スカイマークの支援に乗り出した投資ファンド・インテグラルとは

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インテグラル(千代田区)は2007年に設立された日本を代表する投資ファンドの一つです。2015年に民事再生法適用を申請したスカイマーク(大田区)の再生支援に乗り出したことで、一躍世間にその名を響かせました。インテグラルの代表取締役を務める佐山展生氏は、スカイマークの代表取締役会長も兼任しています。

ヘアカット専門店キュービーネットホールディングス<6571>の買収とIPO、アデランス(新宿区)のTOB、アパマンショップホールディングス(千代田区)への出資など、消費者になじみ深い企業を手掛けているインテグラルとは、どのような会社なのでしょうか。

この記事では以下の情報が得られます。

・インテグラルの概要と業績推移
・投資先一覧
・スカイマークの破綻と支援

後世まで語り継がれる村上世彰氏との激戦

インテグラルは、ユニゾン・キャピタル(千代田区)の創業メンバーである佐山展生氏と、2004年にM&Aアドバイザリー会社GCA<2174>の取締役パートナーに就任した山本礼二郎氏が設立した独立系PEファンドです。

佐山氏は1976年に京都大学工学部を卒業後、帝人<3401>に入社。1987年に三井銀行に転職しています。1994年にニューヨーク大学大学院ビジネススクールにてMBAを取得。1999年に東京工業大学大学院で経営工学を専攻し、その後非常勤講師を務めています。同じころにユニゾン・キャピタルの設立に携わりました。

佐山氏といえば、2006年の阪急・阪神の経営統合が有名です。

2005年村上ファンドが阪神電気鉄道株の26.67%、阪神百貨店株の18.19%を保有していたことが突如として発覚。アクティビストファンドとしてその名を轟かせていた村上氏に、経営陣は戦々恐々としていたといいます。更に村上ファンドは阪神電気鉄道株の保有比率を46.82%まで増やし、経営に対する強硬な発言を重ねるようになりました。その中には阪神タイガースを上場すべきなどというものも含まれていました。

阪神電気鉄道は2006年3月に阪急ホールディングスとの経営統合を提案。合意が得られて阪急が阪神にTOBを行うことを発表しました。村上ファンドがTOBに応じることとなり、持株全てを売却しています。阪神ホールディングスは阪神電気鉄道株の64.76%を保有するに至り、経営統合へと前進しました。

このとき、村上世彰氏から阪神電気鉄道株買い取りの交渉にあたっていたのが佐山氏です。阪急ホールディングスの財務アドバイザリーを務めていました。このころ、佐山氏はテレビ番組で経済ニュースの解説などをしており、お茶の間の人気者でもありました。村上氏とのやり取りで、穏やかながらもタフな交渉人のイメージが定着したのです。

山本礼二郎氏は1984年一橋大学経済学部卒業後、ウォートン・スクールにてMBAを取得。三井銀行や経営コンサルティングのA.T.カーニーに勤めた後、ユニゾン・キャピタルの創立に関わりました。2004年にGCAを設立し、パートナーに就任。インテグラルを佐山氏と立ち上げ、共同代表を務めています。信和<3447>やアデランスの取締役などを歴任してきました。

業績面では、キュービーネットホールディングスや信和が上場した2018年12月期の売上が膨らんでいます。

■インテグラル業績推移(単位:百万円)

2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
売上高 812 1,518 2,664 954
営業利益 239 823 1,618 170
純利益 111 540 1,092 △166

