【2022年TOB】59件に4年ぶり減少 「敵対的」もゼロに|東洋建設攻防は越年

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2022年TOBで金額トップは日立物流を対象する案件だった(写真は東京・京橋の同社本社)

2022年のTOB(株式公開買い付け)状況は前年と打って変わり、ほぼ無風が続き、波立つ場面はほんのひと時だった。最多タイで前年5件あった敵対的TOBが6年ぶりのゼロとなった。また、予定通りに株式を買い付けられず、TOBが不成立に終わるケースも最多だった前年7件から1件に減った。

MBOも3割減る

TOBの総件数は59件(届け出ベース、自社株買いは除く)。2021年は70件と2009年(79件)以来12年ぶりの高水準を記録していたが、こちらは10件超の落ち込みとなった。コロナ禍をはさんで2019年46件→20年60件→21年70件と右肩上がりが続いていたが、4年ぶりに減り、一服感が広がった形だ。

その一因はMBO(経営陣による買収)の減少。年間12件と3年連続の2ケタは確保したが、これまでの最多に迫った前年の19件から後退した。株式を非公開化し、上場企業の看板を返上するのがMBO。東証の市場区分見直し(2022年4月)で上場企業としてのハードルが高くなることを見越し、駆け込みがあった前年の反動もあったとみられる。

日立関連が1、2位を占める

金額1位は日立物流、2位は日立金属を対象とした案件(一覧表)で、それぞれ買付総額は3000億円を優に超えた。日立製作所による上場子会社再編・整理の総仕上げをなすもので、いずれも米投資ファンドが関与した。日立物流(4月にロジスティードに社名変更を予定)にはKKR、日立金属(1月にプロテリアルに社名を変更)はベインキャピタルがTOBを実施した。

日立がグループ改革に着手した2009年当時、上場子会社は22社を数えたが、グループからの離脱組は日立金属、日立化成(現レゾナック・ホールディングス)、日立物流など半数以上の12社、日立ハイテク、日立建機など残る10社が完全子会社化・合併、持ち分法適用関連会社化でグループに残留した。

一方、MBOではATグループの非公開化案件が最も大きく、800億円近くに上った。投資ファンドが関与しないMBOとして過去最大だった。ATグループはトヨタ車を販売する最有力ディーラー。国内自動車市場の縮小やトヨタ自動車による「全車種併売化」のスタートを受け、傘下の4販売会社統合などの経営改革を迅速に進めるには非公開化が必要と判断した。

シダックス、TOB反対を撤回

2022年を通じて、“きわもの”の案件が皆無だったわけではない。給食大手シダックスに対する食品宅配大手オイシックス・ラ・大地のTOBがそれだ。オイシックスはシダックス創業家と連携し、筆頭株主の投資ファンドから株式27%余りを買い取るのを目的とした。ところが、シダックス取締役会が反対を表明し、一時、敵対的TOBに発展。志太勤一会長兼社長ら創業家と取締役会の対立が表面化する事態を招いたが、最終的に「反対」が撤回され、10月末にTOBが成立した。

敵対的TOBは日本で長らくタブー視されてきた。国内初の買収防衛策発動で知られる「ブルドックソース事件」が起きた2007年の5件をピークに、以降は年1件前後で推移。それが2019年3件を境に動意づき、20年5件、21年も5件で高止まりしていたが、22年は0件と意外な結果となった。

東洋建設とYFOの攻防は越年

前田建設工業を中核とするインフロニア・ホールディングスが海洋土木大手の東洋建設に実施したTOBは買付金額が最大580億円に上る規模だったが、唯一、不成立(5月)に終わった。TOB開始後、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」が東洋建設株を急ピッチで買い進め、阻止する動きに出たのだ。一敗地にまみれた前田建設だが、2020年には持ち分法適用関連会社の前田道路への敵対的TOB買収を成功させ、インフロニアの発足にこぎつけている。

東洋建設を巡っては続きがある。YFOは東洋建設にTOBを提案し、両社はいまだに協議中。YFOは東洋建設の賛同を前提としており、これまでにTOB開始時期を4度延長。決着は2023年に持ち越した。

◎2022年TOB・買付総額上位10(HDはホールディングスの略)

対象企業 公開買付者 買付総額 買付後の出資比率
1 日立物流 米KKR 3820億円 91.02%
2 日立金属 米ベインキャピタル 3319億円 88.97%
3 近鉄エクスプレス 近鉄グループHD 1443億円 92.12%
4 ATグループ 経営陣(MBO) 797億円 96.67%
5 ユーザベース 米カーライル・グループ 536億円 93.92%
6 プレナス 経営陣(MBO) 489億円 89.64%
7 シノケングループ 経営陣(MBO) 487億円 93.52%
8 キトー 米KKR 433億円 77.15%
9 アイペットHD 第一生命HD 387億円 99.23%
10 ALBERT アクセンチュア 382億円 93.57%

文:M&A Online編集部