東京五輪「全選手に毎日PCR検査」で懸念される最悪の事態とは

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新型コロナウイルスの猛威が続く中、政府や東京都は東京五輪の開催に向けて準備を進めている。昨年は2021年6月末までに、ほぼ全ての国民がワクチン接種を終えて五輪開催を迎える予定だったが、ワクチン調達の遅れで不可能に。代わって東京五輪に参加する選手や関係者全員に毎日PCR検査を実施するなどの感染防止策を徹底し、コロナ禍での開催を目指す。

「バブル方式」での五輪開催を目指す

これは2020年後半からコロナ下でのスポーツの国際大会で採用された「バブル方式」の開催手順によるもの。同方式は2020年8月のテニス全米オープンで採用され、日本でも11月に体操の国際大会で採用された。

「バブル」とは外界と完全に遮断された競技環境を指す。選手や関係者を大きな泡(バブル)で包み込むイメージだ。参加する選手と関係者は出国の2週間前から行動制限やPCR検査を義務付けられ、入国後はチームごとにホテルのフロアを貸し切り、警備員を配置して外部との接触を完全にシャットアウトする。

東京五輪では選手の行動範囲を競技会場と練習会場、選手村に制限し、移動も専用車両のみで、外部の人間との接触を徹底的に防ぐ。

しかし、問題はこれまで「バブル方式」で開催した国際大会と比べると、オリンピックの競技規模が桁違いに大きいことだ。日本で同方式の開催実績がある体操の国際大会の参加者は米国、ロシア、中国などの約80人の選手と関係者。東京五輪には選手だけで1万1000人もおり、関係者を含めるとさらに増える。

五輪開催中に感染拡大したら抜き差しならぬ事態に

現実にPCR検査一つをとっても、感染拡大の第4波に突入し、3回目の緊急事態宣言が出された東京都での検査件数は4月27日で9074件。現時点での実施件数を上回るPCR検査が五輪会場内で必要となる。東京都のPCR検査能力の全てを東京五輪に振り向けたとしても、対応できるかどうか微妙だ。

大会組織委員会は選手に対するPCR検査を「少なくとも4日に1度」としていたが、五輪によるコロナ感染の拡大を抑え込みたい政府の強い意向で「毎日検査」に切り替えたという。

だが、1日1万件のPCR検査を狭い競技場と選手村内で実施するには、検査会場の確保や混雑の緩和、練習スケジュールとの調整など難題が山積している。検査待ちで選手や関係者が密集して、コロナ感染のクラスターが発生しようものなら本末転倒だ。

さらに五輪期間中に東京都内で現在のような感染拡大が起こったら、住民そっちのけで五輪選手にPCR検査を実施することの是非も問われるだろう。つまり、東京五輪で選手・関係者全員にPCR検査を実施するには、会期中に東京都内のコロナ新規感染者数がほぼゼロに近いことが前提となる。

とはいえ、その唯一の解決策はワクチン接種による集団免疫の獲得であり、それが間に合わない日本としては「運まかせ」なのが実情だ。もし五輪開催中に東京都でコロナの感染拡大が起こったら、「バブル方式」での運営を中止するか、都民のPCR検査を受け付けないかの2択しかない。

「バブル方式」が破綻すればワクチンを接種していない選手・関係者はコロナ禍に放り出されることになり、PCR検査を受け付けないとなると感染拡大を助長することになる。与党内から「東京五輪中止」の声が上がるのも、そうした絶体絶命の状況に直面する可能性が高いからなのだ。

文:M&A Online編集部