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国内大手資産運用会社、「物言わぬ株主」からの脱却相次ぐ

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焦点:国内資産運用大手「物言わぬ株主」脱却、統治改革の担い手に

山崎牧子

[東京 27日 ロイター] - 「物言わぬ株主」と揶揄(やゆ)されてきた日本の大手資産運用会社が、株主総会で投資先企業の取締役選任案に反対する事案が相次いでいる。背景にあるのは、安倍晋三政権時代に導入された機関投資家の行動規範。議決権行使内容の開示が求められ、会社側の案を追認するだけでは済まなくなった。海外ファンドによる株主提案に賛同するケースも増え、日本企業の統治改革を後押ししている。

今年注目された株主総会の1つが、6月下旬に開かれたエレベーター大手のフジテック。総会開始の1時間前に会社が社長の取締役再任案を取り下げる異例の事態が発生した。

同社は創業家との不透明な取引が問題視され、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが社長再任の反対運動を展開していた。オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者によると、多くの日本の機関投資家がこの動きに賛同。フィッシャー氏は、「この5年間、国内運用会社が経営陣に反対を表明することが確実に増えている」と話す。

運用会社は、個人や年金基金から資金を預かって運用し、投資先企業の株主総会で議決権を行使する。日本銀行が上場投資信託(ETF)を通じて保有する株式の議決権行使をも担い、その影響力は高まっている。

3月に開かれたⅠTベンダーの富士ソフトの株主総会では、大株主の3Ⅾインベストメント・パートナーズがコーポレートガバナンス(企業統治)向上を目的に提案した社外取締役候補が4割近くの高い賛同率を獲得した。会社側は反対したが、三菱UFJ信託銀行やアセットマネジメントOne、日興アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントなどが賛同した。

オアシスや3Ⅾなど「物言う株主」の投資ファンドからの提案が日本で可決された例は、アイ・アールジャパンによると過去4件のみだが、国内運用会社が是々非々で判断する姿勢はこうした提案にも追い風となっている。

運用会社が議決権を厳しく行使するようになったのは、「アベノミクス」の成長戦略の一環として機関投資家の行動規範、スチュワードシップコードが導入された2014年以降。17年の改訂では、議案ごとに賛否の開示が求められるようになった。「開示した側に説明責任が生じ、個々の議案に対する機関投資家のコミットメントが上がったのではないか」と、東京海上アセットマネジメントの菊池勝也理事は言う。

複数の運用会社の議決権担当者によると、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や地方公務員共済組合連合会などの年金基金も、委託する運用会社の評価基準の一つとして議決権の行使内容を重視するようになっている。

大和総研の吉川英徳主任コンサルタントは、「14年以前は、外国人投資家の議決権行使が厳しいという声を発行体から頻繁に聞いたが、17年辺りから、どちらかというと国内の方が厳しいという声が出てきた」と指摘する。

英コンサルティング会社スクエアウェル・パートナーズは、TOPIX100に組み込まれた企業の取締役選任案に対する議決権行使内容を分析。昨年までの3年間の平均賛同率は日興アセットが94.2%、三井住友DSアセットが88.9%で、米大手ブラックロック(99.7%)やバンガード(99.9%)よりも会社側に厳しい判断をしていることが分かった。

日本の運用会社が投資先企業に求めるガバナンスの基準はさらに厳しくなりそうで、ニッセイアセットマネジメントの伊豫田拓也チーフアナリストは、社外取締役の割合の基準が過半まで引き上がる可能性があると指摘する。取締役会の多様性についても「対象が女性だけでなく、将来的には外国人などに広がってもおかしくない」と、伊豫田氏は話す。

(山崎牧子 編集:久保信博)

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