衆院選はコロナの「予想外の収束」と「第6波懸念」で早まるかも

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決選投票にまでもつれ込んだ自由民主党総裁選挙が岸田文雄氏の勝利で終わり、10月4日に予定されている臨時国会で第100代首相に就任する。次は間近に迫った衆議院選挙だ。8月下旬には自民党がぎりぎりまでの先延ばしを模索。衆院任期満了日の10月21日に解散し、史上初の任期超えとなる11月28日投開票を目指す動きもあった。ところがこの1カ月で状況は一変。自民党が衆院の早期解散・総選挙に傾き始めているという。理由はコロナ禍だ。

「新しい選挙の顔」と「コロナ収束」が衆院選を前倒しに

そもそも8月に段階では菅義偉首相が総裁選で勝利し、衆院選に臨む方針だった。それゆえ過去最大の感染拡大となったコロナ「第5波」の影響を薄めるための「先送り」が既定路線になったという。ところが総裁選での苦戦が予想された菅首相が、8月末に「9月解散」で総裁選なしに衆院選へ突入しようとした。

これに衆院選での惨敗を懸念する自民党内から異論が噴出する。菅首相は解散権を封じられ、総裁選不出馬を表明。新人4人による総裁選に突入した。この総裁選が報道で大きく取り上げられ、新体制をアピールできた自民党がイメージアップに成功する。

菅首相の退任が決まったことで「衆院選先延ばし」は消えた(自民党ホームページより)

岸田首相という新しいリーダーの下で衆院選を戦うことになれば、「ご祝儀」で支持率が跳ね上がる就任直後が有利だ。読売新聞社の世論調査によると、菅政権も発足直後は74%という圧倒的な支持率だった。「選挙の顔」が変わった以上、その「鮮度」が落ちないよう1日でも早く投開票に持ち込むのが「セオリー」だ。

そして自民党が解散・総選挙を早めようとする最大の理由は、安倍・菅政権を苦しめてきた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行のピークとなった「第5波」の急速な収束だ。政府は9月末で4回目の「緊急事態宣言」を全面解除。しかし、これでコロナ禍が完全に収束したとは限らない。

「第6波」と衆院選が重なるのが自民党最大のリスク

釜萢(かまやち)敏日本医師会常任理事が新規感染者がなぜ激減したのか「解析したいが、分からないことだらけだ」と語るように、「第5波」が収束した理由は分かっていない。感染拡大を食い止めるメカニズムが分からない以上、「第6波」の到来も十分に予想される。

菅首相が推進したワクチン接種が国内の新規感染拡大を食い止めているのは事実だが、日本よりも接種率が高い欧米諸国でも感染が再拡大した。「ワクチンがあるから、もう安心」というわけではない。

自民党が懸念するのは、衆院選を11月末近くまで引き伸ばした場合、「第6波」と時期が重なる懸念があることだ。コロナ禍が「谷」のうちに衆院選を終えてしまう方が、与党にとっては有利になる。現時点では11月7日投開票が本命視されている。これは自民党が8月に検討していた11月28日よりも3週間も早い。

さらに「第6波」と投開票が重なるリスクを最小限に抑え込むため、主要国首脳会議(G20)に重なる10月31日に前倒しされる可能性もある。

こうした状況の変化に、立憲民主党をはじめとする野党も主張を変えつつある。当初は総選挙の先延ばしを牽制(けんせい)して「任期を超えた衆院選は憲法違反」と批判してきた。しかし、最近では与党の早期解散・総選挙を警戒して、臨時国会では予算委員会などで十分な審議時間を確保するよう要求している。

選挙対策として経済活動を急ピッチで回復させるため、政府がコロナ関連規制を一気に緩和するかもしれない。そうなれば自民党の支持率は持ち直し、「惨敗は必至」といわれていた衆院選で健闘する目も出てくる。ただ、こうした緩和がコロナ「第6波」の引き金になる可能性もゼロではない。

選挙対策として「Go Toトラベル」など景気刺激策の復活もありそう(Go Toトラベルホームページより)

自民党が衆院選で勝利した後ならば、「第6波」が到来しても首相が解散権を行使するか内閣不信任決議案が可決されない限り、4年間は政権を維持できる。ただ、それと引き換えに日本のコロナ禍はさらに長引き、深刻な状況に陥りかねないリスクをはらむ。

文:M&A Online編集部