率を34%から47.9%へ引き上げ、子会社化(6億円)
2005.4 リジョイス(売上高30億円、16店舗)の株式87%とリジョイス薬局(売上高45億円、14店舗)の株式100%をSRLから合計47億円で買収
2005.11 アインメディカルシステムズに14億円を追加出資(46.8%⇒76.21%)
2006.4 ダムファーマ(売上高17億円、16店舗)およびメディカルハートランド(売上高5億円、4店舗)を10億円で買収
2006.6 たんぽぽ薬局およびその親会社のトーカイと業務提携
2007.1 ダイチク(売上高85億円、18店舗)を55億円で買収
2007.2 ハイレンメディカルの親会社のハイレンの株式を15%取得(1300万円)
2007.6 あさひ調剤(売上高162億円、86店舗)を80億円で買収
2007.10 CFSと株式移転による経営統合を発表(後日CFS株主総会で否決)
2007.11 サンウッド(売上高9億円、5店舗)を3億8000万円で買収
2007.12 リジョイス株式13%を三井物産から1億5000万円で追加取得し、完全子会社化
2008.6 アインメディカルシステムズを簡易株式交換により完全子会社化
2008.8 セブン&アイ・ホールディングスと資本提携、7.8%の株式を割り当て16億円を調達
2009.5 セブン&アイ・ホールディングスと合弁会社設立
2009.8 アインメディカルシステムズがリジョイスを吸収合併
2009.8 公募増資で24億円を調達
2009.9 アイン東海とリジョイス薬局が合併、アインメディオとなる
2010.4 サンウッドをアインメディオに吸収合併
2010.9 公募と第三者割当で47億円を調達(第三者割当増資の相手はセブン&アイ・ホールディングス)
2011.4 メディカルハートランドをアイン本体に吸収
2012.8 アインメディアカルシステムを吸収合併
2014.11 総合メディカルと業務提携
2015.1 メディオ薬局(売上高59億円、52店舗)を60億円で買収
2015.6 純粋持ち株会社に移行すると発表
2015.6 資生堂からアユーラボトリーズ(売上高27億円)を買収

ドラッグストア大手との経営統合失敗も・・・流通大手との資本提携で見事な反転攻勢へ

■アインファーマシーズ新規出店の内訳(2006年以降)


 しかし、さらなる拡大を目指した同社に再び挫折が襲う。ドラッグストア大手のCFSコーポレーションとの経営統合に失敗したのだ。このときは統合相手のCFSコーポレーションサイドは議決権行使助言会社を起用して経営統合に賛同するように呼びかけたが、最終的に15%を出資するイオンが経営統合に反対したため、株主総会で否決され、経営統合が白紙となった。この後、経営戦略の大きな転換を迫られた両者は、別々の道を歩むことになる。

 CFSコーポレーションはイオンの子会社となる道を選び、アインファーマシーズはセブン&アイ・ホールディングスとの資本提携を選択する。セブン&アイ・ホールディングスとの資本提携によって再び資金と信用を得た同社は、強固な経営基盤を手中に収めた。

 激動の同社であるが、この15年間での売り上げは、185億円から1,879億円と10倍に、経常利益に至っては3億円から116億円と38倍に膨れ上がっている(下図参照)。

 M&Aで経営危機を乗り切り、大企業の資金と信用を味方につけてピンチをチャンスに変えて反転攻勢に出る、その手法は見事としか言いようがない。アインファーマシーズのM&A戦略は示唆に富んでいる。

■アインファーマシーズの売上高、経常利益の推移

(追記)

年月 沿革と主なM&A
2015.11 西日本ファーマシー(売上高61億円)および瀬戸内ファーマシー(売上高3億円)を傘下に持つ四国最大の調剤薬局チェーン、NPホールディングスを56億円で買収


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部