【2022年M&A】72件増の949件も、金額24%減|武田とソニーが5000億円台で1、2位

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武田薬品工業(左)とソニーグループの本社ビル

2022年のM&A件数(適時開示ベース)は前年比8.2%増の949件と前年(877件)に記録したリーマンショック(2008年)後の最多を大幅に更新した。海外案件は落ち込んだが、国内案件が高水準で推移し、全体の件数を押し上げた。一方、年間の取引金額は24%減の6兆5612億円で、こちらは2015年(6兆1831億円)以来の低水準にとどまった。

夏場以降、勢いを増す

上場企業の適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

2022年は2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、同時期に円安に火が付いた。こうした情勢下、M&A件数は2月から3カ月連続で前年を下回り、ペースダウンする場面があったが、一進一退を経て、夏場以降は月を追って勢いを増した。この結果、年間件数は前年を72件上回る949件と1000件を視野に入れるレベルまで積み上がった。

コロナ1年目の2020年(4件減の849件)こそ足踏みしたものの、21年は反転し、22年はさらに躍進を遂げた形だ。経済活動の正常化、アフターコロナを見据え、産業界の旺盛なM&A意欲が浮き彫りになった1年といえる。

インバウンド比率、2年連続40%台

2022年のM&Aでは見どころの一つが新型コロナ禍で落ち込んだ海外案件の行方だった。しかし、年間の総件数949件のうち、海外案件は前年比8件減の156件となり、前年の回復傾向から一転し、コロナ前の2019年(199件)の水準が再び遠ざかった。ウクライナ危機による地政学的リスクの高まり、記録的な円安進行といった新たな事態が重しになったと考えられる。

これに対し、国内案件は同80件増の793件と活況を呈し、国内主導の展開が前年にも増して鮮明になった。

海外案件についてはコロナ禍を境に内容変化が著しい。日本企業が買い手のアウトバウンド取引が伸び悩む一方で、外国企業が買い手のインバウンド取引が高止まりしている。インバウンド比率は42%で、2年連続で40%を超え、コロナ前に比べてほぼ倍増している。日本企業が不採算の海外子会社・事業を売却する動きが目立つ。

1兆円超のメガ案件が7年ぶりゼロ

2022年の取引金額は前年を約2兆1000億円下回る6兆5612億円。総件数が大きく伸びた割に、金額は伸び悩んだ。1兆円を超えるメガ案件が7年ぶりに姿を消し、数千億規模の大型案件も3割ほど減少した。

金額トップは米国の創薬企業ニンバス・セラピューティクスの子会社「ラクシュミ」を約5485億円で買収する武田薬品工業の案件。2023年3月末までに買収完了を見込む。武田は2019年1月に6兆2000億円でアイルランド製薬のシャイアーを傘下に収めたが、これ以来の大型M&Aとなる。

武田に次ぐのがソニーグループ。米国ゲーム開発企業バンジーを約5140億円で買収した。ソニーにとってゲーム事業は稼ぎ頭の一つ。今回のバンジー買収は同社のゲーム事業として過去最大となる。

4000億円台には、米投資ファンドKKRによる日立物流へのTOB(株式公開買い付け)を通じた非公開化、丸紅による米穀物子会社の売却、オリンパスによる科学事業(祖業の顕微鏡など)の売却が続いた。

翻って2021年は日立製作所が米国IT企業のグローバルロジックを1兆円超で買収するのを筆頭に、8000億~6000億円台の案件が2位から5位に並んだのに比べると、2022年はスケールの点で見劣りが否めない。

セブン&アイ・ホールディングスは傘下の百貨店「そごう・西武」(東京都豊島区)を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却することになった。売却金額は企業価値2500億円をベースに有利子負債などを調整したうえで最終確定するが、2000億円超とみられている。

また、金額非公表ながら、オリックスが化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC、東京都港区)を買収する案件は3000億円規模が見込まれている。

