M&Aの「アドバイザリー契約書」サンプル書式と締結時の注意点

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M&Aアドバイザリー契約書の書式とサインするときの注意点

「M&Aアドバイザリー契約書」とは、M&A仲介会社(アドバイザー)に依頼するときに仲介会社と交わす契約書です。略して「アド契約」と言ったり、「FA契約」や「仲介(依頼)契約」と呼ぶ人もいます。

M&A仲介会社に相手企業を探してもらったり、進行役として契約交渉をしてもらったりする際に、仲介会社との権利義務関係を明らかにすべく契約書を作成します。多くの場合、M&A仲介会社から契約書を提示されてサインを求められますので、どんなことが書かれているのか、契約内容を押さえておきましょう。

今回は、M&Aアドバイザリー契約書のサンプルをご紹介するとともに、契約書にサインするときに知っておきたい注意点をご紹介します。

1.M&Aアドバイザリー契約書のひな形(サンプル書式)

 

M & A ア ド バ イ ザ リ ー 契 約 書

〇〇株式会社(以下「甲」という)と××株式会社(以下「乙」という)は、本日、甲が進めようとしている「対象会社」との業務提携(以下「本件業務提携」という)につき、次の通りアドバイザリー契約を締結する。

 

第1条(定義)
1 本契約における「対象会社」とは、乙が候補を紹介し、甲が業務提携を行うべき相手先企業とする。
2 本契約における「本件業務提携」とは、甲と対象会社との間で行われる株式譲渡、譲受、事業譲渡、譲受、新株式の第三者割当発行及び引受け、合併その他一切の提携行為を意味するものとする。
3 本契約において「機密情報」とは、乙が甲と対象会社との間における「本件業務提携」の可能性を調査するため、文書、口頭などの方法を問わず、甲または乙から相手方に対して開示された情報を意味する。

第2条(契約の目的)
1 甲は本契約期間中、甲が対象会社との間で業務提携を行うために乙を甲のM&Aアドバイザーとして指名し、乙は以下のアドバイザリー業務を行う。
(1)資本提携、業務提携を含む各種の企業提携の候補となる企業の紹介及び情報提供
(2)企業提携の交渉についての助言その他の支援
(3)企業提携の実行についての助言や支援
(4)税理士、公認会計士、弁護士その他の専門家への依頼及び方法に関する助言と支援
(5)企業提携に際して必要な契約書類その他の書面作成に関する助言と支援
(6)本件企業提携にかかる取引価額ならびに取引条件設定についての助言と支援
(7)前(1)ないし(6)号の他、甲が乙に委託して乙が同意した事項
2 甲は、乙が第1項の業務を行うに関し、合理的なな範囲で自社の資料や情報を提供するなどの協力をする。

第3条(秘密保持)
1.甲および乙は機密情報について秘密を厳守し、開示者の書面による事前の同意なくして第三者に漏洩あるいは開示してはならない。但し、次の各号のいずれかに該当する場合、この限りではない。
(1)開示された時点において既に公知となっていた情報
(2)開示後、開示を受けた当事者の責任によらずに公知となった情報
(3)開示された時点において、既に開示を受けた当事者が保有していた情報であり、その旨を遅滞なく開示者に通知した場合
(4)正当な権限を持つ第三者から開示された情報
(5)法令にもとづいて正当な権限を持つ公的機関から開示請求された情報
2 前項にて情報開示を禁じられる「第三者」とは、本契約の目的を達成するための必要最小限の範囲の役員や従業員、顧問弁護士、公認会計士等以外の者とする。
3 甲および乙は、各々自社の役員や従業員に対し、責任をもって機密情報を遵守させる。 

第4条(契約期間、解除)
1 本契約の有効期間は、本日より1年間とする。
2 契約期間の満了日において本件業務提携が完了していない場合あるいは期間満了日の30日以上前に、甲もしくは乙のいずれからも書面による解約の意思表示が行われていない場合、本契約と同一の条件にて契約が更新され6か月間延長される。それ以後も同様とする。
3 前項の規定によらず、本契約期間中、甲は乙に対して10日以上前に書面にて通知することにより、いつでも本契約を解除できる。但しその場合、乙は第6条及び第7条によって既に支払期限の到来している報酬及び諸費用についての請求権を失わない。 

第5条(直接交渉の禁止)
本件業務提携につき、乙が甲に紹介する対象会社との交渉は、乙による書面による事前の同意がない限り、乙を通じて行わねばならない。   

第6条(報酬及び支払い方法)
1 甲は乙に対し、アドバイザリー業務の対価として以下の通り報酬を支払う。
(1)コンサルティング料として毎月〇〇円
(2)着手金 〇〇万円
(3)報酬金
 譲渡金額(取引金額)
  1億円以下…〇〇万円
  1億-3億円…〇〇万円 +(譲渡金額-1億) ×4%
  3億-5億円…〇〇万円 +(譲渡金額-3億) ×3%
  5億-10億円…〇〇万円 +(譲渡金額-5億) ×2%
  10億円を超える…〇〇万円 +(譲渡金額-10億)×1%
2 甲は乙に対し、前項第1号の毎月のコンサルティング料を毎月末日限り、支払う。
3 甲は乙に対し、前項第2号の着手金を本契約締結と同時に支払う。
4 甲は乙に対し、前項第3号の成功報酬金を本件業務提携の決済完了と同時に支払う。
5 本条第1項ないし第4項までの支払いについては、乙が指定する金融機関に振り込む方法にて支払うものとする。 

