米マイクロソフト、過去最高額となるアクティビジョン買収に前進

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マイクロソフトが「コール・オブ・デューティ」などの人気ゲームを開発したアクティビジョン買収に「王手」(Photo By Reuters)

米マイクロソフト(ワシントン州)は、同社にとって過去最大規模となる690億ドル(約9兆5,000億円)を投じる米ゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの買収実現に向けて前進しつつある。

FTCによる買収仮差し止め請求は棄却

米サンフランシスコの連邦地方裁判所は7月11日、米連邦取引委員会(FTC)による買収仮差し止め請求を棄却した。これを受けてアクティビジョン株は同日のニューヨーク株式市場で一時12%急伸し、ザラ場(寄り付きと引けの間の取引時間)ベースで52週高値(過去1年間の高値)をつけた。

FTCは上級審に当たる控訴裁判所に控訴するが、上訴中の買収取引の停止は認められず。連邦高裁に動きがなければ、マイクロソフトとアクティビジョンは、日本時間15日午後3時59分時点で取引を完了できる。

アクティビジョンのボビー・コティック最高経営責任者(CEO)は12日、FTCによる買収差し止め請求の棄却を受け、「当局から完全な承認を得ることを楽観している」と述べた。

ナスダックは7月17日の市場が開く前に、ナスダック100を含む4指数からアクティビジョンを除外すると発表した。このことから、マイクロソフトによる買収が近いうちに完了する可能性が高いと推察できる。

「コール・オブ・デューティ」などの人気ゲームを有するアクティビジョン・ブリザード
「コール・オブ・デューティ」などの人気ゲームを有するアクティビジョン・ブリザード(同社ホームページより)

他方、買収を承認していない英競争・市場庁(CMA)は「マイクロソフトとの交渉のテーブルに戻る用意がある」と、態度を軟化させている。

マイクロソフトのアクティビジョン買収に係る欧米当局の承認状況
日本 承認
EU 承認
米国 控訴するも取引停止は認められず→控訴審も却下
英国 裁判所が買収差し止め停止→再交渉へ

※図は各種資料より筆者作成

独禁法違反の回避策を打ったマイクロソフト

アクティビジョンは、毎月のプレーヤーが1億人を超す「億ゲー」の「コール・オブ・デューティ」や「キャンディークラッシュ」など、数々のヒット作を抱える。このことにより、マイクロソフトが人気作品を囲い込むといった競争上の懸念を持たれ、欧米当局が買収を阻止しようとしている。

ただし、今回のアクティビジョン買収を巡っては、マイクロソフトが1998年に独禁法違反で提訴されるなど過去の独占を巡る苦い経験を教訓にしているようだ。独占批判を回避するための動きとして、アクティビジョンの人気タイトルを自社のゲーム機「Xbox」で独占せず、他社との提携を進めている。既に任天堂やエヌビディアなどの競合企業に「コール・オブ・デューティ」を10年間供給する契約を締結した。

この取り組みを踏まえ、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は買収を承認している。各国で買収承認へと流れが傾きつつあるなか、態度を軟化させたCMAとの交渉においても、マイクロソフトが一部の条件を譲ったうえで改めて取引の提案を行うのではなかろうか。

調査会社スタティスタによると、世界のゲーム市場は2023年から2027年の5年間のCAGR(年平均成長率)7.89%で成長する見通しである。特にゲーム市場の中で最大規模となるモバイルゲームは、アクティビジョンが強みを持つ分野であり、更なる成長が見込まれる。

アクティビジョンはマイクロソフトのゲームサービス「Xboxゲームパス」向けに人気タイトルを供給し、マイクロソフトが出遅れるモバイル分野を補完できるであろう。優秀なクリエーターを擁してもいる。買収契約の期限は18日に迫る。これを過ぎたら契約を更新する必要がある。引き続き、買収動向から目が離せない状況だ。

文:フォルトゥナ