【ヘルスケア】2021年のM&A取引金額ベスト3は?

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ヘルスケア業界のM&AではMBOとTOBに大商いが…(写真はイメージ)

2021年のヘルスケア業界におけるM&Aでの取引金額トップは、帝人が2月26日に発表した医薬品子会社の帝人ファーマ(東京都千代田区)を通じて武田薬品工業から2型糖尿病治療薬4製品の製造販売承認を取得した約1330億円。帝人ファーマは代謝・循環器を重点疾患領域の一つとしており、ブランド力のある糖尿病治療薬を取り込むことで、医薬品事業の基盤維持・強化を狙う。

シャイアー買収の負債を事業売却で穴埋め

帝人ファーマが取得する2型糖尿病治療薬は「ネシーナ錠」「リオベル配合錠」「イニシンク配合錠」「ザファテック錠」で、経口で血糖降下作用をもたらすDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害剤とその配合剤を含む製品群で、インスリン不足などの特徴がある2型糖尿病患者に国内外で使われている。直近売上高は308億円。武田薬品は譲渡後も引き続き当該製品を製造し、帝人ファーマに供給する。

事業売却する武田薬品はかつて糖尿病治療薬を重点領域としていたが、現在はノンコア(非中核)の位置づけ。2019年に6兆円超を投じたアイルランド製薬大手シャイアーの買収で膨らんだ負債の圧縮に充てる。

取引金額2位は新薬開発支援などを手がけるEPSホールディングスが5月27日にMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化すると発表した約625億円。同社創業者で現在会長の厳浩氏が代表を務める新鷹(東京都新宿区)がTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化を目指す。TOB成立後のEPSに対しては新設会社を通じて医薬品卸大手のスズケンが20%出資し、EPSはスズケンの持ち分法適用関連会社となる。EPSはTOBに賛同した。

新薬開発の治験支援など主力事業を取り巻く環境変化に的確に対応し、中長期的な成長につなげるためには非公開化を通じて柔軟かつ機動的に経営判断できる体制が望ましいと判断。2021年5月に創立30周年の節目を迎え、株式の非公開化を「第2の創業」の契機とする。

調剤薬局・ドラッグストアのM&Aは激減

取引金額3位はアジア投資会社のMBKパートナーズが2月8日に介護事業のツクイホールディングスの完全子会社化を目的にTOBを実施すると発表した約490億円。介護事業を取り巻く環境変化を踏まえ、非公開化で機動的な意思決定を可能にする経営体制づくりを進める。ツクイはTOBに賛同した。

創業家の資産管理会社で25.58%を所有する筆頭株主の津久井企画はTOBに応募せず、TOB後にツクイが実施する自己株式取得に応じて全株式を売却。これに伴い、津久井宏社長CEOは退任した。6月17日には東証1部の上場を廃止している。

ツクイは1969年に土木工事の津久井土木として設立。その後、1983年に介護事業に進出し、在宅介護、通所介護、有料老人ホームなどを幅広く手がける。2004年に株式を店頭登録し、ジャスダックなどを経て2012年に東証1部に上場した。

一方、昨年までは業界再編が激しかった調剤薬局・ドラッグストアのM&Aは激減している。買い手はココカラファインとクオールホールディングスがそれぞれ2件、ウエルシアホールディングスが1件だった。取引金額はすべて非公表または未確定。再編が一段落したのか、それともコロナ収束後に再び活発化するのか、2022年の動向が注目される。

●2021年 ヘルスケアのM&A取引総額ランキング

順位 案件内容 取引総額(億円)
1 帝人、武田薬品工業から2型糖尿病治療薬4製品の製造販売承認を取得 1,330
2 EPSホールディングス、MBOで株式を非公開化 625
3 MBKパートナーズ、ツクイホールディングスをTOBで買収 490
4 東和薬品、米カーライル・グループ傘下で健康食品・医薬品受託製造の三生医薬を買収 477
5 ペプチドリーム、富士フイルム富山化学の放射性医薬品事業を取得 305
6 投資会社ユニゾン・キャピタル、訪問看護のN・フィールドをTOBで買収 155
7 アステラス製薬、欧州などで販売する感染症治療薬など5製品を譲渡 126
8 介護事業のユニマット リタイアメント・コミュニティ、TOBで非公開化 60
9 科研製薬、創薬バイオベンチャーのARTham Therapeuticsを買収 55
10 アルフレッサホールディングス、第一三共から長期収載品11製品を取得 47

文:M&A Online編集部