最近の新幹線建設は、なぜこんなにも「時間がかかる」のか?

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東海道新幹線は着工から5年、山陽新幹線は8年で開業したが…

新幹線の延伸ラッシュが近づいている。2022年秋に西九州(長崎)新幹線が武雄温泉駅から長崎駅(66km)までが部分開通し、その半年後の2023年3月には北陸新幹線が金沢駅から敦賀駅(125km)まで延伸する。しかし、全線開通は西九州新幹線が2034年、北陸新幹線はルートも決まっておらず見通しすら立っていない。なぜ、新しい新幹線の工事には時間がかかるのか?

東海道5年、山陽8年、西九州は117kmで26年

事実、最初に完成した東海道新幹線は1959年に着工し、わずか5年後の1964年に完成した。その後の新幹線は、徐々に工期が長引く。山陽新幹線は8年、上越新幹線は東海道・山陽の半分の路線長にもかかわらず11年かかった。西九州新幹線に至っては、わずか117kmの工事に26年もかかる見通しだ。

工事区間 着工年 完成(予定)年 工期 路線長(km)
東海道新幹線 東京〜新大阪 1959 1964 5 515
山陽新幹線 新大阪〜博多 1967 1975 8 553
上越新幹線 大宮〜新潟 1971 1982 11 269
東北新幹線 東京〜新青森 1971 2010 39 674
北海道新幹線 新青森〜札幌 2005 2031 26 360
西九州(長崎)新幹線 新鳥栖〜長崎 2008 2034 26 117

「種明かし」をすれば、後発の新幹線工事が「遅い」のではなく、東海道新幹線の工事が「異常に早かった」のだ。東海道・山陽新幹線には前身となる路線計画があった。1940年に着工した「広軌幹線鉄道」いわゆる「弾丸列車」計画である。

弾丸列車が東海道新幹線の工期を早めた

弾丸列車は東京駅〜下関駅(山口県下関市)間の984kmを結ぶ高速鉄道で、最高速度は時速200km、東京駅〜大阪駅間を4時間30分、東京駅 〜下関間を9時間で結ぶ計画だった。将来は関釜連絡船や関釜海底トンネル経由で北京などへの直通運転も計画されていたため、大陸と同じ軌間1435mmの標準軌を採用。現在の新幹線に近い仕様だった。

太平洋戦争の戦況悪化で1943年に弾丸列車の工事は中断されたが、東海道区間の用地はほとんどが強制的に買収されており、新丹那トンネル、日本坂トンネル、東山トンネルなどの工事も始まっていた。そのため、正式着工からわずか5年という短期間で完成したのだ。

戦争で中断したとはいえ、事実上の東海道新幹線着工から完成までには24年かかっている。戦争で中断していなかったとしても、弾丸列車の全線開通は1954年の予定だったので東海道新幹線と山陽新幹線の大半を完成するまでに14年を要する見通しだった。

一方、山陽区間は戦前の用地買収が一部に留まったため、弾丸列車の路線を変更。トンネル主体とすることで瀬戸内沿岸の市街地を避け、用地取得にかかる時間を短縮して8年で完成にこぎつけた。山陽新幹線のトンネル区間が占める割合は、50.8%と半分を超えている。

東北新幹線や北海道新幹線は高度成長期に完成した東海道・山陽新幹線、バブル景気前に完成にこぎつけた上越新幹線と異なり、国鉄の分割民営化やバブル崩壊後の長期低迷期に当たったことから建設費が絞り込まれ工期が長引いた。

西九州新幹線はミニ特急方式かフル新幹線方式かで地元自治体が一致せず、北陸新幹線では敦賀駅〜新大阪駅間の路線誘致合戦が繰り広げられておりルート自体が決まっていない。いわば政治的な理由で工期が長引いている。

文:M&A Online編集部