第7条(特別の依頼等に係わる費用)
1 乙が本件業務提携に向けてのアドバイザリー業務を遂行するために、通常活動の範囲を超える特別の活動の必要が生じ5000円を超える費用が必要となった場合、甲の書面による事前の承諾を得ることによって甲に請求できる。
2 前項に規定する「特別の活動」とは、海外出張、著しく長時間にわたる国内出張、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士などに対する委託業務、その他の外部専門調査機関に対する特別依頼やそれに準じるものとする。

第8条(再委託の禁止)
乙は本契約にもとづくアドバイザー業務の全部また一部を第三者に委託することができない。ただし甲の事前の書面による承諾を得た場合、この限りではない。 

第9条(損害賠償、解除)
1 甲又は乙は、相手方に次の各号の一に該当する事由が発生した場合、無催告にて本契約を解除できるものとする。その場合、解除は将来に向けてのみ効力を有する。
(1)本契約にもとづいて発生した金銭債務につき、支払い義務を怠ったとき
(2)自ら振出し裏書しあるいは引き受けた手形また小切手が不渡りとなったとき
(3)破産手続開始、民事再生手続開始、会社手続開始もしくは特別清算その他これに準じる倒産手続開始の申立てがあったとき
(4)清算に入ったとき、第三者による差押え、仮差押え、仮処分、強制執行もしくは競売の申立を受けたとき
(5)相手が本契約内容に違反し、契約を継続しがたいと認められるとき
(6)相手の著しく財産状況が悪化し、あるいはその恐れがあるとき
(7)相手の信用を著しく損なう行為を行い、信用の回復が困難となったとき
(8)相手が反社会的勢力であることが判明したとき 

第10条(協議)
本契約に定めのない事項、疑義の生じた事項については、甲乙両者が互いに誠実に協議し解決する。

この契約成立の証として本書2通を作り、当事者各自記名捺印のうえ、各1通を保有する。

2019年〇〇月〇〇日

甲:
住所
〇〇株式会社 
代表者 〇 〇 〇 〇 印

乙:
住所
××株式会社 
代表者 〇 〇 〇 〇 印


次のページでは、M&Aアドバイザリー契約書作成のポイントを解説します。

2.M&Aアドバイザリー契約のポイント

M&Aアドバイザリー契約書を作成する上で、気を付けるべきポイントをご紹介します。

2-1.機密保持の範囲

M&A仲介会社には、自社に関する多くの機密情報を提供しなければなりません。そこで機密保持の条項が必須です。

どこまでの情報が保護されるのか、どういったケースであれば情報を開示しても許されるのかなど、しっかり確認しましょう。特に守ってほしい事項があれば、個別に契約書に盛り込むべきです。

2-2.契約期間と途中解約

M&Aアドバイザリー契約では、契約期間と途中解約の条項が重要です。途中解約できなければ、M&Aを中断してアドバイザーが不要となっても費用が発生し続ける可能性があるので、途中解約が認められていなければ必ず入れてもらいましょう。また途中解約にペナルティ(違約金)が発生すると不利益が大きいので、そういったものは削除してもらうべきです。なるべく自由に解約できるように設定してもらいましょう。

また期間終了によって自動的に契約が終わるのか、自動更新されるのかも確認しましょう。ひな形では自動更新契約にしており、契約を終わらせるには期間満了の30日前の通知が必要なパターンです。

2-3.費用

M&Aアドバイザリー契約では「費用」が非常に重要です。

M&A仲介会社の報酬は、業者によって大きく異なるからです。月々のコンサル料がかかる会社とかからない会社、着手金の金額、報酬金の計算方法など仲介会社によって大きく異なります。

しっかりと報酬体系を確認し、適正な価格設定をしている仲介会社を選び、契約書に事前説明と同じ内容の報酬体系が掲載されていることを確認すべきです。

2-4.直接交渉の禁止

M&Aでは、仲介会社が代理として相手企業と交渉するため、依頼企業による相手企業の直接交渉が禁止されることが通常です。ただしM&A仲介会社の承諾があれば直接交渉が可能とされている場合もあります。具体的にどこまで直接交渉が認められるのかあるいは一切認められないのか、確認しておきましょう。

2-5.再委託の禁止

M&Aアドバイザリー契約では「再委託の禁止」の条項が必要です。これは「M&A仲介会社が勝手に別の会社や個人にアドバイザー業務を委託してはならない」とする条項です。

これがないと、知らない間にM&A仲介会社が別の会社や個人に業務を投げて勝手な行動をされたり情報を漏らされたりするおそれが発生します。

再委託を禁止する場合「どういった場合に例外を認めるか」が同時に規定されるケースがあるので「書面による事前の同意を要する」など、厳しい条件をつけてもらいましょう。

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M&Aを成功させるには、M&A仲介会社のサポートが必要ですが、自社の利益を守るためにはアドバイザリー契約の内容も重要となってきます。この記事の内容を参考にして良いM&Aアドバイザーを探し、M&Aを成功させましょう。

※ 上記はあくまでサンプルです。事案により内容は変わります。

文:福谷陽子(法律ライター)/編集:M&A online編集部