決算公告より筆者作成

投資先は小売からシステム開発、外食、製造業など多岐に渡ります。

■インテグラル投資先一覧

企業名 業種 支援内容 投資時期 エグジット
ビー・ピー・エス 機械製造保守業 民事再生からの早期正常化を実現 2009年1月 自社株買いにより株式を部分譲渡
ヨウジヤマモト ラグジュアリーファッションブランド 業容適正化等を含む100日プランの実行を支援 2009年12月 -
シカタ バッグの企画製造・小売 代表取締役社長を派遣し創業者から次世代経営陣への円滑な事業承継を支援 2010年11月 2018年イデアインターナショナルへ譲渡
ティー・ワイ・オー TV-CM・広告等の企画制作 中期経営計画の策定を支援 2010年12月 2013年に全株式を売却
APAMAN 住宅賃貸斡旋・管理 不動産売却、子会社再編、M&Aの企画立案・実行、IR活動の企画・実行を支援 2011年3月 -
ファイベスト 光電子部品の開発・製造販売 企画管理部門の責任者を派遣し管理部門を強化、キャッシュフローの改善を支援 2011年10月 2015年にM/A-COM Technology Solutions Holdings, Incへ全株式を譲渡
TBIホールディングス 飲食店チェーン 常勤取締役を派遣。グループ全体の経営企画機能の中枢を担い、経営戦略・組織戦略の策定に加え、エンタメコラボ・インバウンド集客等の推進を支援 2013年9月 -
信和 建築足場の製造 常駐者を派遣し国内営業の強化/海外展開/新規事業に関する戦略立案・実行を支援 2014年9月 2018年に東証二部上場
コンヴァノ ネイルサロンチェーン 常駐者を派遣し中期経営計画の策定、上場に向けて管理・運営体制の強化を支援 2014年10月 2018年にマザーズ上場
キュービーネットホールディングス ヘアカットチェーン 上場に向けて管理体制・運営体制の強化を支援 2014年12月 2018年に東証一部上場
スカイマーク 運輸業 航空会社 常駐者を派遣し、再生対応、管理部門強化、業務提携協議等の支援 2015年2月 -
ジェイトレーディング 水産物卸とマグロ養殖 垂直統合モデルへの転換/海外展開/新規事業に関する戦略立案・実行を支援 2015年2月 2018年にJcapitalへ全株式を売却
イトキン 婦人服等の企画製造・小売 会長含む取締役3名・常駐者2名を派遣し収益力改善に向けた取組みを支援 2016年2月 -
アデランス 総合毛髪関連事業(ウィッグ、植毛等) 成長支援、株式譲渡 2016年11月 -
大泉製作所 電子部品製造業 成長支援、株式譲渡 2016年12月 -
ダイレクトマーケティングミックス 営業・マーケティングに関するコンサルティング、BPO事業、人材派遣事業 常勤者を派遣し、運営体制・管理機能の強化、その他重要施策についての実行を支援 2017年9月 2020年に東証一部上場
ビッグツリーテクノロジー&コンサルティング システム開発・コンサルティング 成長支援、株式譲渡 2018年8月 -
東洋エンジニアリング プラントエンジニアリング 社外取締役・常駐者を派遣し、事業運営サポートや経営ノウハウ・人的ネットワークを提供 2019年3月 -
日東エフシー 肥料メーカー 取締役を派遣し、経営テーマを推進 2019年6月 -
サンデン・リテールシステム 流通システムの製造販売 常駐者を派遣し、経営テーマの推進をサポート 2019年10月 -
JRC 製造業・ロボットシステムインテグレータ 成長支援、株式譲渡 2020年1月 -
豆蔵ホールディングス システム開発・ITコンサルティング 取締役及び常駐者を派遣し、投資テーマの実行を支援 2020年3月 -
T-Garden 消費財 企画・販売業 常勤取締役を派遣し、運営体制及び管理機能の強化、その他投資テーマの実行を支援 2020年3月 -

ホームページより筆者作成

売上高600億円のスカイマークが1,800億円の投資

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空港から人が消えた(画像はイメージ Photo by PAKUTASO)

スカイマークは1996年に設立された新興航空会社でした。1986年の航空輸送業の規制緩和によって誕生したLCCの先駆けです。2000年にマザーズに上場し、2013年に東証一部へと市場変更しています。スカイマークは2015年に経営破綻しますが、原因は高額な航空機への大型投資に踏み切ったことです。

2011年ごろから、ピーチ・アビエーション(大阪府泉南郡)やジェット・スター(成田市)などが続々と格安航空機業界に乗り込んできたことで、スカイマークが得意としていた国内の航空業界に価格破壊が起こっていました。スカイマークは国内線の競争力を上げようと、エアバスの中型機A330を投入。更に、国際線へと舵を切ります。その切り札として投入したのが、世界最大の旅客機エアバスA380でした。300億円の機体を6機導入して総額1,800億円、スカイマークの2012年3月期の売上は600億円。会社の規模を超えた巨額の投資となりました。

安倍政権が発足したことによる円安ドル高政策で、ドル建てだった機体費用が嵩み、燃料費の高騰も打撃となりました。スカイマークは2機の購入延期と4機のキャンセルを申請したものの、契約違約金が発生してしまいます。やがて運転資金を失い、民事再生手続きをすることとなったのです。

インテグラルは破綻したスカイマークに50.1%出資しました。その他、ANAホールディングス<9202>が16.5%を出資しています。会長にはインテグラルの佐山氏、社長には日本政策投資銀行で日本航空やエア・ドゥの再生支援を行った市江正彦氏が就任しました。スカイマークが倒産に追いやられた原因は身の丈に合わない機体への投資。債務が圧縮されたことにより、これまで通りの運航をし、健全な経営をすれば利益が出る体質になります。スカイマークは2019年10月に再上場の申請をしました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で旅行者が消滅し、2020年4月に申請を取り下げました。

スカイマークは従業員の削減はしないとしています。国内線がメインだったため、需要の戻りが比較的早いと予想しているのでしょう。事実、スカイマークは平時で1日当たり平均2万2,000人を輸送していたところ、コロナ禍の10月で1万人前後にまで回復しました。しかし、第3波が到来してGo To トラベルキャンペーンは一時中断となりました。再び暗雲が立ち込めています。

この難局を佐山氏はどう乗り越えるのか。最大の試練の行く末に注目が集まっています。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由