ビットフライヤーを買収すると報じられたACAグループとは?

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ビットフライヤーの本社があるミッドタウン・タワー(東京都港区)

2022年4月2日暗号通貨取引所を運営するビットフライヤーホールディングスが、投資ファンドACAグループに買収される見通しだと日経新聞が報じました。ビットフライヤー創業者の加納裕三氏は、即座に反対する意向を示しました。もし計画通りにACAが株式を取得すれば、非上場企業に対して筆頭株主の賛同を得ることなく敵対的買収を仕掛けた極めて珍しいケースです。

加納氏は4月4日に「ホワイトナイト募集」「このディールはクローズしていない」とツイート。450億円とされる評価額を「安すぎる」と一蹴して対決姿勢を鮮明にしています。

この買収劇の中心にいるACAグループとはどのような投資ファンドなのでしょうか。この記事では以下の情報が得られます。

・ACAホールディングスの概要
・投資先一覧
・ビットフライヤー買収の詳細

ホットランドを上場に導く

ACAグループは日本のACA(東京都千代田区)とシンガポールのACA Investmentsの2つの拠点で活動しています。

ACAは2005年4月にアント・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)が設立した100%子会社アント・コーポレートアドバイザリーが前身です。2008年6月に住友商事に対して第三者割当増資を実施。2006年9月に設立したメディア・キャピタル・パートナーズを2008年12月に吸収合併。2009年8月ACAに社名変更しています。

2020年7月に15億円規模のACAセカンダリーズ1号投資事業有限責任組合を設立。中堅・中小企業だけでなく、ベンチャー企業や事業再生への投資も行います。

ACAは2018年10月に大和証券グループ<8601>からの資金を呼び込み、100億円規模の大和ACA事業承継投資事業有限責任組合を立ち上げました。また、同時期に大和証券グループにACA Investmentsの株式34%を売却。ACAのヘルスケア部門だったACAヘルスケアの第三者割当増資も実施し、大和ACAヘルスケア(東京都千代田区)に社名変更しました。ACAと大和証券グループは資本業務提携契約を締結しています。

ACAの代表取締役社長は東明浩氏。東京大学医学部卒業後、1986年にリクルートに入社し、雑誌やポータルサイトの金融チャネルなど金融機関の営業支援サービスに携わりました。2000年に米投資銀行ウイット・サウンドビュー・グループ・インクの日本法人であるウイット・キャピタル証券に入社。M&Aアドバイザリー業務に従事しました。2002年現在のアント・キャピタル・パートナーズである日興アントファクトリーに転籍し、PE投資の経験を積みました。

戦略投資事業とヘルスケア業界投資事業の投資先は以下の通りです。過去にクリエイトSDホールディングス<3148>に出資してM&A戦略を担ったり、「築地銀だこ」ホットランド<3196>の株式を未上場時に取得してIPOを主導しています。

■戦略投資事業

会社名 事業内容 投資時期 備考
FRACTALE株式会社 不動産売買、不動産事業プロジェクトへの投資、不動産の管理 2017年11月 TOBにより株式取得、東証二部上場
株式会社ワークスアプリケーションズ 大手企業向けERPパッケージソフト「HUE」および「 COMPANY」の開発・販売・サポート 2017年9月 -
カラフル・ボード株式会社 人工知能を活用したECサポート、店頭顧客サービス等のマーケティング支援サービス、およびスマホ用人工知能アプリ開発 2015年3月 -
Alpha Supply Chain Group Pte Ltd 東南アジア(タイ、ミャンマー)におけるEC通販向け物流・決済等を中心としたITシステムサービス事業 2015年2月 -
株式会社ホットランド 「築地銀だこ」をはじめとする飲食チェーンの運営 2011年12月 東証マザーズ上場
株式会社クリエイトSDホールディングス ドラッグストア事業、調剤薬局事業、介護事業を行うグループ子会社に対する管理・経営指導 2010年7月 -
株式会社CSKホールディングス 情報サービス事業、プリペイドカード事業、証券事業、金融サービス事 2009年9月 売却: 2012年2月
株式会社ウィーヴ 出版及び映像の企画・プロデュース・制作全般、版権管理業務 - -
株式会社VSN IT・情報システム、メカトロニクス・エレクトロニクス、バイオ・ケミストリー分野におけるエンジニア派遣事業、開発請負、及び有料職業紹介事業 2008年8月 売却: 2012年1月
ブックオフコーポレーション株式会社 中古書店「BOOKOFF」の展開と、新規中古業態の開発・運営・加盟店経営指導 2008年3月 売却: 2009年5月

