トヨタ「EVに本気出す」発表会で気になった三つの疑問

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「いよいよ電気自動車(EV)で本気出す!」トヨタ自動車<7203>が12月14日、「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開いた。2030年のEV世界販売目標をこれまでの200万台から2倍近い350万台とし、EV30車種を展開すると発表した。車載用電池を含めたEV関連投資は4兆円に達するという。これまでの「トヨタはEVには消極的」との評価を覆すような内容だが、疑問も残る。

1.なぜ目標が全体の3分の1程度に留まるのか?

豊田章男社長は会見で「350万台というのは、ものすごい台数だ」と強調したが、トヨタの2030年の年間販売台数が現在とほぼ同じ1000万台とすると、EVの比率は約3分の1となる。ハイブリッド車(HV)を含むエンジン車の販売台数は、EVの約2倍となる計算だ。

4月にホンダ<7267>が2040年までにHVを含むエンジン車の販売を終了し、EVと燃料電池車(FCV)の比率を100%にすると発表した。トヨタが2030年に全体の3分の1をEVに切り替えたとして、その10年後の2040年にその比率がどうなるのかは明らかにされなかった。

豊田社長は「世界各地でインフラ整備の状況が異なる。どこでもEVが便利なわけではない」と指摘しており、完全なEVシフトを考えているわけではなさそうだ。一方で「市場の動向を見ながら対応していく」とも強調しており、EVの販売比率がさらに上昇する可能性も否定していない。

2.EVの販売増で下請けの雇用はどうなる?

トヨタのEV販売は一気に150万台増える。そうなると気になるのはトヨタ系部品メーカーへの影響だ。豊田社長は「EVシフトが急速に進むと、自動車産業で大量の雇用が失われる」と警告していた。トヨタでもEVシフトの加速で、エンジンまわりや燃料系を中心とする下請け部品メーカーへの発注が減少することになる。

雇用問題を理由にEVシフトに警鐘を鳴らしていた豊田社長だけに、説明会で何らかの下請け支援策も提示するのかと思われた。しかし、具体的な言及はなく、報道陣からの質問に「仕入先企業と時間をかけて話し合う」と述べただけだった。トヨタの下請け企業には不安が残る内容といえよう。

EVで仕事がなくなる下請けの業種転換やM&Aによる工場や生産技術、従業員の他社への移管などが考えられるが、現時点では「白紙」のようだ。ただ、豊田社長は日本自動車工業会会長としても同様の発言を繰り返しており、何らかの支援策を打ち出して実行する道義的責任はある。

3.実際のところ、どこまでトヨタはEVシフトに本気なのか?

トヨタは国内外のメディアから「EVに消極的だ」と報じられてきた。今回の会見は、そうしたネガティブな報道を否定するためのイベントだった側面は否めない。では、トヨタのEVシフトは本気なのか?発表会で数十台の(おそらくは)モックアップを披露するなど演出は華々しかったが、それで本気度は判断できない。

むしろ本気であれば、そうした「手の内」を見せないとも考えられる。公開されたモックアップもそのほとんどはデザインコンセプトであり、量産車とはかなり異なるはずだ。自動車メーカーの商品計画は「秘中の秘」であり、堂々と公開することはないからだ。

派手な発表会だけでトヨタの本気度は判断できない(同社ホームページより)

4兆円の開発費にしても、質疑応答で「全てを使うわけではない」ことが明らかにされた。説明会ではEV開発で開発開始から発売までのリードタイム短縮を重視する姿勢を示している。EV市場の動向を見ながら、最適のタイミングで新車を投入するというわけだ。

「EVが売れるようなら、すぐさま新車を投入する」ことになる。これを「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給するジャストインタイム戦略」と見るか、「消極的な様子見の姿勢」と見るかで本気度の評価は変わるだろう。

ただ、EV市場は急成長を続けており、世界各国のエンジン車に対する環境規制も厳しくなる一方だ。EVが新車販売シェアでエンジン車を追い抜く可能性は高い。そうなれば、仮にトヨタの本音が「様子見」だとしても、「本気」を出さざるを得ないことは間違いなさそうだ。

文:M&A Online編集部