あの「ホワイトハウスコックス」も!後継者不足が名門企業を殺す

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世界的な名門皮革加工品メーカーの英ホワイトハウスコックス(WHITEHOUSE COX)が、2022年末で生産を終了することが明らかになった。147年も続く老舗企業だが、同社マネージングディレクターのステファン・コックス氏に後継者がいないことから自主廃業を決めたという。最高品質の原材料のみを厳選し、手作業による天然の植物タンニンなめし加工を施した財布やベルトなどが、英国はもちろん日本はじめ世界中で人気を集めていた。

日本では60万社が後継者不足で「黒字廃業」危機

そんなグローバル老舗企業ですら、後継者不足で廃業を余儀なくされた。しかし、これは決して珍しい話ではない。中小企業庁によると、国内企業の60万社が黒字にもかかわらず、後継者不足で廃業の危機に直面しているという。

穴の直径が90ミクロン、外径が200ミクロン…蚊の針と同サイズの驚異的な細さを実現した「痛くない注射針」を開発し、「中小企業の星」となった岡野工業(東京都墨田区)も、後継者不足で2018年に廃業した。岡野雅行社長しか基幹技術を持たなかったため、社長引退後に同社を買収する企業は現れなかった。

琉球泡盛酒蔵所の千代泉酒造所(沖縄県宮古島市)も同年、後継者不足で廃業した。同社は2013年に経営者が死亡して以来、休業状態だった。親族や島内の酒造所で事業承継先を探したが見つからなかったという。社内のタンクに残っていた泡盛の購入先が決まったのを受けて廃業に踏み切っている。

「脱家族経営」による事業承継を急げ!

2021年に約26万6000社を対象に実施した日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち半数以上が「将来は廃業する」と答えており、廃業理由の約3割が「後継者難」だった。

中小企業庁は2017年7月に「事業承継5ヶ年計画」を発表し、事業承継支援を集中的に実施。中小企業の経営資源のバトンタッチを支援する「事業承継補助金」の運用や経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、事業承継の促進に取り組んでいる。

2021年の事業承継は「同族承継」の割合が38.3%と最も多かったが、血縁関係のない役員を社長に登用した「内部昇格」も31.7%と「脱家業化」が進んでいる。さらにM&A仲介業者や金融機関などが主導する第三者への事業承継、いわゆるM&Aも選択肢として急浮上している。

世の流れに乗れず赤字続きで廃業するのならば「淘汰」であり、経済の発展に必要な新陳代謝だ。だが、後継者不足での黒字廃業は事業承継で回避できる。ホワイトハウスコックスはじめ老舗企業には小規模事業者も多く、事業承継が遅れれば貴重なビジネス資源を失うことになる。残された時間は、そう長くない。

文:M&A Online編集部

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