【製造業】2021年のM&A取引金額ベスト3は?

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2021年の製造業におけるM&Aは総じて小ぶりに(写真はイメージ)

2021年の製造業におけるM&Aの取引金額トップは、米ベインキャピタルを中心とする日米連合が4月28日に日立金属を買収すると発表した案件だった。

日立御三家がTOBで売却へ

ベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)を通じて日立金属の発行済み株式の47%をおよそ4300億円で買い付ける。そのうえで日本産業パートナーズ(東京都千代田区)など日本の投資ファンド2社と組んで、親会社の日立製作所が保有する残る53%の株式を約3800億円で取得し、日立金属を完全子会社化する。買収総額は約8100億円。

日立はグループ事業の再編を進めており、前年には日立化成を昭和電工に売却している。日立金属は1956年に日立の鉄鋼部門が分離独立して発足。日立グループではかつて日立金属、日立電線(日立金属と2013年合併)、日立化成が「御三家」と呼ばれていた。

このTOBは2021年11月下旬に開始する予定だったが、一部の国で競争法に基づく手続きなどが完了していないため実施が先延ばしされている。

第2位はルネサスエレクトロニクスが2021年2月に英アナログ半導体大手のダイアログ・セミコンダクターを約6100億円で買収すると発表した案件。2017年に米インターシル、2019年に米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーの米アナログ半導体大手2社を買収したのに続く大型案件だ。

「攻めるM&A」のルネサスには懸念も

「攻めるM&A」を展開するルネサスだが、一連の巨額買収に伴うのれん代は同社の純資産を上回る1兆円超に達している。ルネサスは国際会計基準(IFRS)を採用しているため、のれんを償却する必要はない。

その代わり、のれんの「根拠」となる収益力や両社のシナジーが毀損していないかを確認する「減損テスト」が課される。テストの結果「のれんの価値がない」と判定されると、一気に減損しなくてはならない。

仮にのれんの大幅な減損処理を迫られた場合、ルネサスが債務超過に陥るリスクもある。

3位はブリヂストンが屋根材製造の米国子会社ファイアストン・ビルディング・プロダクツ・カンパニーを、スイスの建材メーカーLafargeHolcim Ltdに約3500億円で売却した案件。

ブリヂストンは2021年12月期決算で、売却益約2000億円を計上する。同社は子会社の売却により、タイヤ・ゴム事業の収益力の再構築や新たな事業領域への戦略的成長投資が可能になるとしている。

今年の製造業におけるM&Aでは、前年のソフトバンクグループによる半導体設計会社英アームの米エヌビディアへの売却(取引金額約4兆2000億円)など前年に2件あった1兆円を超える超大型案件は姿を消した。

2021年の金額トップ案件ですら前年では3位に該当する金額にすぎない。総じて製造業のM&Aが「小ぶり」な1年だったと言えるだろう。

●2021年 製造業のM&A取引総額ランキング

順位 M&A取引内容 取引総額(億円)
1 米ベインキャピタル、日米連合で日立金属を買収 8,100
2 ルネサスエレクトロニクス、アナログ半導体大手の英ダイアログ・セミコンダクターを買収 6,262
3 ブリヂストン、屋根材製造の米国子会社ファイアストン・ビルディング・プロダクツを譲渡 3,500
4 ENEOSホールディングス、英資源開発子会社のJXNEPUKを売却 1,920
5 資生堂、パーソナルケア事業を欧州投資ファンド大手のCVCキャピタルに譲渡 1,600
6 日本ペイントホールディングス、仏建築用塗料メーカー「クロモロジー」を買収 1,510
7 クボタ、印トラクターメーカー大手「エスコーツ」を買収 1,406
8 帝人、武田薬品工業から2型糖尿病治療薬4製品の国内製造販売承認と特許を取得 1,330
9 ENEOSホールディングス、JSRからエラストマー事業を取得 1,150
10 三菱ケミカルホールディングス、結晶質アルミナ繊維事業を米アポロ・グローバルに譲渡 850

文:M&A Online編集部