◎2022年:M&A金額上位30

順位 社名 概要 金額 発表
1 武田薬品工業 米国の創薬企業ニンバス・セラピューティクス傘下の「ラクシュミ」を子会社化 5485億円 12月
2 ソニーグループ ゲーム開発の米国バンジーを子会社化 5140億円 2月
3 日立物流 米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が日立物流をTOBで非公開化 4492億円 4月
4 丸紅 傘下の米穀物大手ガビロンを再編してカナダ同業大手バイテラに譲渡 4300億円※ 1月
5 オリンパス 祖業の顕微鏡など科学事業を米投資ファンドのベインキャピタルに譲渡 4276億円 8月
6 横浜ゴム スウェーデンの農機タイヤメーカー、トレルボルグを子会社化 2672億円 3月
7 セブン&アイ・ホールディングス 傘下の「そごう・西武」を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに譲渡 2500億円※ 11月
8 近鉄グループホールディングス 近鉄エクスプレスをTOBで子会社化 1680億円 5月
9 商船三井 コンテナターミナル事業の米国子会社インターナショナル・トランスポーテーションを2社に譲渡 1669億円 10月
10 日本製鉄 日鉄物産をTOBで子会社化 1365億円 12月
11 三菱商事 不動産運用子会社の三菱商事・ユービーエス・リアルティ(東京都千代田区)を米KKRに譲渡 1157億円 3月
12 東芝 空調事業子会社の東芝キヤリア(川崎市)を合弁相手の米キヤリアに譲渡 1000億円 2月
13 日本製鉄 タイの電炉メーカー大手のGスチールとGJスチールを子会社化 880億円 1月
14 第一生命ホールディングス ニュージーランド生命保険大手パートナーズ・グループを子会社化 856億円 8月
15 ノジマ 伊藤忠商事傘下で携帯販売大手のコネクシオをTOBで子会社化 854億円 12月
16 リコー 富士通傘下でスキャナー大手のPFU(石川県かほく市)を子会社化 842億円 4月
17 ニコン ドイツの3Dプリンター大手SLMソリューションズ・グループを子会社化 840億円 9月
18 ATグループ MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化。ATグループはトヨタ自動車の有力ディーラー 828億円 2月
19 日東電工 英国包装・製紙大手のモンディから衛生材料事業を取得 804億円 2月
20 積水ハウス 米国の戸建住宅会社チェスマーホームズを子会社化 687億円 6月
21 エイチ・アイ・エス 大型リゾート施設「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を香港投資ファンドのPAGに譲渡 666億円 8月
22 ミライト・ホールディングス 西武ホールディングス傘下の西武建設(東京都豊島区)を子会社化 620億円 1月
23 ユーザベース 米投資ファンドのカーライル・グループがオンライン経済ニュース「NewsPicks」運営のユーザベースをTOBで子会社化 614億円 11月
24 プレナス MBOで株式を非公開化。プレナスは持ち帰り弁当「ほっともっと」、定食「やよい軒」を運営 598億円 10月
25 関西ペイント アフリカの塗料子会社2社をオランダ化学大手のアクゾノーベルに譲渡 585億円 6月
26 インフロニア・ホールディングス [不成立]海洋土木の東洋建設をTOBで子会社化 579億円 3月
27 キトー 吊り具メーカーの米クロスビーと経営統合(クロスビー側がTOBを実施) 564億円 5月
28 大和ハウス工業 ホテル子会社の大和リゾート(東京都千代田区)をシンガポール系企業の恵比寿リゾート(東京都港区)に譲渡 556億円※ 12月
29 MS&ADインシュアランスグループホールディングス 米国の再保険仲介トランスバースを子会社化 542億円 8月
30 シノケングループ 国内投資ファンドのインテグラルと組んでMBOで株式を非公開化。シノケンは投資用アパート大手 533億円 8月

※企業価値(その他の場合を一部含む)を表す。有利子負債などを調整したうえで取引金額を確定する。

文:M&A Online編集部