Uberが「虎の子」貨物事業の優先株で5億ドルを調達した理由

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米配車サービス大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ、以下ウーバー)は2020年10月2日、貨物事業であるUber Freight(ウーバーフレイト)のシリーズA優先株を発行し、5億ドル(約530億円)を調達した。主力の配車サービス事業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で低迷する中、貨物事業はフードデリバリー(配食)事業のUber Eats(ウーバーイーツ)と同様に受注を伸ばしている。

なぜ好調な貨物事業の株を放出した?

ウーバーフレイトへの出資比率は過半数を維持するとはいえ、なぜウーバーは長期化するコロナ禍でも利益を出せる「虎の子」の貨物事業の優先株を発行し、第三者に手渡してしまったのか?実は売り上げを伸ばしているとはいえ、ウーバーフレイトは赤字だ。

ウーバーの2020年第2四半期(4〜6月)決算によると、ウーバーフレイトの調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の赤字幅は、同第1四半期の6400万ドル(約68億円)から第2四半期は4900万ドル(約52億円)に縮小している。

これまでは、こうした新規事業の赤字は好調な配車サービス事業が穴埋めをしていた。ところが同事業はコロナ禍で人の移動が激減したため、苦戦が続いている。ウーバーの配車サービス事業の売上高は同第1四半期の16億6000万ドル(約1750億円)から同第2四半期には7億3700万ドル(約780億円)と半分以下に激減した。同事業の同第2四半期調整後EBITDAは5000万ドル(約53億円)の黒字にすぎず、新規事業を支える余裕はなくなっている。

ウーバーの稼ぎ頭である配車サービス事業は、コロナ禍により全世界で大打撃を受けた(Photo by Alper Çuğun)

グループ企業の株式譲渡や売却で資金を確保

ウーバーフレイトは2017年の設立で、2018年8月に事業部門として独立した。事業独立後は荷物の探索とフィルタリングを簡単にカスタマイズできる新ナビゲーションシステムの開発や、カナダや欧州へ年間2億ドル(約211億円)以上を投資して進出するなど、事業拡大のための投資を進めている。

今回の優先株発行は、ウーバーフレイトの新規投資をウーバー本体が支えきれなくなったことを示す。ウーバーは7月に米料理宅配サービス4位のポストメイツを26億5000万ドル(約2800億円)で買収することでも合意している。これは貨物事業同様に好調な配食事業のウーバーイーツを強化するための買収で、今後もグループ内でこうしたM&A資金が必要になるのは間違いない。

つまり「自分の食い扶持(ぶち)は自分で稼げ」ということだ。日本でもLINE<3938>子会社の出前館<2484>がウーバーイーツ(おそらく日本事業のみ)の買収を検討しているとの一部報道もあった(出前館は否定)。配食事業も、いずれはウーバーから「独立採算」を求められるだろう。

とはいえ、貨物事業も配食事業もローカルの同業他社との競争が激しく、そう簡単に黒字を計上できそうにない。そうなればウーバーフレイトのように優先株を発行して譲渡するか、ウーバーイーツで噂されている地域子会社の売却、あるいは新規株式上場(IPO)による資金調達しか道はなさそうだ。

コロナ禍でも高成長の配食事業・ウーバーイーツもローカル同業者との競争が厳しい(Photo by DMCA

ウーバーフレイトのシリーズA優先株式を引き受けたのは、米投資会社のGreenbriar Equity Group(グリーンブライアー・エクイティ・グループ)率いる投資家グループ。同社のマネージングパートナーであるMichael Weiss(マイケル・ワイス)氏とJill Raker(ジル・レイカー)氏が、ウーバーフレイトの取締役会に加わる。

文:M&A Online編集部