​2020年第2四半期 TOBプレミアム分析レポート

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1. 2020年第2四半期のTOB総評

◆TOB件数は前年同期より4件多い9件(表1)で、2010年以降の11年間では2013年と並ぶ4番目の水準。一方、買付総額は3816億200万円。上半期(1-6月)累計では、すでに前年通期(1-12月)を2466億円上回る1兆9539億円と過去11年間での最高となった(表6)。グループ再編案件ながら、3000億円を超える大型TOBが総額を押し上げた。

◆このうちMBO(経営陣による買収)件数は全体の22.2%に当たる2件だった(表2)。

◆総プレミアム平均は30.94%と2020年第1四半期(33.45%)を2.51ポイント下回った。これは米金融会社エボリューション・フィナンシャル・グループによる経営再建中の米楽器大手ギブソンブランズが持つ音響機器メーカー・ティアック株のTOB(-58.73%)が押し下げたため。
一方、ポジティブプレミアム平均は48.88%と同四半期(36.84%)を12.04ポイント上回っている。ライクによるライクキッズのTOB(70.28%)が押し上げた(表4)。

◆注目されたTOBは、介護大手のニチイ学館が株式の非公開化を目指すMBO。株価が買付価格を上回る1600円〜1700円前後で推移しているため、TOB(株式公開買い付け)期間を7月9日、8月3日と2度延長している。買付価格は1株あたり1500円と同じ。買付総額は約742億円が見込まれる。

もう一つは新潟県をはじめ日本海側を中心に38店舗のホームセンターを運営するアークランドサカモトが、関東を主体に東海、近畿などに100店舗を展開するLIXILグループのLIXILビバを完全子会社化する案件。「小が大を飲む」M&A下剋上として話題になった。

◆TOB買付総額トップはソニーが上場金融子会社であるソニーフィナンシャルホールディングスにTOBを実施して約3215億円で完全子会社化する案件。
2位はアークランドサカモトによるLIXILビバを約433億円で完全子会社化する案件。
3位は野村総合研究所が連結子会社のだいこう証券ビジネスにTOBを実施し、約96億9000万円で株式所有割合を51.78%から93.69%へ引き上げた案件。だいこう証券ビジネスは7月29日に上場廃止となる。

2-1. TOB件数の推移

◆表1 TOB件数の推移
(届出ベース、公開買付開始日が2020年4月1日~6月30日 非上場および不成立案件含む)

2-2. MBO件数の推移

◆表2 MBO件数の推移(届出ベース、非上場および不成立案件含む)

3. 2020年第2四半期の主なTOB

◆表3 話題となったTOB

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
ニチイ学館<9792>※進行中 BCJ-44(ベインキャピタル) MBO 1500円 1155円 29.87% 38.89% 31.9
3%
8.77%

・ニチイ学館の森信介社長ら経営陣が、ベインキャピタルと組んでMBOによる非公開化を目指している。ベインキャピタルの傘下企業がTOBを通じて約75%の株式を取得し、残りの株式は筆頭株主で創業家の資産管理会社から買い取る計画。7月9日に2度目の延長をしたが、前日8日のニチイ学館株の終値は1591円と買付価格を上回り、TOBへの応募が見込めない状況。ただ、株価は一時1700円台に乗せたものの、その後は軟調に転じて8日は1600円を割り込んだ。7月28日時点でも1600円前後で推移している。このMBOをめぐっては香港の投資会社が「買付価格は2400円が妥当」として、買付価格決定の過程について公正さを問う書簡を公表している。

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
ソニーフィナンシャルHD<8729> ソニー 完全子会社化 2600円 2412円 7.79% 30.78% 33.06% 14.7
9%

・ソニーが金融子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH)に対しTOBを実施、完全子会社化した。ソニーは金融事業をエレクトロニクス、エンターテインメントと並ぶコア事業と位置づけ、親子上場の解消により迅速で柔軟な意思決定ができる経営体制を構築する。TOB前のソニーのソニーFH株所有割合は65.04%で、TOBにより全株式の取得を目指した。ソニーFHはTOBに賛同を表明し、7月13日にTOBが成立。8月31日に上場廃止となる。

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
LIXILビバ<3564> アークランドサカモト 完全子会社化 2600円 2587円 0.5% 11.54% 31.05% 27.51%

・LIXILビバの株式はLIXILグループが53.22%、アークランドサカモトが1.33%を所有している。アークランドサカモトは519億円を投じて、残りの45.45%をTOBで買い付ける。そのうえでLIXILグループが所有する全株式をLIXILビバが約566億円で自己株取得するが、アークランドサカモトはLIXILビバに自己株取得のための資金を提供するためLIXILグループは同額のキャッシュを得る。買収総額は約1085億円に上り、今年発表されたグループ企業再編を除く国内企業間のM&Aとしても最大規模に。ホームセンター業界で現在、アークランドサカモトは第11位、LIXILビバは第6位で、両社合計の売上高は3000億円を突破し、大手勢の一角に食い込む。7月21日にTOBは成立、11月の完全子会社化を目指す。LIXILビバは上場廃止となる見通し。

4. 買収プレミアム(TOB)の推移

◆表4 買収プレミアムの推移(非上場および不成立案件を除く、2020年7月27日現在)

総プレミアム平均 ポジティブプレミアム平均*
2014年 25.40% 36.70%
2015年 29.20% 39.90%
2016年 26.36% 40.85%
2017年 23.32% 34.90%
2018年 26.65% 35.76%
2019年 32.64% 35.05%
2020年 1Q 33.45% 36.84%
2020年 2Q 30.94% 48.88%

*ポジティブプレミアム平均は、ディスカウントTOBを除く

5. 買収プレミアム(TOB)の分布水準

◆表5 TOBプレミアムの構成比(非上場および不成立案件を除く)

6. TOB買付総額の推移

◆表6 TOB買付総額の推移(不成立案件を除く)

データ・文:M&A Online編集部

【ご利用上の注意】

※2020年4月1日から2020年6月30日に公開買付が開始された案件を集計対象としている。ただし自社株TOBは対象外である。
※プレミアム算定に採用している株価は特に断りがない限り、公表日前3カ月平均株価(終値)としている。
※プレミアム算定に非上場企業、不成立、公開買付中の案件は含まれない。

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