■ヘルスケア業界投資事業

会社名 事業内容 投資時期 備考
ACA Next株式会社 訪問介護・通所介護サービス・介護施設運営事業、人材派遣・紹介事業及び有料老人ホーム・福祉施設・病院等への給食提供事業及びレストラン・寮・管理受諾事業 2016年11月 既存投資先:ジャパンコントラストフード(株)、プロテク(株)、(株)エルダーリビング、(株)日本メディカルケアサービス、(株)ロージー、シーエンス(株)の6社を経営統合により設立
プロテク株式会社 産業用機械の受託設計・ソフトウェア開発支援事業、オリジナル福祉機器開発・販売事業及びアシスタントサービス支援事業 2016年8月 2016年11月ACA Next(株)に経営統合
株式会社日本メディカルケアサービス 訪問介護・訪問看護サービス事業 2016年4月 2016年11月ACA Next(株)に経営統合
株式会社ロージー 訪問介護・障害者総合支援サービス事業、通所介護サービス事業及び居宅介護サービス事業 2016年4月 2016年11月ACA Next(株)に経営統合
シーエンス株式会社 訪問介護・障害者総合支援サービス事業及び居宅介護サービス事業 2016年4月 2016年11月ACA Next(株)に経営統
株式会社エルダリーリビング 訪問介護・介護施設運営・障害者総合支援サービス事業、通所介護サービス事業及び居宅介護サービス事業 2016年4月 2016年11月ACA Next(株)に経営統合
株式会社日本エルダリーケアサービス 訪問介護・障害者総合支援サービス事業、通所介護サービス事業及び居宅介護サービス事業 2015年8月 -
株式会社コスメックス SMO(Site Manegement Organization)、治験施設支援機関として、製薬会社の依頼により、医療機関で行われる治験業務の支援を実施 2010年7月 2013年2月に事業会社へ譲渡済
株式会社サンライズ・ヴィラ 有料老人ホームの運営、介護保険関連事業の運営 2013年10月 -
ジャパンコントラクトフード株式会社 有料老人ホーム・福祉施設・病院等への給食提供事業及びレストラン・寮・管理受託事業 2013年10月 ACA Next(株)に経営統合
株式会社ココチケア 高齢者専用賃貸住宅、グループホーム、小規模多機能型施設、都市型ケアホームを運営、訪問介護・看護・入浴などの在宅介護サービス 2010年5月 -
株式会社アズライフ多治見 有料老人ホームを建設・運営 (岐阜県多治見市に拠点を置く医療法人が設立) 2010年5月 -
株式会社アルテディア 医療・介護領域での投融資事業、経営コンサルティング事業、介護サービス事業 2008年8月 -
アントケアホールディングス株式会社 介護施設運営子会社4社に関するグループ経営戦略の策定・推進、経営管理、開発管理、運営管理、内部監査 2006年5月 売却: 2011年12月

ホームページをもとに筆者作成

コインチェックの後塵を拝するビットフライヤー

ビットフライヤーはコインチェックと並び日本トップクラスの取引量を持つ暗号資産取引所。元ゴールドマン・サックス証券の加納裕三氏と小宮山峰史氏が共同創業者となりました。日経新聞によると、保有比率は加納氏が約40%、小宮山氏が13%強。ビットフライヤーは2017年4月に積水ハウス<1928>と共同で不動産情報管理システムの構築を開始していました。積水ハウスも約13%の株式を保有する大株主です。

ビットフライヤーの経営は混迷を深めていました。2022年3月30日に林邦良社長が辞意を表明。林氏は2021年3月に社長に就任したばかりでした。関正明取締役が社長に就任します。2020年3月に平子恵生氏、2021年3月に三根公博氏が退任していました。わずか2年で3度目の社長交代となっています。

林氏は1994年にゴールドマン・サックス証券に入社した加納氏の元上司。社長就任後に加納氏との関係が悪化したと報じられています。

2022年3月マネックスグループ<8698>はコインチェックを、SPACを活用して米ナスダック市場に上場させると発表しました。コインチェックは2018年1月に580億円の仮想通貨流出事件が発覚し、金融庁から業務改善命令を受けました。その年の4月にマネックスグループが36億円で買収していました。

コインチェックは一度社会的な信用を失ったものの、マネックスグループに入ってからの立ち直りは早く、上場へと漕ぎつけることができました。ビットフライヤーもかつて上場観測が出ていたものの、経営体制の混乱から後れを取っています。

コインチェックは2021年3月期の売上高に当たる営業収益が前期比5.5倍となる208億2,500万円となりました。2021年の仮想通貨ブームで取引が活発になりました。ビットフライヤー(2020年12月期)の営業収益はコインチェックに抜かれています。ビットフライヤーは業績面でも遅れを取りました。

■ビットフライヤー業績推移(単位:百万円)

2018年12月期 2019年12月期 2020年12月期
営業収益 14,085 5,341 7,555
純利益 2,146 -751 427
純資産 15,898 15,146 14,968

※ビットフライヤー「事業報告」より

■コインチェック業績推移(単位:百万円)

2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期
営業収益 2,115 3,814 20,825
純利益 -2,743 285 10,305
純資産 2,540 2,827 13,150

※コインチェック「貸借対照表・損益計算書」より

報道されている通りACAが加納氏以外の株主から株式を取得するのであれば、気になるのはエグジット。

加納氏はTwitter上で単独での特別決議の拒否権を持っていると発言しています。非上場企業の場合、第三者割当増資は株主総会の特別決議(過半数の株式を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成を得ること)による承認が必要です。特別決議を経ない第三者割当増資は無効となります。つまり、増資によって加納氏が保有する株式の希薄化を狙うことができないのです。

もちろん上場もできません。定款変更も不可能です。

ACAがビットフライヤー株を取得した後に加納氏と良好な関係を築いて経営を正常化。IPOまたは売却するというのが最もきれいな着地でしょう。しかし、度重なる社長交代に見舞われているビットフライヤーに、そのシナリオは難易度が高そうです。そうかといって対立姿勢を保ったままでは、ACAが取得した株式を別の会社に売却することも簡単ではないでしょう。買い手が限られるためです。

ACAがどのような青写真を描いているのか。注目が集まります。

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