国産次世代半導体メーカーRapidusが直面する二つの難関

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「日の丸半導体」は輝きを取り戻すのか?(Photo By Reuters)

「日の丸半導体」再び! 国内を代表する大手8社の出資で誕生した半導体製造企業「Rapidus」。経済産業省は11月11日、同社を2nmプロセス以下の次世代ロジック半導体の製造基盤確立に向けた研究開発プロジェクトに採択した。「ポスト5G基金事業における次世代半導体の研究開発プロジェクト」として、700億円の開発費を投入する。経産省はこれにより「10年の遅れを取り戻す」と鼻息も荒いが、夢の実現には「二つの難関」が立ちふさがっている。

「船頭」が多すぎる!

最初の「難関」は。Rapidusの「生い立ち」にある。同社は東芝<6502>傘下のキオクシアやソニーグループ<6758>、ソフトバンク<9434>、デンソー<6902>、トヨタ自動車<7203>、NEC<6701>、NTT<9432>、三菱UFJ銀行の8社が出資している。業種もバラバラで、求める半導体も異なる。ゲーム機と通信機器、自動車、IT設備では、要求性能や価格帯が変わってくるのだ。

当然、出資各社は自社が必要とする半導体の生産を優先するよう求めるだろう。例えば自動車向けの半導体は低コストと厳しい環境下でもトラブルが起こらない堅牢性を最優先するが、ゲーム機やIT設備ではコストが高くて堅牢性が損なわれても、処理能力の高さを重視する。

どの半導体をどれだけ製造するのか、複数の半導体を製造する場合の優先順位などで出資企業の意見が分かれ、経営戦略が混乱する懸念もある。事実、NECと日立製作所<6501>、三菱電機<6503>のDRAM事業を統合したエルピーダメモリは経営が混乱。2009年2月に産業活力再生法の適用を受け、公的資金を注入して経営再建に乗り出した。

しかし、経営は好転せず、事業再構築計画も変更を余儀なくされた。2012年2月には東京地方裁判所に会社更生法適用の申請して、事実上倒産した。同7月に米マイクロン・テクノロジの完全子会社となり、マイクロンメモリジャパンに社名変更している。

ルネサスエレクトロニクス<6723>は、日立と三菱電機、それにNECからスピンオフしたNECエレクトロニクスのシステムLSIやマイコンといったロジック半導体事業を分社・統合して設立された。が、経営悪化により2013年9月に供給先のトヨタや日産自動車<7201>など9社を割当先とする1500億円の第三者割当増資を実施。産業革新機構が筆頭株主となって経営再建に乗り出した。

両社とも同業の親会社がたった3社でも、経営方針がまとまらなかった。一方、Rapidusは異業種の親会社8社で、出資額は3億円の三菱UFJ銀行を除けば10億円と横並び。出資会社の意思統一と経営の主導権という「日本企業的な問題」に頭を悩ませることになる懸念は払拭できない。

新幹線工費を超える巨額資金調達をどうする?

もう一つの「難関」は資金調達だ。世界最先端となる2nmプロセス以下の次世代半導体の製造には、巨額の設備投資が必要になる。台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)の2022年設備投資額は400億ドル(約5兆6000億円)。半導体需要見通しの悪化を受けて、当初計画よりも40億ドル(5600億円)ほど減少したにもかかわらず、この金額だ。

これに対してRapidusは資本金が73億円、経産省のプロジェクト開発費を加えて773億円。11月8日に閣議決定された補正予算案で、半導体の研究開発や生産の拠点を整備するための費用などに約1兆3000億円を計上したが、それらを引っくるめてもTSMCが1年に費やす投資額の4分の1未満だ。TSMCに匹敵する設備投資をしなければ、最先端の半導体製造で世界のライバルたちと戦うことはできない。

5兆円と言えば、未着工の山陰新幹線(大阪〜鳥取〜松江〜下関、路線距離約550km)の総工費3兆910億円を上回る。国家プロジェクト級の巨額投資だが、最先端の半導体製造ではこれを1年で使い果たす。Rapidusに、その資金調達のめどはついていない。

かつて世界を席巻した「日の丸半導体」が没落したのは、台湾や韓国メーカーとの設備投資競争についていけなかったから。半導体は装置産業であり、最新の生産設備を大量導入した企業しか生き残れない。設備投資に投入する「資金問題」を解決しない限り、海外メーカーとの競争で勝てる見込みはない。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う「巣ごもり」や「リモートワーク」などに伴う需要の急増で生じた半導体不足や、中国を念頭に置いた地政学的リスクによるサプライチェーン(供給網)の寸断といった有事対応で議論が始まった国産ロジック半導体構想。

生産規模を最小限に抑えて投資額を少なくする方法もあるが、量産効果が薄れて製品価格は上がる。確かに有事であれば、高くても国内ユーザーが購入してくれるだろう。だが、平時はどうか。ユーザーも熾烈(しれつ)な国際競争にさらされている。海外から安価な半導体が調達できるのに、「有事に備えて」という理由だけで割高な国産半導体を購入してくれるだろうか。

久々の明るい話題となった国産半導体構想だが、経営の主導権と資金調達という二つの「難関」を突破しない限り、かつてのエルピーダやルネサスの「二の舞」になりかねない。本格的な稼働開始までに、出資企業と国は徹底的に議論し、明確な解決策を打ち出す必要がある。

文:M&A Online編集部

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