M&Aの現場で耳にする2つの「5%ルール」

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M&Aの世界で「5%ルール」と言えば…?

M&Aの現場では「5%ルール」と言う場合、次の二つがあります。一つは、金融商品取引法(証券取引法)の大量保有報告制度で通称「5%ルール」と呼ばれるもの。もう一つが、独占禁止法(※)の議決権保有規制の「5%ルール」です。

同業他社から競合する事業を買収する場合に、独占禁止法に抵触していないかどうかが問題となります。この独占禁止法の「5%ルール」には例外規則が設けられており、一般事業会社の再生支援の局面では、銀行・保険会社の議決権保有規制が例外的に許可されます。

今回はこの「5%ルール」の例外規定と、今話題の事業承継との関連についてお伝えしたいと思います。

※独占禁止法の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。

独占禁止法の「5%ルール」とは何か

独占禁止法第11条では、銀行又は保険会社(外国会社を含み、保険会社からは少額短期保険業者を除きます。以下同じ。)は、国内の一般事業会社の総株主の議決権の5%(保険会社は10%)を超えて保有等することを原則として禁止しています。

禁止の理由は、銀行・保険会社による事業支配力の過度な集中を防止するためです。さらに、銀行・保険会社と一般事業会社との間で議決権保有による密接な関係が生じると、融資に偏りが生まれて、一般事業会社間で競争上の問題が発生することを防止するためであるとも言われています。

なお、同様の規制は銀行法にも定められています。ただし、独占禁止法が単体規制のみであるのに対して、銀行法での議決権保有規制は銀行とその子会社も合算して、一般事業会社の議決権の5%を超えて保有等することが禁止されています。

図1 銀行法による議決権保有制限(5%ルール)の概要

銀行法による議決権保有制限(5%ルール)の概要
出典:金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室「事務局説明資料」(平成24年10月10日)P1

「5%ルール」の例外とは

しかし、議決権保有規制には例外があります。具体的には、①あらかじめ公正取引員会の認可を受けた場合②適用除外事項に該当する場合該当する場合 議決権保有等が可能となります。(以下①、②は、公正取引委員会の「独占禁止法第11条の規定による銀行又は保険会社の議決権の保有等の認可についての考え方」(最終改正:平成22年1月1日)に基づくものです)。

この「①あらかじめ公正取引員会の認可を受けた場合」とは、次の場合をいいます。

1 認可を申請する銀行又は保険会社(以下「申請会社」という。)により総株主の議決権の5%超の議決権を保有等されることとなる株式発行会社の業績が不振であり、申請会社が株式発行会社の総株主の議決権の5%超の議決権を保有等することが、株式発行会社の信用を維持するために必要であると認められる場合(株式発行会社が清算中又は清算予定である場合を含む。)
2 申請会社は、その保有等する株式発行会社の議決権のうち5%を超える部分に相当する株式を市場で売却することとしているが、超過額が大きく、市場での売却に相当の期間を要すると考えられる場合
3 株式発行会社の株式が上場されていない等株式発行会社側の状況により、申請会社がその保有等する株式発行会社の議決権のうち5%を超える部分に相当する株式を市場で売却することが困難であり、相対で株式を売却しなければならない場合であって、超過額が大きく、売却に相当の期間を要すると考えられる場合(条例等により株式の譲渡制限がある場合を含む。)

上記に該当しない申請についても、次の点を考慮して、個別に認可の可否が検討されます。

・申請会社による議決権の保有等の必要性
・当該議決権の保有等による申請会社の事業支配力増大のおそれの有無及びその程度
・株式発行会社の属する市場における競争への影響

次に「②適用除外事項」には、次の事項が該当します。

1 担保権の行使による株式の所有等
2 代物弁済の受領による株式の所有等
3 自己の株式の取得
4 信託財産としての株式の所有等
5 他の国内の会社の事業活動を拘束するおそれがない場合として公正取引委員会規則で定める場合(債権の株式化()による議決権保有)

※デット・エクイティ・スワップ(DES)による議決権保有で、1年超保有は承認制。

<事例>法第11条第1項ただし書きの規定により認可申請する必要がある会社の例

<事例>法第11条第1項ただし書きの規定により認可申請する必要がある会社の例
出典:公正取引委員会「銀行又は保険会社の議決権保有等に関する認可制度」

これらの例外から分かることは、業績不振会社の再建のためや、担保権の実行、DES等の事由により取得した株式など会社の再生支援のためであれば、一時的に銀行・保険会社が一般事業会社の議決権保有をすることが許可されているということです。

事業承継問題と「5%ルール」

以上のとおり、一般事業会社の再生支援の局面では、銀行・保険会社の議決権保有規制が例外的に許可されるということがお分かりいただけたかと思います。

この延長にある議論が、事業承継支援の局面で「5%ルール」をどう考えるかというものです。

事業承継支援は、今や日本における喫緊の課題となっており、中小企業庁は、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とし、支援体制および支援施策を抜本的に強化していく方針を固めています。

(参考)「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画)」(平成29年7月)http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170707shoukei1.pdf

金融庁は、金融機関や経済界からの意見として、事業承継の場面で後継者が株式を集約するにあたり、資金的余裕がない場合に金融機関が一時的に株式を保有等し、適切なタイミングで後継者に売却することにより円滑な事業承継支援が可能になる点について取り上げた上で、「事業承継の支援に伴って取得・保有する株式に係る議決権を、5%ルールの例外とすることについてどう考えるか。」と提言しています。

(参考)金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室「事務局説明資料」(平成24年10月10日 P.11)http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/ginkou_wg/siryou/20121010/01.pdf

銀行・保険会社が事業承継支援局面で、一般事業会社の株式の保有等を「5%ルール」の例外とすることについて、改めて考える時期が来ていると言えそうです。

まとめ:M&A Online編集部