ブライダル企業はゲスト人数の縮小、婚礼単価の激減に耐えられるか

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画像はイメージ(Photo by Pexels)

婚礼業界のコロナからの復活が鮮明になってきました。最大手テイクアンドギヴ・ニーズ<4331>の2022年3月期第2四半期の売上高は前期比191.2%増の180億400万円となりました。エスクリ<2196>の同期間の売上高も前期比189.5%増の99億8,000万円と急増。藤田観光<9722>の2021年12月期第3四半期の婚礼事業の売上高は前期比40.3%増の81億7,600万円と回復しています。

2020年に予約した結婚式の多くは感染防止の観点から延期扱いになっていました。感染者の激減、ワクチン接種の進行により、このタイミングで一気に施行へと移りました。テイクアンドギヴ・ニーズが農林中央金庫などから30億円の大型調達ができたのも、この揺り戻しに期待できたことが一因としてあります。

しかし、コロナは結婚式の形を大きく変えました。ゲスト人数の減少です。それは婚礼単価の急減を招きます。婚礼企業は契約組数の獲得に注力してきましたが、これからは婚礼単価を上げることにも気を配る必要があります。少人数化の傾向が恒常化した場合、婚礼企業は別の事業展開を視野に入れる必要があるかもしれません。

この記事は以下の情報が得られます。

・婚礼単価の変化
・事業を多角化する未来予想図

ゲストの平均人数は70人から50人以下へ

テイクアンドギヴ・ニーズの組数は2022年3月期上期に4,828組となり、前期と比べて3,912組もの増加となりました。営業利益が出るまでに回復しています。しかし、問題は人数と単価です。

■テイクアンドギヴ・ニーズ上期売上高、営業利益、取扱組数

2022年3月期第2四半期決算説明資料より

リクルート ブライダル総研調べ」では、2020年の挙式・披露宴のパーティー総額の平均は292万3,000円で2019年比70万円(19.3%)の減少となりました。更に新型コロナウイルスの影響によって当初予算を縮小して実施したカップルの縮小額は124万8,000円となっています。ゲストの人数は42.8人となり、23.5人(35.4%)の減少となっています。ゲスト人数を当初の予定より縮小したとの回答は7割以上となりました。

テイクアンドギヴ・ニーズのコロナ前2020年3月期第2四半期の婚礼単価は391万1,000円でした。2022年3月期第2四半期は347万円と44万1,000円(11.3%)減少しています。平均人数は69.4人から48.4人へと21.0人(30.3%)縮小しています。結婚式は人数や単価が減ったとしても、打ち合わせやオペレーションに関わるスタッフの人数や時間は変わりません。すなわち、少人数の施行組数が多くなればなるほど利益が圧迫されてしまうのです。

披露宴の親族減少傾向はコロナ前から続いていました。これは昔のように遠い親戚まで呼んで大々的に披露宴をする時代の終焉を告げるものでした。コロナによって今度は仕事関係のゲスト縮小を招いています。会社への配慮からこのような動きが加速しているものと考えられますが、婚礼業界にとっての脅威はこれが当たり前のものとして定着することです。

これは会社や取引先との忘年会や宴会が当たり前のものだった時代から、コロナの分断によって「飲みニケーション」は不要との考え方が定着しつつあるのとよく似ています。宴会不要論は大箱の居酒屋にとって脅威以外の何ものでもありません。

婚礼企業にとってゲストの人数は極めて重要です。売上に直結することももちろんですが、婚礼料理の原価率は20%前後と言われており(レストランや居酒屋の原価率はおよそ30%)、利益面でも有利だからです。また、単価を上げやすいというメリットもありました。装花や映像演出などで婚礼単価を上げることもできますが、限界があります。ゲスト人数は「営業部長の〇〇さんを呼ぶのであれば、経営企画室長の△△さんも呼んだ方が良い」といった営業トークで、増やしやすい面がありました。

ゲスト人数の縮小は結婚式場の構造そのものにも影響を与えます。通常、結婚式場は大型、中型、小型の宴会場を複数用意するのが普通です。大型は100名以上、中型は50名まで、小型は20名までなどと決められています。パーティーが小型化した場合、大型の宴会場を2つに割った方が稼働が上げられます。既存の結婚式場は改装などの難しい判断を迫られるかもしれません。

婚礼以外へと事業の幅を広げられるか?

エスクリ SBIホールディングスと資本業務提携を発表より

コロナ前のように稼げなくなった場合、事業の幅を広げることが視野に入ります。方向性としては大きく2つあると考えられます。1つは婚礼客のLTV(顧客生涯価値)を上げること。もう1つは宴会場を有効活用することです。

結婚式場はLTVという概念が浸透していません。しかし、結婚は人生の節目であり、住居探しや新生活に向けた保険の見直しなどを行うきっかけとなります。婚礼企業は婚礼客を点で見る傾向が強く出ていましたが、今後この流れは大きく変わる可能性があります。

この分野に先手を打ったのがエスクリでした。エスクリは2020年7月にSBIホールディングス<8473>の子会社SBIファイナンシャルサービシーズ(東京都港区)と資本業務提携契約を締結しました。エスクリの第三者割当増資による株式180万株をSBIファイナンシャルサービシーズが引き受け、筆頭株主となりました。この資本業務提携により、エスクリとSBIが生命保険や住宅ローン、金融商品などを共同開発し、生涯顧客化することを目指します。また、SBIは健康食品や化粧品も取り扱っており、新たな販売チャネルを獲得したことにもなりました。

テイクアンドギヴ・ニーズは2021年4月に婚活大手のIBJ<6071>が運営する結婚相談所「日本結婚相談所連盟」に加盟。4月30日に「ema東京」をオープンしています。テイクアンドギヴ・ニーズは結婚式を創る方に目を向け、LTVの向上を図っています。

宴会場の有効活用においても動きが早かったのがエスクリでした。2020年7月に貸会議室大手TKP<3749>との資本業務提携を締結。エスクリの宴会場をセミナーや企業パーティー、講演会会場などとしての活用に向けて動き出しました。エスクリはゲストハウスを運営する企業ですが、広い敷地を持つ邸宅・郊外型ではなく、ターミナル駅を中心としたビルイン・都市型の結婚式場を展開してきました。地の利を活かした戦略です。

婚礼企業のこうした動きは今後加速するかもしれません。

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